第172話 ダルタスの昔話にキレるルミアーナ
リゼラから聞いた話はルミアーナを怒らせるには十分だった。
あらすじは大体こうである。
ダルタスは、十歳で学園の騎士学科にに入学。
学園では家名はふせ、身分により上下関係は存在しないというのが基本である。
つまり学園内では『実力が全て』である。
…というのは、あくまでも学園側の
身分の高い家の出の子はそれとなくそれを匂わせ周りをけん制し、自分にめったなことをしようものなら、学院を出た後にどんな目にあわせるられるか覚悟せよと匂わせるのである。
そして明らかに身分が低い…というのは身なりであったり、所作であったりであるが、むろんダルタスの所作に問題があった訳ではない。
敢えて言うなら頬に負った大きな傷である。
あんな傷があるのは、召使や護衛のいない貧乏貴族か下級貴族の出に違いないという勝手な思い込みである。
実際は公爵家跡取りで王族に次ぐ身分でしかも王位継承権五位という最高位貴族だったのだが、ダルタス自身はむろん、そんなそぶりを見せようとも思わなかったし、身なりにも学園にいる時はさほど気をつかわなかったので、入学から約一か月後には、ダルタスは下級貴族認定されてしまっていたようである。
ちなみにダルタスはそんな事、全く気にしていなかった。
特に誰かと仲良くなろうという気持ちすらなかったので、周りが多少色んな事で突っかかって来ても「またか…」と思うだけだったようである。
実技の授業の時にダルタスの剣が木刀にすり替えられていたり、ノートや本が破かれていたり実に子供じみた悪戯だが、まだ十歳…気の弱い子供ならそれだけで学園をやめたくなったことだろう。
しかしダルタスは、本がなければ教師から借りて授業分をその授業の前の日までに書き写してやり過ごした。
特に深く悩むこともなく予習が出来たと思う程度で何も感じてなかったようだった。
クラスには少ないが女子もいたが女子の対応はさらにひどかった。
顔に傷のある少年…しかも身分も低そうだ。
少々、ひどい扱いをしたとしても後々、問題にもならないだろうと思ったようである。
「なぁに、あの顔あの傷!気味悪いったらありゃしない!」
「さっき目が、あっちゃった。おお、いやだ!」
そんな言葉を聞こえよがしに言うのだ。
これには、さすがにダルタスもへこんだ。
自分は目を合わせるだけで女子に不快な思いをさせるのだ…と、次第にダルタスは女子とは目も合わさないようになっていった。
そんな中、ダルタスは喋るのは、ほぼ男子だけで、それも自分から積極的にかかわろうとはしなかった。
それでも、実技、座学、共に抜きんでて優秀なダルタスはどうしても皆の注目を浴びていて、それは周りの嫉妬や偏見をさらに増長させていた。
ダルタスは女子とはなるべく距離をとるようにして過ごした。
女子が嫌いなわけではない。
実はダルタスは綺麗なものや可愛いものが大好きである。
自分が、女子に無体を働くなどありえないが、女子は不必要にも自分を警戒しまくるので、とにかく距離をとった。
…なので遠目で眺める。
うん、見てる分には可愛いなぁ…と思う。
でも、自分がそんな事を思っている事が知れたらどれほど嫌がられ不気味がられるか知っているダルタスは感情を極力、表に出さないようにしていた。
ある日、校内で学園のシンボルである聖獣の銅像の目に埋まっていた宝石がくりぬかれていた事件があったが、それもダルタスのせいではないかという噂が流れていた。
当時、仲が良いというほどでもなかったが、それなりに言葉をかわしている友人たち(クンテやツェンもそうだったが)やクラスメートはダルタスの生真面目な性格を知っていたので疑いはしなかったが、ほかのクラスの本人をよく知りもしない者たちの中には勝手な噂をする者も多かった。
結局、後々、その当時、学園に勤めていた用務員が、病気の娘の治療費に困窮した末の犯行だったことが分かったが、無責任な噂話をしていた者達がダルタスに頭を下げる事はついぞなかった。
だが、それすらダルタスは全く気にしなかった。
いつもの事だと受け流していた。
それどころか、その罪のせいで解雇されたその用務員の娘の治療費を出してやり、再就職にと学院の近くに住まうネルデア邸を紹介してやったのは皆に内緒の話である。
一番ひどかったのは、十三歳の頃、そう思春期の頃の女子たちの悪戯である。
そもそも騎士学科なので女子と言えども気の強いものが多い。
それは、ダルタスの顔は気味悪がっていても怖い訳ではないという女子達が、
そして、何だかんだいって女子に免疫のなかったダルタスはあっさり引っかかり利用されて終わった。
…と、いっても十三歳のお子様の頃の話である。
別段、密接な触れ合いがあった訳でも何でもない。
山での野営の実習中の事だった。
落馬して怪我で動けなくなったと嘘をついたロレッタという娘は、ダルタスに助けを乞いダルタスの方位磁石と馬を奪い野営地にもどった。
ダルタスは、その後、軽くため息をつき星を読みながら歩きで夜通しかけて野営地に戻った。
ついた頃には明け方だった。
ダルタスは教官から激しい叱責をくらったがロレッタの事を言いつけたりはしなかった。
もしかしたらダルタスの淡い初恋だったかもしれないが始まる前に終わったような感じだった。
そしてダルタスは思った。
女子が自分をどう思うか、それは『嫌悪』『憎悪』『貶め』の対象なのだろうと…。
さすがに、これはダルタスにとっては若干のトラウマとなった。
ルミアーナに恋請われてもにわかには信じられなかったのも無理はなかったのである。
その話を聞き終える頃、ルミアーナの部屋の床にはルミアーナの怒りを鎮めんと月の石がぼろぼろと沸いて生まれ出ていた。
掃除が大変である。
次回からこの手の話は外でするべきだと後悔したリゼラであった。
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