第171話 ダルタスの昔話

 翌日、夫ダルタスはいつものように仕事に行き夕方まで帰ってこない。


 穏やかな午後…ルミアーナはリゼラとフォーリーと三人でティータイムである。

 フォーリーがせっせとお茶とお菓子をセットする。


 今日の話題はダルタスの同窓会の話である。


「いきなり行ってもネルデア様はきっと喜んで迎えて下さるだろうけど、やっぱりいきなりは失礼よね?」

 ルミアーナが、週末の小旅行の前に、うきうきとフォーリーやリゼラに話しかける。


「そうですね。お手紙で先にお知らせしておいた方が」と、フォーリーが言うと


「そうですよ。息子のダルタス将軍がくるなら、きっとネルデア様も色々と腕によりをかけてお迎えしたいでしょうし、何といっても生き別れ同然の息子が可愛いお嫁さんと来るのですから」とリゼラも言う。


「なるほど!そうよね!」

 すぐさま、便箋を取り出し、週末に尋ねる旨をしたためる。

 リュートに頼めば一瞬で届けてくれるだろう。


「そういえば、さすがに、アルフ将軍や、カーク将軍は、もうそれぞれの領地に戻ってていないんでしょうね?」


 ふと、ネルデア邸での賑やかな時を思い出して二人の将軍の事を口にした。

 けっこう頻繁にネルデア様の所を訪れている印象だったが、さすがにあれから、ずっといる訳はないか…と思う。


 結婚式は人が多すぎてわからなかったけれど将軍らの姿は見かけていない。

 あの立派な体格とあの存在感!いたら気づきそうなものである。


「そりゃあ、そうですわ。ルミアーナ様、残念ですが、いたらびっくりですわ!いくら国内外が平和だといってもこの国の守りがずっと留守ってことですもの」と、リゼラも、何だかんだといいながらも将軍がたを気にいっていたのかため息混じりにそう言った。


「そうよね~、いい練習相手だったんだけどなあ、まあ休み中はダルタス様がお相手して下さるとは思うけれど」


「まあ、姫様、天下の三将軍を相手に武術の鍛練をなさるなんて、世界ひろしといえど、姫様以外、おられませんでしょうよ」と、フォーリーが、ちょっとだけ残念な子を見る目でみる。


「あはっ、そう言われればそうよね?」とルミアーナは、肩をすくめ、ぺろっと舌をだす。


「それにしても、ダルタス様の同窓会にルミアーナ様を伴って行かれると言う事は…悔しがる同窓生の間でダルタス様が勝ち誇る姿が目に浮かぶようですわね」と、リゼラが楽しそうに言った。


「へ?なんで?」


「そりゃあ、これまで、いくら将軍という地位についても、学生時代は身分も何も封印された状態でしたし、ダルタス将軍は、最初から目をつけられていて、”虐め”に近い…というか、殆んど”虐め”の状態で大変だったようですわ。」


「え?何それ?」


「学生時代は公爵や伯爵などの家の爵位は全て伏せられて、そこでは皆が平等なのです。学園内では規則で家名は名乗れません。…つまり誰がどの家の子かも分からず過ごします。そして残念ながらこの国は見た目至上主義なところがありますから…ダルタス将軍は…あのお顔の傷のせいかどうせ身分も低かろうと最初から虐めの対象にされていたようですわ」


リゼラは言葉を詰まらせながらそう言った。


「はぁあああ~?何それ!詳しく教えて!…っつか、リゼラ、何でそんなに詳しいの?」


「私の兄がダルタス将軍が在籍してらした頃、一年下の王太子様と同じ学年の騎士学科にいたのですわ」


「それで、なんで顔に傷があるくらいで身分が低かろうとか、虐めてやろうなんて話になるのよ?」


「ル、ルミアーナさま、お、落ち着いて!」


「これが、落ち着いていられますか!まさかリゼラのお兄さんまでダルタス様を虐めてたんじゃないでしょうね?」


「まさか!兄も私も、そんな浅はかなことは致しません。むしろ兄は、そんな周りの仕打ちをものともせず頭をしゃんとあげ、淡々とやりすごす先輩はすごい!と賞賛しておりましたもの」


「そう、なら、いいのよ、さすがはリゼラの兄上ね!それで?」


「は、はい、つまり、高位の貴族は小さい頃から召使や警備の者に守られて過ごします。ですから、その…ダルタス将軍のようにお顔にあんな大きな傷があるという事はきっと男爵以下の貴族でも特に身分の低い家の出であろうと思われていたのですわ」


「はぁあ~、馬鹿らしい話ね?そんなんで人を推し量るなんて」


「そう言う意味では今回は残念なことになってしまいましたけど、クンテ・ダートやツェン・モーラは、身分など知らぬ時もダルタス将軍とは比較的、良好な関係だったように聞いておりましたわ。だから先日の黒魔石の事件は兄も私も驚きました。…まぁ、良好…といってもダルタス将軍は誰とも一定の距離を保っていたようですが…」


「ルミアーナ様に恋したせいでおかしくなっちゃったんですかね?」と、フォーリーがちゃちゃを入れる。


「えっ?私のせいっ?」


「あ、いえ、そういう訳じゃ」


「そうです。ルミアーナ様のせいじゃありませんわ。クンテ・ダートはナルシストの傾向が強く、ダルタス将軍の出世となおかつルミアーナ様のような素敵な女性がダルタス将軍一筋で自分に粉粒程もなびかなかったのが、よほど悔しかったに違いありません。良好な関係とはいえ、自分の方が優位でいたかったのでしょう」と、リゼラが説明すると、フォーリーが苦い顔をしながら空になったティーカップにお茶をそそぐ。


「うわぁ、男の嫉妬って美しくないですわね」


「うん、全くよね!それで?もっと知ってること教えてちょうだい!リゼラ!」


「は、はい。ダルタス将軍がよもや公爵家のご出身とは思いもよらず、自分たちよりは下の身分と思いこんだ愚かな中位貴族以下のものたちは、事あるごとにダルタス将軍に、からんでいたようですわ」


「中位貴族以下?高位貴族は?」


「高位貴族の方々は多分、ダルタス将軍の立ち居振る舞いや何をされても言われても冷静な態度から、少なくとも高位の者であろうと気づいていたのかもしれません。それでなくとも高位の貴族の子は”虐め”などという品のない事に興味はなかったのでしょう」


「そうよね!でも具体的に虐めって何をされたの?ダルタス様は」


「それが…兄の話によるとダルタス将軍ご本人は全く”虐め”だとは認識していなかったようだと…」


「は?それって”虐め”なの?」


「はぁ、私が聞いた話は全部ではないのですが…」


「とにかく、知り得る事を全部話して!」


 そして、リゼラは兄から聞いたダルタスの学園生活を事細かに話した。

 それは、ルミアーナの、ささやかな?復讐劇の幕開けになるのだった。

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