第164話 クンテの言い分
ルミアーナはフードを深く被り、精霊のリュートと共に、ダルタス達にも内緒でクンテのいる地下牢へと向かった。
牢番はいたが、リュートの術で私たちは許可を得ていたかのようにするすると通過することができた。
リュートさえいれば牢破りも簡単にできそうである。
クンテの牢の前まで来たとき、ルミアーナは立ち止まり、何を言うべきか考えた。
勢いできたけれど…。
ただ聞きたかった。
何をどうしたくてダルタス様にあんなことをしかけたのか…。
そして二度とそんな真似ができないように釘をささなくてはと思っていた。
本当に似たもの夫婦である。
(お互い相手の事ばかり考えていながらも自分を卑下してしまっているのである)
カタン…と牢屋の扉があく音がした。
「ひっ、だ、だれ?」とクンテが小さく叫んだ。
リュートがまず牢の中に入り、ルミアーナの手をとって中へ招き入れた。
美しいリュートの姿にクンテは驚き身をすくめた。
いくらクンテが美形でも本物の精霊の美しさにはかなうはずもない。
そのリュートが恭しく手をひいてフードを深く被った女性が入ってきた。
「ルミアーナ・ラフィリアードですわ。クンテ様…お話を少しよろしいかしら?」
ルミアーナは、努めて冷たい抑揚のない声で声をかけた。
「えっ?ル、ルミアーナ様?」
「ええ、そう、あなたが害そうとしたダルタス様の妻ですわ」そう言いながらフードを外した。
「ひぃぃ!」とクンテは恐怖にひきつった声を上げた。
あ…へこむ!なにそれ!ホラー映画の恐怖シーンみたようなその感じ…とルミアーナは思った。
「失礼ね。あなたが投げつけた黒魔石の粉を受けたせいでこんな顔になったのに…」とルミアーナは努めて冷静にふるまうが、沸々と怒りがこみあげる。
「はっ!すっすみません!私は本当にあなたに当てるつもりは!」
「ダルタス様にぶつけるつもりだったということね?」
「そ…それは…はい…」
「余計悪いわ!許せない!」
「な、なぜ?なぜ彼なのです?王太子や王子ならまだわかる!どうして彼なのです?」
「そんなの誰よりもダルタス様が好きだからに決まってるじゃないの!」
「な!なぜ!?私は貴女の目を覚まさせようとしていたのです。」
「人の好みにとやかく文句をつけないでちょうだい!」
「で…でも、その顔の痣では…もうダルタスとも…」
「はぁ?」それをお前が言うか?と内心怒りマックスになるルミアーナだが、一応何を言うのか聞いてみることにした。
「わ…私が責任をとります。公爵家ほどでは、ありませんが辺境とはいえダート侯爵家でもそれなりに贅沢はさせて差し上げられますし…隠れ住まうには辺境のほうが…」
ルミアーナは、あからさまに怪訝な顔をした。
「?何をいっているの?」
「け…結婚の申し込みです」
「はぁ?私は結婚しておりますが?それにダルタス様は私に別れようなどとは言ってはいませんでしたわ」
「わかっております。あいつはそんな男ではない!きっと今回のことも責任をとるつもりなのでしょう。でも貴女様に傷をおわせそんな痣を作ったのは私です。私が責任を…」
どこまでも失礼な奴だとルミアーナは思った。
だが、ダルタスのことは、誠実な人だとは認識しているみたいである。
リュートが言っていたように確かに黒魔石の影響は、大分おさまってきているようだ。
けれど、もともと持っているダルタスへの劣等感から来る嫉妬心は、変わらないようである。
「責任などとらなくて結構、仮にダルタス様がこの痣のせいで私に離縁を申し渡すような事があったとしても貴方の嫁になどなりはしません!」とルミアーナがくっきりはっきり言い放つ。
「な、なんと、しかし、私が言えたことではないのは分かりきっていますが私もよく考えたのです。貴女にとって一番幸せな方法を…」
「はぁ?一応、話してみて下さいませ?聞いてみましょう?」と怒りで耳から血でも吹き出しそうなルミアーナだったが、一応この馬鹿な男の話を最後まで聞いてみようと思った。
「わたしが、貴女に傷を負わせたのは本当に申し訳なく思っています。あなたには一生消えない痣が残ってしまった。ダルタスだって美しいあなたに恋をしたのだと思います。そうでなくなった貴女はいずれ蔑まれるでしょう」
「…それで?貴方はそうならないとでも?」
「私には…私が貴女にそんな傷を負わせたという自覚があります。一生償っていかなければならない…」
「つまりは、それは責任感からですわよね?」
「そうです。貴方をないがしろにはしないとお誓いいたします。いずれ覚めるかもしれない愛情より確かではないかと…」
確かに言っている事は分からないではないが、罪の意識なんてものでの結婚なんてルミアーナには考えられない。
「ありえませんわ!そのような結婚をする位ならば、騎士にでもなりますわ。ダルタス様の愛情が得られないのなら私は一生独身でもかまいませんもの!」と宣言する。
「は?き…騎士?」クンテが訳がわからないというような顔をした。
修道女の言い間違いだろうかと困惑した。
その時、牢の外から割って入る声がした。
「何を馬鹿な事を!」
「えっ」と振り返ると、そこには血相を変えたダルタスが立っていた。
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