第132話 ティムン-1

 ルミアーナ姫様とダルタス将軍は、僕ティムンをつれてラフィリルの王都に帰ってきた。


 そして、お城にいく前にまずルミアーナ姫様の実家に立ち寄ることになった。


  僕は、つい昨日まで知らなくて”ミア姉さま”なんて、気軽に呼ばせてもらっていたけれど何と!ミア姉さまは実は、かの有名な”眠り姫”で、公爵家のお姫様だったのである。


  僕は、どきどきばくばくである。


  一応、生まれは”貴族”とは言え”没落貴族”の端くれである。

 しかも、家族は既に他界し、それを憐れんでくれたジャニカ皇国の第三皇子アルフォンゾ様に小間使いとして雇っていただいて暮らしていた訳で…。


 そんな自分がラフィリル王国のダルタス将軍とその奥様になるルミアーナ姫様と養子縁組をするという。


  恐れおおくて、いまだに信じられないし信じちゃダメだと思った。


 お二人は良くても、きっと王様とか、お二人の家族の方たちが反対するに決まってる。

 いいとこ小間使いだ。


 でも僕は、それでもお二人にお仕え出来るならいいな?と思うのだ。


 これでも僕は齢十歳にしてなかなかの苦労人だとよく言われる。

  自分の立場はわきまえないといけないのも、よぉっく分かっているのである。


  家は没落、家族は自分以外は事故で死亡。

 アルフォンゾ様に小間使いとして召し抱えられる前には、借金取りにつかまって売り飛ばされそうになっていたり…。


 不幸中の幸い、たまたま人身売買の捜査をしていたジャニカ皇国の武人部隊の方々に助けてもらえて、アルフォンゾ様に紹介された。


  他国に売られずにすんで、日々ご飯の頂ける生活になれただけでもう僕は幸せを感じたね!


  貴族の肩書きなんて丸めて、ぽぽいっ!なのである。


  皇妃さまが時折、僕の事を気にかけてくれて学校はどうするとか、お家再興とかアルフォンゾ様に色々言って下さっていたみたいだけれど、アルフォンゾ様も僕も日々暮らせればいいやっていう考え方だったので小間使いのままでも幸せだった。(今ほどじゃないけどね?てへっ)


 アルフォンゾ様は破天荒なご主人様で、視察だとか何だとか言って他国でも自国内でも、いろんな所に同行させてくれて、大変だけどそれなりに楽しかった。


 でも、立ち入り禁止の所にまで興味本意でどんどん進んでいくものだから、あの時は魔物の”祟られ熊”に襲われちゃったんだよね。


 あれは本当に怖かった。


  魔物に丸飲みされた時、意識もなくなって僕はもう死んだと思った。


 目を覚ましたら、女神様が僕を抱き抱えていて…。

 内心、やった!僕、魔物がに飲まれたけど、魔物に成らずにすんで天国に召されたんだ!と思わず喜んでしまったりしたものである。


 まあ、実際には僕は死んではいなくて、ダルタス将軍に助けられていて、女神様と思っていたのがルミアーナ姫様だった訳なのだけれど。


  僕は昨日まで…ミア姉さまは、女神様だと信じていた。

 こんな綺麗な人間いないと思っていたし…。


 でも、噂の眠り姫なら納得だ。


 ”王家の信頼も厚いアークフィル公爵家の一人娘ルミアーナ。

  柔らかな金色の髪、どんな宝石も霞むような美しい双碧の瞳。

  妖精か女神かと疑うほどの美しさは、世の画家たちの絵にも現し尽くせぬほど”


 という噂通りだった。


 ダルタス将軍は、それに反してすっごいデタラメな噂で可哀想になっちゃった。


  姫様とは相思相愛なのに、姫様を脅して婚約したとか”鬼将軍”どころか”鬼畜きちく将軍”なんて呼ばれていたり…

 まぁ、きっと美しい眠り姫をお嫁さんにできるダルタス将軍への世の男達の”やっかみ”もあって悪いほうの尾ひれはひれが付いたんだろうな~って思う。


 でも、そんなにも美しいのに優しくて、お姫様なのにお料理までできちゃうルミアーナ姫様にあんなにあんなに愛されているんだから、世間に何言われても全然平気だよね?


 すっっっごく幸せそうだもん。


 なんて…色々考えている間についちゃいましたよ。

 ルミアーナ姫様のご実家、アークフィル公爵さまのお屋敷!

  門をくぐってから結構、距離がありました。

 さすがは公爵家です。


  石造りのその館は、華美ではないけれど歴史を感じさせる重厚な造りで大きく、いかにも武人で有名なアークフィル公爵邸っていう感じで、ちょっと、どきどきしました。


  「さあ、ティムン、今から私のお父様お母様に紹介するわね?ここで身なりを整えてから今度は王城に行くからね?」とルミアーナ姫様はいいました。


  馬から降りて荷物をおろしダルタス将軍も柔らかい笑顔で僕の背中に手をかけて、そっと押してくれました。


 そして姫様は扉についてあるノッカー(訪問者が来訪を知らせるのにたたく金具)を鳴らしたのでした。

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