第133話 ティムン-2 公爵家との養子縁組
「皆、只今っ!」
ルミアーナ姫様が元気よく広間から叫ぶと、バタバタとあちらこちらから人が走ってきた。
一番乗りは優しそうな侍女のお姉さん。
そして、次は多分公爵様と公爵夫人。
そして、他の使用人の皆さんである。
「ひっ!姫様ぁ~っ!」と侍女のお姉さんはルミアーナ姫様に抱き着いた。
「フォーリー!ごめんねぇ!心配かけて」
「本当ですよ!なかなか月の石の通信ににもででくださらないし、本当に心配したんですからね!」と涙目で恨み言をいう侍女さんにルミアーナ姫様は一生懸命謝る。
僕は、こういう所もルミアーナ姫様はすごいと思うんだ。
ふつう大貴族のお姫様は目下の者、ましてや侍女や召使に謝ったりしないと思う。
侍女のお姉さんフォーリーさんも、そんな姫様だから心から心配していたんだろうな?あの涙は本当のうれし涙だと思った。
「私は何も心配してなかったぞ!何といってもダルタス将軍が一緒だったんだからな!」と公爵様がドヤ顔で言いながらも姫様の所に駆け寄って抱きしめた。
「お父様!」ルミアーナ姫様は嬉しそうに抱き返す。
「そうね!でも、連絡がとれなくて、やきもきしたわよ!」とルミアーナ姫様によく似た、とっても綺麗な公爵夫人も姫様に駆け寄り抱きしめた。
「その、いきなり浚さらってしまって申し訳ありませんでした」とダルタス将軍は公爵夫妻に深く頭を下げた。
「何をおっしゃる!即断即決のご英断でしたぞ!」とアークフィル公爵様はびっくりしたようにダルタス将軍に言い放った。
「そうですわ!私もそう思います!王妃様だってネルデアさまだって、今回のダルタス将軍の機敏さと迷いのない娘への愛情!しかと感じて称賛しておりましたわ!」と母君である公爵夫人もダルタス将軍に好意的だった。
「そのように、言って頂けるとは…ありがとうございます」
ダルタス将軍は、照れるようにそういった。
僕は、ここにきてまた、びっくりした。
駆け落ちっていうから、王様だけじゃなくて、
さすがはルミアーナ姫様のお父様とお母様である。
世間の噂になんて惑わされない素晴らしい方達だ。
「それで?その子がルミアーナの言っていた養子にしたいという男の子ね?」と公爵夫人がこちらを見た。
綺麗で優しい微笑みが本当に姫様にそっくりで、びっくりの連続で、どきどきした。
「そうそう、可愛らしい子でしょう?」となぜか自慢げにいうルミアーナ姫様…。
嬉しいけど、僕恥ずかしいデス…。
「本当ね~オレンジ色の髪の毛とはちみつ色の瞳がとっても素敵よ、ティムン?ティムンと呼ばせてもらっても良いかしら?」と公爵夫人が僕に声をかけてくれた。
「はっ!はい!光栄です!」
僕は意識してはきはきと答えようと頑張った。
でも、なぜ、会った事もない僕の事を知ってるのかと不思議に思って、つい首を傾げてしまった。
「フォーリーに月の石から通信で、もうティムンの事は伝えてもらっていたからね」とルミアーナ様が笑いながら説明してくれた。
「そ、そうだったんですね?僕、びっくりしてしまって…すみません」
「謝ることはないぞ、なかなか、礼儀もわきまえているし賢そうないい子じゃないか」と公爵様がいった。
「でしょう?じゃあ、養子縁組の話も賛成して下さるわよね?」とルミアーナ姫様が期待に満ちた眼差しでアークフィル公爵様をみた。
「いや、それとこれとは別だ!」と公爵様ははっきりとおっしゃった。
「ええっ!」とルミアーナ姫とダルタス将軍は驚いたが僕は驚かなかった。
さもありなん!と思っただけだった。
「ティムン、お前は驚かないのだね?何故だい?ダルタス将軍と娘には、養子にしてやると言われていたのだろう?」と僕に話しかけてきた。
「はい、確かにルミアーナ姫様やダルタス将軍は僕の事を養子縁組して家族にするとおっしゃって下さいました。でも僕は、もとは貴族の出だとはいえ、小間使いをしていましたし、一度は敵国だったこともあるジャニカの出です。姫様や将軍がが望んでくださっても、そんな自分をご親族の方々がお認めになる筈がないとも思っておりました。だって姫様みたいに若くて綺麗な人に僕のような大きな子供なんて、世間的にもおかしいです。社交界でもきっと変にかんぐられるでしょう?」
「ほう?すごいな?そこまで考えていたか?」
「はい、僕、だから引き取ってくださるといって下さったお気持ちだけで本当に嬉しいのです。ここまで着いてきてしまったのは、できれば…その…そんな優しい姫様や将軍にお仕えさせて頂ければ…と思っていたからなのです」
「なるほど…」とアークフィル公爵公爵は頷いた。
「お父様!お父様が反対したって私!」とルミアーナ姫様が言いかけると公爵夫人がそっと手で制し
「しっ、ルミアーナ、最後までお父様の話をおききなさい」と小声で窘めた。
姫様はしぶしぶといった感じで口をつぐんだ。
「うむ、ルミネとも話したんだが、其方らが、養子を迎えるのには、さっきティムンが言ったように、世間や社交界でも色々と噂を呼ぶだろう?むろんダルタス将軍やルミアーナがそんなものなど気にもしないのは分かってはいるが、ティムンはこれから先、学校に上がってもそのことで色々と詮索されるだろう…先で辛い目にあうのはティムンだ」
「そ…そんな」とルミアーナ姫様は考え込んでしまった。
僕の事を心配してくれての事である。
姫様も公爵夫妻も本当にお優しい。
だから、僕は本当にもう召使でよいので、宜しくお願いしますと心の中で唱えていた。
それなのに、それなのに公爵様は僕が思いもしなかった提案をなさったのである。
「まぁまて、そこで提案なのだが、ティムンはラフィリアード公爵家ダルタス将軍のところではなく、アークフィル公爵家うちの養子として迎えよう!そうすればルミアーナの子供は無理でも弟になるのだ!」
「おお!なるほど!」とダルタス将軍がにっと口端をあげて笑い「まぁ!素敵」とルミアーナ姉さまはほほ笑んだ。
「弟なら子供よりは無理がない!何より一人娘のお前が嫁にでて、跡取りがいないくなってしまった我が家に養子を迎えるのは世間的に見ても不思議はない!それに、其方達にもいずれ子が出来よう?ダルタス将軍の家督はその子供の為にとっておけ」と付け加えた。
僕はもちろん、家督なんておもいもよらなかったし、ましてやルミアーナ姫様のお子様と跡継ぎ争いなんてまっぴらごめんだ。だから召使で十分なんだってばと思ったけれど何だかそれも公爵様の考えで払拭されたらしい。
「素敵!素敵!素敵!お父様、大好き!」とルミアーナは公爵様に抱き着いた。
「はっはっは!さすが、ルミアーナだ!なかなか将来が楽しみな子を連れてきたな?」と公爵様は高笑いした。
「本当にね!お行儀もよいし、賢そうだわ!それに何といっても可愛らしいし」と公爵夫人も嬉しそうである。
何?何なの?この方達…。
どこの馬の骨ともわからない僕を(自分で言うのも何だけどさ)何の警戒もしないで養子にって…。
僕がとまどった顔をしていると、ルミアーナ姫様とおなじ綺麗な瞳で公爵夫人ルミネ様が話し掛けてきた。
「ティムン?私の事を”お母さま”ルミアーナの事を”お姉さま”と呼んでくれないかしら?私はフォーリーからルミアーナの伝言を聞いたときからそうするつもりでしたよ」と僕をひきよせて頭を撫でてくれた。
「おう、わたしもだぞ!使い物になるよう私が鍛えてやろう!ティムン、私の事は父上と呼ぶがいい、そうだな、ダルタス将軍の事も義兄上とな!姉の夫だからな!」そう言って、アークフィル公爵様は僕の頭をわしゃわしゃとこねくりまわした。
「娘も良かったが、可愛い息子も欲しかったんだ!がっはっは!」
「ほんと!可愛い息子が出来て嬉しいですわ、我がアークフィル家も跡継ぎができて一安心ね。ふふっ」
「お父様!お母様!よかったわ。じゃあ、そういう事でティムンもダルタス様も大丈夫よね?うふふっ!じゃあ、これから王城ねっ!さぁ、ティムン、フォーリーが準備してくれているから、すぐに着替えて支度よ!私達も準備しなきゃだわ!」
「じゃあ、俺は一旦、自分の屋敷に戻ってから準備して迎えに来るぞ?一応、登城用の服に着替えてこよう」
「そうね、ダルタス様、じゃあ、また後で!」
そんな会話が僕の頭上で交わされた。
僕の返事や考えは最終的には聞かれずじまい???
僕、本当に召使でよかったんですけど…。
っていうか、召使の方が気楽っていうか…お~い。
「あ…あの~、ですから…」
「何してるんですか?ティムン様、さぁさぁ、お仕度の準備でございますよ?」と侍女のフォーリーさんに詰め寄られる。
”様”…って何?誰も僕の意見なんか聞きゃしない???どうなってんの
どうやら僕はアークフィル公爵家の養子に決定してしまったらしい。
そして僕は侍女のフォーリーさんにがしっと掴まれ、まずはとお風呂に放り込まれ、磨き抜かれて、準備されていた子供用の礼服に着替えさせられた。
ホントに何から何まで準備万端で、僕は呆気にとられるばかりだった。
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