第130話 成就した恋と強制終了の恋
「「「「え!」」」」
仁が、須崎が、拓也が、大悟が一斉に声をあげる。
「美羽、思いだしたのかっ!」仁が美羽を振り向かせる。
美羽はくしゃっと顔をゆがませ涙目で仁に言う。
「思いだしたわ!私、思いだしたの!私は、美羽は仁お兄ちゃんの許嫁でいいのよね?」
「ああ、ああ、美羽は家族皆が認める許嫁!俺の婚約者だぞ」と仁が美羽を引き寄せた。
「お兄ちゃん!私、お兄ちゃんの事が!」そう言いかけた美羽の口に仁は人差し指を当てる。
「しっ、美羽、ここは外野が多い。こんな
「っ!はい」
耳まで真っ赤になって涙目の美羽が答える。
美羽は目覚めてから今までで一番幸せそうな表情で仁に抱きついた。
そしてそんな超絶可愛い表情の美羽を、仁は拓也や大悟から隠すように車に乗せ、その場を去った。
取り残された哀れな、思いこみ熱血女教師須崎とフラれ男の大悟…告白する前に失恋の拓也の哀れな三人が取り残されたのだった。
「「「………」」」
「え…と、
「婚約者の事ですよ」といつの間にか亮子が三人の側に来ていた。
「「「わっ」」」須崎と大悟と拓也が驚く。
「全くもう!須崎先生っ!仁兄ぃは、美羽に無理強いするような人じゃないと言ったじゃないですか!美羽は記憶の所々を無くしていたから仁兄ぃが好きなのに実の兄妹だからと悩んでいたんですよ。自分が養女だっていう事を忘れて居たが為にね!仁兄ぃも記憶を無くしている美羽が血のつながった家族だと思っていたのに本当の事を言うと傷つくかもしれないことを心配して純粋に兄として接していたんですよ!それを勝手に邪推してっっ!」と、須崎に説教をした。
「そ、そうだったの」と須崎は項垂れた。
須崎は本気で仁を更正させるためにも自分が愛を注いでやらねばと思っていたのだからとんだ道化である。
道化と言えば、大悟もである。
「亮子!じゃあお前、それ知ってて何で俺に告白なんてさせたんだよ!俺を裏で笑ってたのか?」
「はぁ?あんたが、望んだからでしょうが!どうせ振られるなら当たって砕けた方が後悔も未練もないでしょうが!」
「ぐっ…ま…まぁ、それは…」と納得の言葉に黙るしかない大悟である。
「そうだな…大悟、俺も大悟が羨ましいよ。自分の気持ちに気づいた途端に失恋なんて…俺なんか暫くひきずりそうだぜ…」
「って!なんだ、お前もかっ!」
「そうよ、大悟はいいほうよ!私だって…私だって…うっうっううう」と亮子が泣き出した。
「「お前もかいっ!」」と大悟と拓也がつっこむ。
半泣きの三人である。
「はあーっ、何だかなぁ!参ったわ!とんだ茶番劇になっちゃったわ!ははっ、まぁ、何だかよく分かんないけど、虐待とか無くて良かった良かった!ははは…ご、ごめんねぇ~」と言いながら、須崎先生は、うつろな目をして、その場からそそくさと立ち去っていった。
先生の気持ちだけは、よく分からない三人だった。
(((基本的には優しい、いい人なんだけど、勘違いで突っ走る傾向があるみたいである。そこそこ美人なのに何て残念な…)))
そんな感想を三人が三人とも思ったのであった。
まあ、結果的には、良かったのだろう。
自分達の大好きな美羽が幸せになったのだ。
結局、須崎の暴走で訳の分からない恋の強制終了を味わわされた三人だった。
これもまた”青春”というやつなのだろうか。
そして亮子は思った。
(良かったね。美羽…仁兄ぃ…おめでとう…そしてさようなら、私の長かった初恋…)と。
「さぁ~、今日はお邪魔虫だし、久しぶりにバスで帰るかぁ~!ま、おいてかれちゃったしねっ」と舌をだし、哀れな男どもにウィンクして、亮子は一人でさっさと帰るのだった。
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