第129話 担任教師須崎の暴走に美羽キレる!

 そして担任女教師須崎は動いた。


 その日、美羽の兄の車が校門の側に止まるのを教室の窓から確認した須崎は、ホームルームをクラス委員長に丸投げし外に出た。


 美羽を迎えに来た仁の車に近づき、コンコンと運転席の窓ガラスをたたく。


「?美羽の先生?まだ授業中では?」


「ええ、ホームルームは今日は体育祭の出し物のアンケートの集計と報告だったのでクラス委員長に任せてきましたの」


「?…はぁ…それで、何か?自分に用が?」と仁が不思議そうに尋ねる。


「ええ、美羽さんの事でお兄様である貴方に少しお話がありまして」


「美羽の事で?美羽に何かあったんですか?」と仁は慌ててドアを開けて須崎の肩を掴んだ。


「きゃっ」と須崎が小さい悲鳴をあげた。


「あっ、す、すいません」


「え、ええ、大丈夫ですわ。とにかく座ってお話を…」

 顔を赤らめた須崎が校門のすぐ近くの桜の木の所にあるベンチに腰かけるよう手で案内した。


 そう昨日、美羽に大悟が告白したその場所だった。

 その時、当事者の美羽はずっと兄が迎えに来るのを今か今かと待ちわびて窓の外を窺っていた。


(え?あれは…須崎先生?なんで迎えに来たお兄ちゃんとベンチに座ってるの?)と不審に思う。


 須崎は、先ほど、ホームルームをクラス委員長に任せたかと思うとさっさと出て行ってしまっていた。


 こんな事は初めてだったので不思議には思っていたが、それよりも今迎えに来た兄の仁と二人仲良く?ベンチに座っていることの方がもっと不思議で謎である。

 須崎の頬がほんのりピンクに染まっている気がする。


 美羽はとても嫌な気持ちになった。

(な!何?何なの?ありえないっ!)


 何をしゃべっているのかは聞こえないが何か須崎が仁にやたらくっついているようにも見える。

 美羽はホームルームの内容もろくに耳に入らないままに必死で外の仁と須崎の様子をがん見していた。


 クラス委員長がテキパキと集計をとり最後の報告をする。


「体育祭の出し物についてですが、アンケートの集計結果では仮装パレードで輝夜姫が一番多かったので、こちらにしたいと思います。今日は集計の結果報告になりますので、明日のホームルームでは各自の仮装する配役を自薦他薦で取り決めたいと思います」


 委員長が、そう告げた後、ちょうどホームルームの終わりをつげる鐘が鳴った。


 終礼の鐘の音が鳴り終わらぬうちに、美羽は、がたっと立ち上がり慌てて鞄に筆記用具を詰め込み、教室を走り出た。


 普段、おっとりとして、いつも亮子の迎えを待っていた美羽が亮子を待ちもせず駆けだすのを初めて見たクラスメートたちは驚き、目をぱちくりさせた。


 そして、美羽が兄の仁と須崎のいるところに向かおうと靴箱の所まで来ると、拓也と大悟が待ち構えていた。


「美羽っ!」「神崎っ!」

 拓也と大悟が同時に声をかけ、美羽が振り向く。


「?拓也君?大悟先輩?」


「「話があるんだ」」


「すみません。後にして頂けませんか?私、今、急いでて!」


「「ま、待て待てっ!待って!」」


「は?」


「仁さんの事で話があるんだ!」


「え?お兄ちゃんの事で?」


 美羽は須崎と仁の事が気になりつつも仁の事で話があると言われ立ち止まった。

 そして、とんでもない勘違いなその話の内容に美羽は激高した。


「何ですってっ!何を馬鹿なっっ!」


「美羽!隠さなくてもいい!俺達が美羽を守ってやる。どうか俺達に打ち明けてくれないか?」


「はぁあっ???」


「仁さんに何か無理を言われたり気持ちを押し付けられたりしているんだろう?」


「今、須崎先生が仁さんを問いただしてる!俺達を信じて打ち明けてくれ!先生も俺達も決して悪いようにはしないから!」

 そう言いながら拓也が美羽の両肩に手をかけてきた。


 美羽はびくっと肩を震わせ、拓也の手をぱんっと振り払った。


「やめてっ!さわらないでっっ!」


 美羽の激しい言葉に拓也と大悟は驚いた。

 美羽が目覚めてから初めての、はっきりとした強い口調の拒絶の言葉だった。


 美羽の目がきっと拓也と大悟を睨む。


「何を勘違いしているのか知らないけれど、気軽に私に触れないでっ!私に触れていいのは私が思う相手だけ!あなた方ではないわっ!」


 そう言って美羽は上履きのまま走りだした。

 須崎と仁の元へ!


 その美羽の激しい怒りの表情に拓也と大悟は一瞬固まったが、すぐに後を追いかけた。


 一方、須崎と仁は、まだ言い争っている。

「いや、だから、先生は何か誤解している。確かに美羽は養女だが美羽に無理やり男女の関係を迫ったこともなければ、虐げたこともないですからっ!」


「嘘おっしゃい!昨日も美羽さんと男子学生が話をしていただけで美羽さんを声高に呼びつけて、美羽さんは貴女の顔色を窺っていたというではないですか!美羽さんは貴方に怯えているのですよ!私にはわかるのです!」


「はぁっ?」仁は直情的にまくしたてる須崎の言い分にキレそうだった。


「仁さん、貴方はもっと大人の女性に目を向けるべきです。未成年のしかも義理とはいえ妹さんになんて!許されない事ですわ!」


「いや、だから俺は無理やりなんて…」


「いいのよ、もう何も言わないで!貴女の歪んだ愛は私が癒してあげます」そう言いながら須崎は仁の手を両手で握りしめる。


「はぁあああ?頭湧いてます?」と仁はその手を振り払おうとするが思いのほか熱血女教師須崎の力は強かった。


 女を投げ飛ばす訳にもいかず、仁は困り果てていると仁の視界に須崎の向こうから二人の男子に追いかけられながら走ってくる美羽の姿が飛びこんできた。


「美羽?」


 そして、美羽は仁と須崎の間に割り込んで須崎の手を仁の手から引きはがした。

 美羽は仁を背に両手を広げ須崎をけん制し、叫んだ。


「やめてっっ!須崎先生っ!私の許嫁いいなずけに触らないでくださいませっ!」と!

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