第128話 誤解

「なんだって!昨日、美羽に告白したぁ?」

 拓也はまさかの大悟の告白に驚いた。

「おいおい、大きな声出すなよ!恥ずかしいだろ!」

「しかし、おまえ本気だったのか…そ、それで?」


「ああ、でも振られた」

「って…!まぁ…そうだろうな」


 安堵のため息をつきながらそう答える拓也に、大悟はむっとしながら軽く悪態をつく。

「ちぇっ!あの時、邪魔が入らなければ、まだ分からなかったさ!俺はとにかく今の気持ちを伝えて、返事はゆっくりでいいから考えてほしいといったのに」


「邪魔って?」


神崎かんざきあにだよ!あに!」


「仁さんが?」


「そうだよ、まだ俺と話してたのに、すごい目で睨んで来てさぁ!さっさと神崎を連れ帰ったんだよ!ありゃ、すっごいシスコンだな!間違いないっ!神崎だって兄貴の顔色伺ってるみたいに、慌てて車に戻っちゃって。ありゃ、おかしいだろ!」


「そうなのか?」と拓也は言いながら、昨日、美羽の担任と亮子の(立ち聞きした)話を思いだした。


 仁さんは、やはり美羽を何か怯えさせるような事をしているのだと確信してしまう。

(何もしていないし、まるっきりの誤解なのだが…)


「やっぱり…そうなのか…仁さん…」


「は?」


「いや…実は…」

 拓也は昨日、生徒指導室で立ち聞きした話と、美羽の担任から美羽のことを気にかけてほしいと頼まれたことを告げた。


 普段の拓也はそれほど口は軽くはなかった。

 しかし、大悟から美羽が仁の顔色を窺っているような様子だった聞いたことからすっかり仁が美羽を虐げていると思いこんでしまったからである。

 そして、大悟も拓也の言葉を鵜呑みにして美羽が仁に虐げられているのだと思いこんで負のスパイラルがぐるぐると張り巡らされる。


 そして拓也は美羽を助けるつもりで須崎に相談した。


「まぁぁぁっ!何てことなの!やっぱり、私の推測はあたっていたのね?何かの間違いだと思いたかったのに」


「はい、先生…俺らどうしたら美羽の事、救えますかね?」


「よく、知らせてくれたわ!取りあえず、今日、神崎さんのお兄さんが迎えに来たら、私がお兄さんに話をします。あなた達は、その間お兄さんのいない所で美羽さんの話をきいてみてあげてちょうだい。仁さんの従妹である月七宮(亮子)さんは仁さんの事を信じてるみたいで話にならなかったけれど、幼馴染のあなたになら、美羽さんも本当の事を話すかもしれないし」と、須崎先生のなかで仁は義理の妹を虐待する危ない奴だと認識されていた。


 貴重なイケメンがなんと勿体ない!

 自分が何としてでも更正させて、美羽と仁の両方を救わなければと使命感に燃えた。

 そして熱血女教師須崎は、ちょっぴり…いや大分?暴走するのだった。

(うん、悪い人じゃないんだけどね)

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