第43話 ちょっぴり不機嫌なダルタス

 ダルタスは、ちょっとばかり面白くなかった。

 胸がきりきりと痛む。


 俺の婚約者ルミアーナになんでまたルークがついてくるのだ?

 しかも、祖母から守り庇うように…。


 ルミアーナを心配した国王夫妻の意図もあっての事とは思うが、おせっかいではなかろうか?

 これは自分とルミアーナ二人の問題ではないか?

 いや、確かにルミアーナに一目置かせて、祖母がルミアーナに敬意を払うよう仕向けてくれたのは分かるし、自分ではああはいかなかっただろう。


 我が(ルークにとってもだが)祖母ながら偏屈な意地悪ばあさんのドリーゼを何とも上手くあしらってくれた。

 あの様子なら、今後も祖母がルミアーナを蔑ろにする事はなかろうと思われた。

 本当に良かった。


 良かった事は良かったのだが、ルミアーナの助けに自分がなれなかった事が口惜しいのである。

 ルミアーナの事を何もかも理解しているような口ぶりにも不快感を覚えた。

 自分の婚約を応援してのことでなければ例え従兄弟で王子でも張り倒してやりたいくらいである。


 自分がこれほど心の狭い人間だとは思わなかったと、情けなくなる。

 しかも実際にルークが自分よりもずっとルミアーナの事をわかっているようなのがもの凄く悔しい。


 自分はルミアーナが月の石の加護の力を受けて命を永らえたことは知っていても、それは単に七人の神官たちにより魔力が注がれたからだと思っていた。


 よもや月の石に選ばれし血族の姫君だなどと、そんな途方もない事は夢にも思わなかったのである。

(いやまぁ、ルミアーナ本人も知らなかったんだけどね)


 そう、途方もない事だ。

 それくらい、この国では始祖しそ(この国の創造者とも呼ばれる魔法使い)の血統が尊ばれている。


 アークフィル公爵家が代々、始祖七人の魔法使いの末裔だということは、知識としては知っていた。

 だからこその公爵家だとはわかっていたが、何百年もの間に途切れず血脈を直系で残してこれていると言う事が既に奇跡に近い。


 実際にダルタスのラフィリアード公爵家もその家系ではある。

 しかし、長い歴史の中では、跡取りが生まれず養子を迎えたりとか、色々あっただろう。

 ダルタスは残念ながら血族ではない。


 国の本家筆頭である王家のように、に血脈を残そうと次代を切れないように敢えてつないで来た家系ではないのだ。


 しかもルミアーナは月の石に宿る精霊にことのほか気に入られているようだとも聞いた。

 月の石はルミアーナを護るだろうと…。

 その為にルミアーナに害をなすかもしれない自分達の祖母ドリーゼに、石を与えたのだと…。


 祖母ドリーゼがルミアーナに対して邪気を孕めば石はその邪気を払うという…。


 実際にルミアーナが触れると石は淡い光を放っていた。

(むろん、ダルタスがふれても石は無反応である。)


 ルミアーナが嬉しそうに笑うと石は淡い桜色に光り、まるで喜んでいるかのように見えた。


 そんな様子にも祖母ドリーゼ喜々とさせ、ルミアーナを褒めたたえた。

 むしろ度を超してルミアーナに異常な執着をもってしまったようで心配なくらいである。

 あの後、ルミアーナが帰るまで祖母はルミアーナに喜々として話しかけ自分はろくに話もできなかった。


 ルミアーナは自分のルミアーナなのに…と大人げなくも思ってしまう。

(ちょっと可愛いダルタスだった)

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