第44話 またですか?誤解が誤解を生むのです。

 何はともあれ無事もめることもなくダルタスの祖母ドリーゼと対面を果たしたルミアーナは、おおむね満足していた。


 ただ、ダルタスが何となく不機嫌そうだったのが若干気にはなったが…。

 まあ、結果オーライなのである。


 月の石の威光あってなのか、邪気払いの効果があってなのか、もしくはルミアーナが始祖直系の血族だったからなのか、はたまた全部なのか…?


 とにかく、ドリーゼはルミアーナにこととなった。

 もう、崇拝に近いようなご執心ぶりである。


 結果をみてみるとルミアーナがブラントに言っていたように、ドリーゼと会う前にブラントが散々ルミアーナの悪口を言っていたのも良かったのかもしれない。

 あくまでも天邪鬼あまのじゃくなドリーゼには…である。


 それからというもの、ルミアーナは、三日と空けずにドリーゼにお茶会の誘いをうけている。


(本当に、ルミアーナ様は何てお可愛らしいのかしら?身分も血筋も申し分なくて、しかも月の石に愛されている姫だなんて!よくもまぁ、うちのダルタスを選んでくださったものだわ。)と本気で思うドリーゼでだった。


 元々、纏っていた邪気というか意地悪な雰囲気も月の石の邪気払いの力のせいかどうか、すっかりなりを潜めている。


 全くもってルミアーナにとっては、都合の良い()石である。


 しかし、ドリーゼが、不思議に思うのは家令ブラントの言っていた、ルミアーナである。

 それはもう、酷い言いようだった。

 明らかにダルタスとルミアーナの仲を裂こうとするものだったのだ。

(実際に、ブラントは誤解からルミアーナとダルタスを別れさせミウとくっつけようとしていた訳だが、当然、ドリーゼは知らない。)


 ブラントは、ダルタスの乳母の息子で乳兄弟である。

 つまり、小さい頃からの腹心の召し使いだ。


 仲が良すぎて不敬にも時折軽口をたたく事もあり、ドリーゼが顔をしかめることもしばしばあったが、ダルタスへの忠誠心は本物だったと思っている。

 ブラントがダルタスの為にならないような嘘をつくようにも思えなかった。

 だからこそ不思議でドリーゼの中で引っかかり続けていた。


 そして、ルミアーナが挨拶に来てから一週間。

 既にドリーゼは二度もルミアーナをお茶に招き、今日は三度目である。

 まだ、彼女が来るまでには少し時間があるので、客間のしつらえをチェックして置かねばとドリーゼは二階の自室から下りてきた。


 すると、客間の扉の向こうから何やらダルタスとブラントの話し声が聞こえてきた。

 ドリーゼは、とっさに扉の前に立ち止まった。


「ところで、旦那様はミウ様とルミアーナ様とどちらの時が、よりお好きなのですか?」

 ブラントが、ちょうど、そんな事をダルタスに尋ねていた時だった。


 ドリーゼは、その時、一瞬よく聞き取れなかったが、ルミアーナという名前だけは聞き取れた。


(あら!ルミアーナ様の事を話しているの?)と、ついつい、淑女らしくない行いと知りつつ本腰を入れて聞き耳をたててしまった。


 何やらダルタスが、ブラントに熱く語っている様なのである。


「前にも言ったが、どちらかなんて、選べる訳がないだろう?ルミアーナは、この世のものとは思えないほど美しくてミウはミウで快活で明るくて愛くるしいのに気取りもなくて、もう閉じ込めて誰にも見せたくないほど可愛らしさのだから!」と、ダルタスは、ほぅっとため息をついていた。


「はいはい!全くもう!私はやはりミウ様の方が親しみやすいですね。ルミアーナ様の方も素晴らしいですが、あまりにも高貴でお美しすぎて近寄りがとうございますからね」と、ブラントが言いダルタスが頷く。


「確かに、ルミアーナの美しさは、高貴で上品な感じがするな。でもミウの庶民っぽい感じも良いのだ」


「左様でございますね」と、ダルタスにブラントがにこやかに答えた。



 二人はまさか、ドリーゼが立ち聞きしているなど夢にも思っていない。

 立ち聞きなどする淑女などいるとは誰も思わないのである。

 (ところがドッコイ!ドリーゼはルミアーナを尊ぶあまり、淑女の矜持などぶっとんでしまっていたのである!いやはや!)


 そしてドリーゼは、その内容のあまりの情けなさに驚愕した。


(何て事!ダルタスは、ルミアーナ様以外にも恋人が、いるのだわ!しかも身分もそう高くはない!?庶民ぽいだなんて、庶民なの?平民に近い貴族ってこと?どっちにしても許せないっ!何て事!何て事!?ルミアーナ様ほどの婚約者がいながら!)と、狼狽えた。


 そう、ドリーゼは、先日までのブラントとをしてしまったのだった。

(またかいっ!と突っ込みをいれたくなる勘違いの連鎖である)


 ドリーゼは二人に気づかれないように、そっと自室に戻った。

 ルミアーナからもらった月の石を見つめながら、ドリーゼは思う。

 ミウだかなんだか知らないが、ダルタスの妻はルミアーナ様しかいないと…。


 ほどなくして、メイドがドリーゼを呼びにきた。


「大奥様、公爵令嬢ルミアーナ様がおみえになりました」


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