第40話 対ドリーゼ作戦会議と月の石

 さて、王妃から色々な話を聞き、ルークやリゼラ!そして、すっかり改心したアクルス王太子、果ては、王妃だけではなく国王までも加わりドリーゼとの対面で、いかにドリーゼに隙を見せずにすむかという作戦会議が行われた。


 …そこにダルタスはいない。


 ダルタスの母からドリーゼの所業は伝えないよう約束させられ、破ることのできない王妃の立場とダルタスの祖母と仲違いさせたくはないルミアーナの想いを考えての事である。


「とにかく、母は血筋だの身分だのにこだわりますから、先ずはルミアーナの血筋の良さや王家と親交が厚い事を知らしめるようにして一目おかせましょう!」と、王妃が開口一番にいうと国王も深く頷き同意する。


「では、送迎の馬車は王家専用のものを使い近衛騎士団から精鋭を数人護衛につけて送り迎えをさせよう」

 そう国王が提案する。

(ルミアーナ一人の為に国王陛下までもこの身内的な会議に参加しているのがこの国の王家のすごいところかもしれない)


「それは、良いですね。そこまですれば、いかにルミアーナ様が両陛下に大事に扱われているか伝わりますし、もともと血筋はアークフィル公爵家自体が王族に次ぐ最高位の貴族ですしね!」

 リゼラも嬉しそうに同意する。


「土産は菓子だけじゃなくて、お婆様の気のひきそうな権力なくしては手に入らないような何か…そうだな…”月の石”なんてどうかな?」

 ルークが皆に問う。


「ま!”月の石”?それは…高位の貴族なだけでは手に入らない代物ですわね!私など、未だお目にかかった事すらございませんが!」とリゼラが興奮ぎみにいう。


「何ですか?それは…?」とルミアーナが言うと皆が一斉に「えっ!?」と言う顔をした。


 ルミアーナは、「あ…?あれ?それってそんなに知らないとおかしいこと?」と、不思議に思ったが、いまだにルミアーナでの記憶は全部は整理がついていない。


 些末なことは混沌としたままなのだから仕方ないとおもうが、(あ、些末な事じゃないのか?)と思い直す。


「ごめんなさい。眠りから覚める前の記憶が未だに曖昧で…えっと、その”月の石”って…?」


「まあ!可哀想に!ルミアーナ!」しゅんとするルミアーナの肩を抱き寄せ王妃が頭をよしよしと撫でる。


「”月の石”というのは、魔法石の結晶の事だよ。魔法石はわかるかな?」とルークが、言うとルミアーナは、ブンブンと首を横に降る。


「そこからからか…いや、いいよ、大丈夫。ルミアーナ、君が一年もの間、意識もなく生きてこれたのは何故だと思う?」


「え?両親から国王様のご指示で神殿を挙げて私を生かす為の浄化と癒しの魔法が施されていたと聞いておりますが…?」


「そう、力の強い七人の神官たちがこの一年、祈りを魔法石の結晶である”月の石”に交代で切れることなく注ぎ入れ魔法をルミアーナに注ぐ事ができたからだよ」


「魔法石だけでもおまじない位の効果はあるだろうけれど、”月の石”を通さなければ、毒に害されていた君の命を繋ぐほどの浄化の力は発動出来なかったんだ」と、ルークが説明する。


「では、私は”月の石”と七人の神官様のお陰で今、こうして生きていられるのね?」


「そう、ルミアーナの寝室には目覚めるまでの間、神殿からもちこまれた”月の石”が置かれていたはずだよ?」


「あ、そう言えば…。ベットの四隅には手の平位の乳白色の宝石のようなものが、嵌め込まれていたような…」


「それだよ。しかもね、”月の石”は人を選ぶんだ」


「”月の石”には、精霊が宿り、その力を与えてくれたり奪ったりする」


「?」


 よく、わからないな?という顔をすると、今度は国王が説明し出した。


「そもそも、我らが王国は、強大な力を持つ七人の始祖の魔法使いが建国したと言われている。魔法使い逹は、溢れる魔力を大地に注ぎ入れ緑を栄えさせてきた。その時、たまたま石に魔法が宿ったものが魔法石…そして魔法使い達自らが魔法力を凝縮して固めた結晶が、”月の石”と呼ばれるものだ。故に”月の石”を扱えるのは始祖である七人の魔法使いの子孫である血族にしか扱えないとされているのだが石には宿意志があるとされている」


「石に意志が?」

 おおっと、王様まさかのダジャレじゃございませんよね?と、つっこみそうになるけど、周りの真剣な雰囲気に黙って聞くルミアーナである。


「そう、アークフィルの祖先も王家の祖先と同じくこの国の建国に携わった魔法使い逹、始祖の末裔だとされている」


「つまりは、いくら神官たちがその石に、祈りを込めたとしても石が、ルミアーナを助けたいと思わなければ、その御力みちからは、発動しなかっただろうということ。逆にいうと君は石に選ばれし者、始祖の末裔でり純然たる血族である事が証明されたという事なんだよ」


「…えーと、つまり建国の魔法使いの血筋ってことが重要なの?」


 ルークは深く頷いた。


「この国で最も高貴とされる血筋だからね。お婆様の貴族至上主義から行くとこの上ない高貴な姫だと印象付けられるよ」


 なるほどぉ!と、皆が頷く。


「さっき、ルーク王子の言った、与えたり奪ったりするというのは、逆に命を助けるのではなく奪ったりする事もあると言うことですか?」リゼラが私も気になった事を聞いてくれた。


「そう、石には意志があり、邪気を嫌う。血族は守ろうとし、血族の魔法力があるものには魔法を増幅し使うのに良いアイテムになるが、邪気を持つ者や血族ではない異端の魔法使いからはその力を奪いとろうとするらしい」


「”月の石”が、守ろうとするとするのは血族限定なのですか?」


「そう、扱えるのも石が守ろうとするのも血族限定だと伝えられている」


「血族じゃない人が触るとどうなるの?」


「血族じゃない者が触っても、只の美しい宝石な筈だよ。よほどの魔法力や邪気を纏っていない限りはね」


「魔法力を持つ血族じゃない人が触ったら?」


「魔法力を石に奪われるから魔法を使えなくなるね。邪気は祓われるけど、血族以外の魔法使いからは”月の石”ではなく、魔封石まふうせきと呼ばれているよ」


「な、なるほど…」さすがは、魔法学科を卒業しただけあり、ルークはその手の知識が豊富なようである。


 暫く黙って聞いていたアクルス王太子がおもむろに口をひらく。


「なあ…その”月の石”は邪気を祓うんだよな?私は魔法に詳しくはないが、じゃあ婆様の邪気もその石で祓えるんじゃないのか?」


 お!おぉ!なるほど!まったくだ!と大きく目を見開きルミアーナは、アクルスとルークに目をやった。

そして(いいこと言うじゃん!)と心の中で思うルミアーナであった。


「さすがは、兄上!私も、それを考えました。これまで不思議と思い付きもしませんでしたが…」


「性格が極悪なのまで”月の石”で治るのかしら?あれって邪気なの?」と眉をしかめつつ王妃がいう。


「じ、実の母親に容赦ないですね…」と、リゼラが聞こえないような小さな声で呟く。


「まあ、気休め位かもしれませんが少しでもましになれば良いでしょう?それに、”月の石”を土産にするのは、ルミアーナが、それを持つ資格がある者として、お婆様に知らしめる為ですからね。ルミアーナ!ちょっと手を出して?」と、ルークが、ポケットから小箱を取り出す。


 小箱を開けると半透明の綺麗な石がある。


「”月の石”だよ」と、ルークが言うと皆が、珍しいものでもみるように一斉にその石に目をやる。


「え?これが?なんか、うちにあったのと違う気が…」言いながら渡されたそれを手に受け取った。


 すると石は淡く柔らかい光を放ちだした。


 乳白色にぽうっと光る石に皆が「おぉっ」どよめく。


「これが、ルミアーナが血族の証だよ」とルークが微笑む。


「あ、うちのと同じになった。うちにあったものも、こんな風に光ってたもの」


「なるほど、血族じゃない者が触ると只の宝石なのですよね?触ってみても?」とリゼラが手を出す。


「うん、どうぞ」とリゼラにわたすと光は消えて半透明の石にもどった。


「おぉっ!本当ですね!すごい!ちゃんと石にはわかるのですね?血族に反応するという事は、当然、始祖の直系である王太子様やルーク王子が持っても光るのですよね?」と、ルークにわたす。


 すると石は青白く光る。


 人によって放つ色が違うようである。


「わあ、綺麗」


「どれ」と、アクルスも手に取ってみると淡い金色の光を放った。


「おぉ~」と皆が拍手する。


 ちなみに、国王が持つと濃い金色に輝いた。


 そして王妃が持つと、リゼラの時と同じく只の宝石にもどった。


「皆だけずるいわ!」つまらなそうに、言ったけれど致し方ない。


 王妃は、王に見初められて妻となり王妃にはなったが、始祖の直系ではないので石は反応しないようである。

 こればかりは高位の貴族だからといっても建国から何百年もたっているのだから、血が途絶えて養子を迎えた世代があったり、血族ではなくても国に貢献して貴族に取り立てられたものもいるだろうし、全体から見れば直系の血族など希少である。


 むしろ、王妃とリゼラが、普通で、ルミアーナ逹が特殊なのである。


 たとえば、ダルタスがもった所で光りはしないだろう。


「妃よ、すねるでない。そなたは世の唯一無二の妃にして血族の王子逹の唯一の母である」と王が言うと王妃は、ぱっと明るい表情になって国王に微笑む。


「まあ、陛下、そうですわね。陛下は側室をもつこともなく私だけを妻としてくださって…私は幸せですわ」と、王妃が頬を染めて国王をみつめ、国王も王妃を見つめ返した。


 一瞬、脱線ぎみに甘い空気が駄々漏れた感が半端ないけど、ちょっと羨ましいなとルミアーナは、思った。

 自分もダルタスとそんな風に長年寄り添っても仲の良い夫婦になりたいな思った。


 ただ、息子である王太子や王子には目の毒らしい。

 口からうげぇと砂を吐き出しそうな顔をしている。

 なんとも、いたたまれない感じで話題をもとにもどす。


「あー、まあ、なんだ。じゃあ、お婆様が持っても多分光らないって事だよな?お婆様も伯爵家の出ではあるけど母上が持って光らなかったんだから…」


「そういうこと!たまたま、ここにいる人間が多いだけで石が反応する血族なんて今や千人に一人見つかるかどうかだよ。直系でも血が薄まり素養が無くなっていれば反応しないらしいしね…」


「その中で魔法まで使えるルーク、お前って凄いな…やはりお前が次期国王の方が…」と、アクルスが言いかけると被せるように、

「兄上!何バカな事を言ってるの?ちゃんと兄上が石を持ったら王たる者の金の光を放っていたではないですか!王になるべき者として”月の石”も認めておりますよ」と、ルークが穏やかに笑う。


 そぉか、あの金色の光は王者の輝きだったのか…なるほど!現国王がもった時は、より濃い金色だったな…アホな王太子と思っていたけど、なんだ!ちゃんと”月の石”にも次期国王として認められてるんじゃん?とルミアーナは、思った。


 拳を交えて戦って以来アクルスの事は只のチャラい王太子から『チャラいとこもあるけど実はけっこうデキル奴?』位には代わってきていたし、ルミアーナへの愚行も今は心底反省しているようなので嫌いではなくなっているので素直に感心した。


「でも、すごいね。ルークってば博識!」

「伊達に魔法学科は、卒業してないからね」

 (魔法学科で『建国の魔法使い』『始祖の血族』『魔宝石と”月の石”』は、最終必修科目だった。)


「さて、話が随分それてしまったけど、つまりそれだけのものをたずさえていけば、血筋や身分にこだわるお婆様には文句のつけようもない!って事になる」


「なるほど!一目置かせてしまうのに好都合だわね!」と王妃も請け合う。


「それと、お婆様の意地悪が邪気からくるものであれば、”月の石”で多少は祓われるかも?だしね」


 この世界でいう邪気というのは、至るところに潜んでいて孤独感や喪失感に憑りつく厄介な代物らしい。


 心の闇を糧に育つのである。


 そんなものが有るならもっと早くに試せば良かったのにというと、”月の石”の浄化などは、卒業間近に習うものでルークも最近、知ったのだという。


 しかも本来は神殿から持ち出されるものでもないらしい。


 王家と神殿の許可を得て初めて触れる事が出来るという代物であるという。


 ルミアーナの場合は、この国で最も高位の貴族令嬢の延命の為に国王からの依頼と神殿長の采配で持ち出され、そして”月の石”はルミアーナを主と認めて力をかしたと言うのである。


「そ、そんな大層なものお土産なんかにして良いの?そもそも、私のものでもないのに」と、ルミアーナが聞くと、ルークがちょっとだけ悪い顔してにやりと笑う。


 あ!この顔、アクルスの悪いときの顔にそっくり!と、関係ないことを考えてしまうルミアーナだった。


「王家にふりかかる危険のある邪気を祓うのは、国が正しく有るために不可欠である」と、仰々しくルークが言った。


 確かにこの国の王妃の実母でありこの国の三将軍の一人の祖母であるドリーゼが邪気に蝕まれているとしたら大変な事である。


 彼女が、本気で悪巧みをしたら従う貴族や商人がむらがるだろう。


 もしも”月の石”でぽぽいとお祓いできるものなら王家としてもむしろ首飾りにでもして掛けさせておきたいくらいである。


 しかし、血族ではないドリーゼには、直接的には毒にも薬にもならないという。

 せいぜい魔よけのおまじない程度というところだろう。


「毒にも薬にもならないのにお土産にするの?」とルミアーナが聞くと、王妃やリゼラもうんうんと首を縦にふる。


「石は血族を守るために力を発揮する!つまり、ルミアーナに邪気をむけようとしたら、どうなると思う?」とルークが、にっと笑った。


「石はルミアーナに対する敵意も邪気とみなして浄化しようとするだろう。つまりルミアーナに対して悪意を持てば石はお婆様を浄化しにかかるはずだよ」


 よくわからないという顔をすると王太子が横から入ってきて分かりやすく説明した。


「つまり、血族でない人間(ドリーゼ)にも血族の人間(ルミアーナ)を守るためなら力を出すってことだろ?ルミアーナが虐められそうになったら”月の石”は、ルミアーナを守ろうとして虐めたいって思った婆様の邪気を払ったり、婆様を懲らしめたりしてくれるっていう事だろう」


 ルークがにっこり頷く。


「何ソレすごい!でも、なんか都合が良すぎて信じられない…」ルミアーナは”月の石”に目をむけ、もう一度、手に取ってみる。


「綺麗だけどほんとにそんなに凄いの?」と疑わし気に言うとぽうっと光る色が鈍い褐色に変わった。


「あ、ごめん…なんか、怒った?」と慌てて石に謝る。


「ごめんなさい!信じる!信じるからね?ね?」と石に話しかけると、”月の石”は今度は、ぽうっと淡い桜色に輝いた。

 なんとも可愛らしい上品なピンク色である。


「「「綺麗!可愛い~」」」とルミアーナと王妃、リゼラの三人が声をあげた。


 王や王子たちも「「「お!おおっ…」」」と声をあげる。


「やっぱりね…ルミアーナは、僕たちの中で一番、”月の石”に愛されてるみたいだね。”月の石”と会話できるなんて聞いたこともなかった」とルークもちょっと興奮気味である。

(ほんと、ルミアーナって底知れないくらいのびっくり箱な女の子だな~目がはなせないな~)とルークは思った。


「と、いうか、石には本当に意思があるのだと確信したよ。感動だ!きっと神殿長にはルミアーナが精霊に選ばれし姫だって分かっていたんだと思う。石自身が君の役にたちたがっていると!この石はルミアーナが目覚めたときに必要と思われる時が来たら君の為に使うようにと君が眠りについた少し後に手渡されたものだったんだよ」とルークが言った。


 「正直、ルミアーナとは、その時はまだ知り合いでも何でもなかったから、直接渡せる機会など無いかもと心配していたんだけどね。うまい具合に知り合えて本当に良かったよ。やっと神殿長様との約束が果たせる」とルークはほっとしたような笑顔で”月の石”をルミアーナに渡したのだった。


 何はともあれ、ダルタスの祖母ドリーゼへのお土産は、お菓子と”月の石”…これに決まった。


 そして雑談を交えながらもドリーゼとの対面の為の作戦会議はその夜、遅くまで続いたのであった。

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