第22話 ダルタス将軍と家令ブラントの思い

 ダルタス将軍は思った。


 短い夢だった。

 幸せな夢だった。


 自分は一体何を間違ったのか…。


 結婚を申し込みに行ったはずだった。

 自分は心底ルミアーナを守りたいと思ったのだ。


 呑気に湯あみなんぞに行っている間にルミアーナが王太子殿下に囚われた。

 自分のせいだと思った。

 だからをとりたいと言った。


 彼女を望んでないのにとかそういう事ではなかった。

 そんな意味にもとれるのか?とむしろ驚いた。


 家令のブラントに事の成り行きを説明すると呆れたように言われた。


「結婚の立会人としてわざわざ国王ご夫妻にきて頂いたのに、いきなり婚約破棄ですか?一体全体どんなをやらかしたらそうなるんです?」


「うう…それは、俺が聞きたい」


「ま、確かに気のきいたプロポーズの言葉じゃなかったようですがね。でも好きだったら断りませんよね?やっぱりご令嬢はそんなに旦那様と結婚したくなくなったんじゃないですか?ていよく断られたんですよ」

 ブラントは、やれやれと呆れ口調でため息をもらした。


「そんなことはないっ!王太子殿下に襲われそうになった時に、私という婚約者がいるからと言って死ぬ覚悟までした人だぞ?」


「ん~、もしくは、襲われかけて男全部が怖くなったとか…?」

 と、ブラントが言うとダルタスはくわっと目を見開いた。


「それか!」と、ダルタスも納得した。


「まあ、どちらにしても仕方ないですよ。国王立ち会いの下の婚約破棄ですからね。…いや?でも、だったらまたご令嬢は、王太子殿下妃候補に戻っちゃうんですかね?」


「それは、なかろう…いや、でも国王夫妻はルミアーナをものすごく気に入っていたからルミアーナさえ大丈夫なら王太子殿下妃に迎えたそうだったな」


「ふぅん、じゃあ、また命狙われちゃったりしそうですね?」


「そうだ!危ないっ!だが、どうしたら?」


「旦那様~、いい加減にしてください。結局ふられたんですから、ほっときゃいいんですよ。また命狙われて怖くなったら、やっぱり婚約してくれって泣きついてくるかもですよ」と、家令が言う。


 ちなみに家令はルミアーナに会った事はない。


 もともとこのブラントは、ダルタスの乳母の息子でダルタスとは乳兄弟である。

 小さい頃から一緒に育ってきたので身分の差はあっても遠慮があまりなく、本人の為になると思えば辛辣な事でも平気で言ってのける。


 ダルタスもブラントのそんなところが気に入っているし、ブラントもまたそんな主を心から大切に思っているのである。

 だからこそ、ブラントはルミアーナに対して良い印象が持てずにいた。


 口には出さないまでも、これほどまでに旦那様を落ち込ませるなんて…ひどい女だ!と思っていた。


 どれほど綺麗な姫君か知らないが、主人の心をここまで掴んでおきながら、あっさり婚約破棄するだなんて、実はとんでもない性悪女なのでは?とさえ思う。


 世慣れた王太子殿下を愚行に走らせるまで本気にさせておきながら気のない振りをしてみせたと思ったら、今度は貞淑な振りをして国王夫妻に気に入られ…うむむ。


 はっ!そうだ!実は王太子殿下を本気にさせるために旦那様を逆に利用したとか?

 などと次々にルミアーナへの疑惑が心に浮かび上がる!


 自分の美貌に自信のあった令嬢は、自分が命を狙われているのにも関わらず、会いにもこない王太子殿下に腹をたて、王太子殿下に焼きもちを焼かせて本気にさせるために策を巡らしたのでは?見合いの席で旦那様と仲良さげにしたのも、ご自慢の美貌を王太子殿下に見せつける為だったのに違いない!


 家令の妄想は真実味を増しながら拡大していく!

(あくまでも家令の勝手な思い込みでしかないのだが)


 そして、貞淑な娘に見せかけ国王夫妻に取り入ってから、うまく理由をつけて旦那様と婚約破棄!

 それから改めて王太子殿下と結婚して王宮に入ってしまえば命を狙われる心配もなくなる!

 更には、王太子妃という地位をも手に入れられる!と、いう寸法かっ!


 ブラントは、クワッと目を見開き、うぐぐ…と、うなった。


 家令ブラントの妄想の中、ルミアーナは、とんでもないとなってしまっていた。


 だが、ダルタスは無論、ルミアーナがそんな娘だとは思っていない。

 たとえ、婚約者でなくなったとしても彼女を守りたいと思っている。

 そして、その為にはどうしたら良いのかと途方にくれていた。


 もちろん、ルミアーナは実際に悪女なんかではない。

 ちょっと中身がワイルドで体育会系なだけの一途で可愛らしい女の子なのだ。


 いうなれば、ルミアーナは好きだからこそ『』という言葉に傷ついたのだから…。

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