第8話 王太子のふざけた企み

 王城の一室で、またもやこの国の王太子と将軍が何やら言い合っている。


「まさか冗談じゃなかったとは…」

 泣く子も黙る鬼将軍ダルタスは、呆れ果てて王太子アクルスに呟いた。


「アークフィル公爵家から見合いの申し入れがきた…」

 ダルタスは恨めしそうにアクルスに目をやる。


「私は、ちらっとアークフィルに匂わせただけだ。ダルタス将軍にでも嫁がせれば命を狙われる事もなかろうが…とな?」と、いたずらが成功した子どものような笑顔になるアクルスにダルタスは大きなため息をつく。


 この国で王太子にも引けをとらぬ権力と身分を持つ将軍ではあるが娘の結婚相手にと望む貴族は皆無である。


 何故なら将軍は質実剛健、ルミアーナの父であるカイン・アークフィル公爵をも凌ぐ程の硬派で『賄賂もお愛想も通じぬ相手』であるからだ。


 娘を嫁がせたところで何かしらの特別扱いも期待できないだろう所に、泣いて嫌がるであろう娘を嫁がせようとも思うまい。

 下手をすれば、嫁の実家ですら後ろ暗い事があれば検挙されてしまう可能性すらあるのだから。


 顔にも身にも醜い傷があり、およそ若い娘に好かれる筈も無い、しかも鬼将軍などと呼ばれ恐れられるダルタスに娘を嫁がせようとするなんて、よほど器量が悪くて嫁ぎ先がみつからないに違いない。

 ちょっとふってみた話にすぐ食らいついてきたところをみると、自分の読みは当たっていたようであると王太子は確信した。


 を掴まされなくて良かったと王太子は心底思った。


 ***


 一方、ルミアーナは、そんな失礼極まりない事を思われているとも露知らず、ダルタス将軍という人の事を色々と調べてみた。

(と、いっても情報源は主にフォーリーからではあるが)


 ダルタス・ラフィリアード将軍、二十五歳。

 この国の軍を取り仕切る三将軍の一人である。

 現王妃の甥で王位継承権第五位を持つピカ一の貴族である。


 数年前、隣国との争いで戦死した父の跡を継ぎ、武人として数多の功績を上げ、その実力を名実共に認められ今の将軍職についている。

 鬼将軍などと呼ばれてはいるが、それは他国から恐れられてそう呼ばれているだけらしい。


 背が高く鍛えぬかれた体躯は鋼のごとく

 この国では珍しい漆黒の髪に漆黒の瞳。

 顔にはこめかみから口許近くにまでの痛ましい傷痕があり、それが一層、見るものを震え上がらせるという。


 敵に容赦はないが味方や武器をもたぬ者には情け深い…。

 女子供からはともかくとして、部下や騎士達からは尊敬され慕われる人物らしい。

 兵や騎士達の中には熱心な崇拝者も多々いるようで、どうやら父もその一人のようだ。


 う…わぁ~

 何なのこの人!聞けば聞くほど…

 むっちゃ、カッコいいんですけど!

 むしろウェルカムなんですけど?


 つまりはこうだ。

 このラフィリルでのモテる男性像というのは、金髪碧眼色白の優男らしい。

 優雅で典華な?

 例えるならば王太子はそんなタイプらしい。


 ちなみにモテる女性像はと言うと、やっぱり金髪碧眼の華奢で色白のタイプらしいので男女共に似たような弱々しい感じが好かれるらしい。

(ルミアーナの好みからしたらあり得ない!)


 王太子は会う前からルミアーナの事を不細工であると決めつけているのだが、見た目だけで言うと見当違いも甚だしい。

 ルミアーナは、見た目だけならオールオッケーである。

 華奢で可憐!儚げで夢のように美しく可愛らしいのだから!

(中身は武闘派で、男前なのだが)


 うっかりすぎるチャラい美形好きの王太子。

 彼はこのあと、のこのことダルタスの見合いの見物にきて死ぬ程後悔する事となるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る