第7話 お見合い話
アークフィル公爵令嬢ルミアーナの朝は誰よりも早い!
朝食の前までにたっぷり一時間は朝の体操と散歩をして入浴までするからだ!
「今朝も元気だ!空気が旨いっ!」
爽やかな朝、自室のバルコニーでミルクを腰に手をあてイッキ飲みする公爵令嬢ルミアーナ。
「ぷはーっ」と飲みきる。
深窓の令嬢らしからぬその所作にもフォーリーはもう慣れっこである。
もう、姫様が元気で幸せそうならいいや!と思っている。
死にかけた時の衝撃がよほど凄かったのだろう!
多少?の人格崩壊など、屁でもない!
少々いや大分?…おしとかやでなくなったとしても、そのくらいなら全く問題ないのである。
「うん!全っ然、大丈夫っ!」
「わんぱくでもいい!たくましく育ってほしい!」
そう思う
ルミアーナの虚弱体質もラジオ体操と日々の運動、バランスのとれた食事のお陰でかなりの改善がなされたと思う。
最近では自室でだが腕立て伏せ、スクワット、レッグスウィング、腹筋を毎日百回を朝晩やって昼にはヨガを行っている。
風呂にも汗をかくたびに入っている!
(さすがは公爵家!地下に温泉を利用した湯殿をもっていた!源泉かけ流しで二十四時間いつでも入り放題である!)
そうした中、ルミアーナは美羽時代ほどではないにしても、そこらへんの紳士淑女よりもすっかりたくましくなっていた。
公爵夫妻もこれまでにないような娘の元気な様子を手放しに喜んでいる。
これまでの大人しかったルミアーナの変わり様に驚きはしたものの小さかった頃の記憶も断片的にはあったりするし何よりその体自体が本人に間違いないのだから疑うべくもない。
大体、本人以外の人格が宿るなど普通に暮らしてきた人間に思いつく筈もなかった。
…ちなみに、鍛えている所は今のところはフォーリーにしか見せていない。
兵士の訓練ばりの様子をみたらきっと公爵夫妻は娘の気がおかしくなったのではなかろうかと、余計に心配をかけるに違いないと思ったのである。
これは、ルミアーナ(美羽)にしては中々の賢い判断であった。
朝の運動と、軽い入浴を済ませたルミアーナは父母との食卓についた。
武人で人格者としても知られる実直なカイン・アークフィル公爵は
そして、母のルミネはルミアーナと同じ空を写した海のような青い瞳とルミアーナよりは少し濃いめの明るい金の髪をした優しそうな美女である。
二人ともまだまだ若々しく娘から見ても美しい。美羽の記憶が目覚めてしまった後のルミアーナもこの父母が大好きである。
「お父様お母様、おはようございます」
満面の笑顔で言うと父も母も嬉しそうに目を細めた。
「おはようルミアーナ」
二人はあの事件から目覚めて以来、すっかり元気になった娘に満足そうな笑みをうかべる。
「本当に、すっかり明るく元気になって…暗かった屋敷の中もまるで花が咲いたようね」とルミネが瞼をハンカチで押さえながら言った。
娘が毒に害され倒れた時から目覚めるまで毎日どれほど祈りどれほど悲しんだかわからない。
今、元気な姿の娘を見れる喜びに母ルミネが思わず涙してしまうのも仕方がないことだろう。
「フォーリーのお陰ですわ!お母様、フォーリーは本当によく尽くしてくれて、私の善き相談相手にもなってくれますの!信頼できる人間が一人でもいれば強くなれると思うのです」とルミアーナは日頃のフォーリーの忠義への感謝の気持ちを口にしてみた。
後ろに控えていたフォーリーは、真っ赤になって恐縮している。
「まぁ!姫様!勿体ないお言葉です」
公爵はそれを聴いて
「なんと、ではフォーリーには褒美を与えねばな?ルミアーナがこんなに元気になってこんなに嬉しい事はない」
そう言うとルミネも「本当に」とうんうんと頷いた。
「そんな!滅相もございません。私など」とフォーリーは頭を下げたが、ルミアーナは遮るように
「ぜひ、そうして下さいませ!」と満面の笑顔を両親に向けた。
公爵は娘の下の者への気遣いも怠りないルミアーナ様子をみてとても満足そうな幸せそうな笑みを浮かべた。
「ふむ、これならば…」と思案げにルミアーナに言葉をかける。
「ルミアーナ、お前にはまだ早いかと思っていたが、実はお前に縁談の話がきている」
思わず口にしたスープをぶほっと噴きき出しそうになって父の方へ向きなおる!
うっかりかぶっていた猫を脱ぎすてて何かつっこみを入れそうになったが真剣すぎる眼差しがちょっと怖かったので即座に押し留まった!
「お前もいくらかは分かっているであろうが、お前が命を狙われたりするのも、身分的にも年齢的にもお前が王太子殿下の許嫁候補の筆頭だからという線が濃厚だ」と、言われルミアーナは、そうだったのか…でもね、お父様、知らなかったよ…とか思った。
「それ故に、私はお前を王太子ではなく王太子の従兄にもあたるこの国の将軍ダルタス殿に嫁がせたいと思う」
その言葉に母が、弾かれたように異論を唱えた。
「貴方!それはあんまりにもっ!」
「お前は黙っていなさい!確かにダルタス将軍は鬼将軍と呼ばれるほどの強者で、若い娘受けするようなタイプではないかもしれないが、私はむしろ女性遊びや不埒な噂の絶えない王太子様よりよほど良いお相手だと思っている」
え?何々?お母様は心配なの?
でもお父様はお勧めの方なのね?
ふむ、そぉなんだ。
王太子様はチャラいタイプなのね?
鬼将軍て何それ!会ってみたら実はちょっと好みのタイプかも?
と、ルミアーナは心の中で思った。
「ですが、ラフィリルの鬼将軍と言えば数多の国々も恐れおののくと言われる恐ろしげなお方では、ありませんか?そんな方にこんなに華奢で愛らしい娘が嫁がなければならないなんて不憫ですわ!」
普段は夫の言う事に殆ど口を挟む事のないルミネであったが、愛娘の危機だと思い必死に食い下がった。
「他国に恐れられるほどのお方だからこそ、ルミアーナの安全が磐石になるのだ!それに、これは王太子様からのご提案でもある!」とアークフィル公爵は言った。
ダルタス将軍はその顔の傷や他国からも恐れられる程の武功から女子供からは怖がられているが武人たちの間では憧れの存在であり男に惚れられる男の中の男として彼を崇拝しているものも少なくない。何を隠そう(隠してないけど)カイン・アークフィル公爵もダルタス将軍の熱狂的な崇拝者であった。
「ルミアーナの気持ちも尊重してくださりませっ!」
ルミネは半泣きで夫に訴えた。
普段、おしとやかなルミネの絶叫にカインも一瞬怯んだが、すっとルミアーナに向き直りルミアーナに気持ちを尋ねた。
「ルミアーナ、どうだろう?無理強いはしたくはないが、とにかく一度、会ってはみぬか?」と、つとめて平静に尋ねた。
様子をみていたフォーリーも、ごくりと息をのむ。
ルミアーナは落ち着いた様子で
「わかりましたわ。お父様!私、ダルタス様にお会いしてみますわ」とにっこり微笑んだ。
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