第6話 アクルス王太子とダルタス将軍
ラフィリルの眠り姫が目覚めたと人々の口に上りだしたのは、ルミアーナが目覚めてから半年程たった頃だった。
再び命を狙われる事を考慮して公爵家ではそれを秘密にしていたのだ。
しかしどんなに隠しても、秘密はいずれはどこからか漏れだすものである。
その噂は市井で瞬く間に広がり王宮内にまで聞こえてきた。
***
「ルミアーナ嬢が目覚められたと既に噂になっているらしいな?」
王太子アクルス・ラフィリルは
二人は従兄弟同士でダルタス将軍の方が年上という事もあり、身内だけの時はダルタスの王太子に対する口利きは比較的くだけていた。
「ああ、神官や巫女達にも口止めはしていたが、半年も経てばどこかしらから漏れるものだ。それは仕方なかろう…全く気の毒な事だ。まだ令嬢は十六かそこらだろう?何の罪もない少女が…」と、ため息をつきながら答える。
「まあな…それも多分、狙われる要因はわたしの許嫁候補だからだろう?責任は感じるが…かといって黒幕の正体も不明なままだし対処の仕様がない…」
「それについては引き続き調査をしている。しかし、参ったな、この王宮にまで噂が入ってきたという事は当然、敵の方にも伝わっているだろう。また狙われるぞ?」
「
「冗談じゃない!近隣の国々の姫君といえば、ジャニカ皇国のいきおくれの皇女か、ルクソニア王国のまだ三歳の姫だぞ!わたしには、幼女趣味も年増趣味もないわ!」
「しかし、何故ルミアーナ孃ばかりが命を狙われるのか…?ほかにも妃候補の貴族の令嬢はいるだろう?」
「そりゃ、アークフィル公爵家が今より王家と深く繋がれば、困る奴らが多いからだろうな?なにせアークフィルほど実直で真面目な…悪く言えば
「実直なアークフィル公爵家は王家の至宝であり国王の信頼も厚い!失う訳にはいかぬ…」
「ならいっそ、さっさとルミアーナ嬢を后に迎えて王家で保護しては?」とダルタスが、言うと
「お前までそんな事を言うか!父上母上にも言われたがそんな単純な問題ではないわっ!大体、ルミアーナ嬢とは実際に会った事もなければ喋った事もないし!」と、息巻いた。
「む、でも噂では、大層美しいと評判だぞ?」ダルタスが、真面目な顔で言うと王太子はもの凄い勢いで反論した。
「そんな、噂など当てになるわけなかろうっ!先日無理矢理、紹介されたルッツ伯爵家の令嬢など白百合の姫との噂だったが、お前を女装させた方が百倍ましだったわ!」
「おいおい」王太子の、そのあまりの言い様にダルタスは若干引いた。
「大体、屋敷に籠りまくって外にも出ないような令嬢だぞ!屋敷の中でさえ姫の側近の数名しか会った事もないというのに噂を語る民達の一体誰が実物を見たって言うんだ!そんな美少女ならばとうに絵姿のひとつでもアークフィル公爵が私に送ってこようというものだ!」と、言った。
「む…た、確かに…?」
それはそうかもしれない…妙に説得力がある…とダルタスは半信半疑ながらも頷いた。
「や、しかしどうせ王太子である以上、ある程度身分のある令嬢か他国の王女でもない限り中々、婚姻はむずかしかろう?美醜などにこだわっても…」と言うと、王太子ははぁーっと深いため息をついた。
「何度も命を狙われて部屋の中に籠りっぱなしの令嬢だぞ?」という。
「ふむ、真に気の毒だ。そこは守ってやらねばと思うところでは?」真面目にダルタスはそう答える。
「私は明るく可愛らしい后がほしいのだ!」と一国の王太子のくせに我儘を言い出した。
「気の毒には思うが、そんな引きこもりのような令嬢、明るい筈も可愛らしい筈もなかろう?真に気の毒だとは、思うが、
そして王太子ははっと思いついたように叫んだ。
「そうだ!お前がルミアーナ嬢と結婚しろ!そうすれば王太子の許嫁候補からは外れるし、他国からも恐れられるラフィリルの鬼将軍の妻ならばそれこそ誰も手出ししようとも思うまい!」
ダルタスはその身勝手な言い分にあきれはてて沈痛な面持ちで頭を抱えた。
そうだった…こいつはこういう奴だった…と!
面倒なことは全て自分にふって好き放題、
頭も悪くはないのに正直、性格に『難あり』。
とにかく自己中で我儘な男なのである。
『ルミアーナ嬢を気の毒』と言ったのはどうも口だけだったらしい。
本当のところ、ほったらかしにしていると外聞が悪いだけで、自分に降りかかってこなければどうでもよいのではなかろうか?
従兄弟とは言え、仕える国の王太子がこれだと思うと、たまに、ど突き倒したくなるダルタス将軍であった。
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