第3話 まさかの現実

 美羽はせっかくだし、お姫様の夢を存分に楽しもうと思っていたのだが、何かがおかしいと思い始めていた。


 まず異様に体が重く歩くのにも一苦労である。


 夢の中だったら望めば空でも飛べそうなものなのに…。

 体は軽いどころか異常に重い。

 そして自分のほっぺをつねってみると…、

 なんと!

 のである。


 …痛いような気がしてるだけかとも思ってもみたが上手に歩きそこねて転んで顔から倒れた時の半端ない痛みは凄まじく、の痛みだった!


 なんじゃ!こりゃー!!!


 …と心の中で叫んでしまったよ!こほん


 とりあえず、夢の中で目覚めたと思ってたのは本当に目覚めていたっぽい。

 そしてそして自分はほんとにルミアーナという公爵家のお姫様になっちゃったらしい???と気づいた。


 とにかくよくわかんないけど、そういう事らしい。


 目覚めてから数日たつとなぜだかルミアーナとしての記憶もおぼろげながら自分の中から湧いて出てきた。


 自分のなかの美羽の記憶を持ちつつもルミアーナの記憶も、あわせ持つ…

 そんな感じである。


 そして思い出したのである。

 ルミアーナが倒れた時の心の叫びを!


『こんな世界いや!』

『誰か助けて!』


 そんな悲痛な声なき叫びを…。


 混沌とした記憶をたどり寄せていく…。

 そうだ…私(ルミアーナ)は屋敷の自室の中で倒れたのだ。


 外に出ればいつも誰かにつけられているような、じっと見られているような気がして部屋に引きこもってばかりだった。


 自室に閉じ籠る日々の中で気持ちが安らぐ効果があるという香りのよいお香を焚き染めて静かに読書にふけるのが日課となっていた。


 その日は、いつも側にいてくれた侍女のフォーリーが、里帰りの為いなかった。


 見慣れない召し使いが部屋をしつらえて、お香を炊いて部屋をでた。

 徐々にゆっくりと木の実のような芳しい香りが部屋に広がっていったのを不思議には思わなかった。


 代わりにしては気のきいた召し使いの心遣いと怪しむ事もなかった。芳しい香りは毒を含んでいたのに。


 閉じ籠ってばかりの私を心配して様子を見に来た母が、鳥籠の中の小鳥が死んでいる事に気づき悲鳴をあげた。


 慌てて私にかけよってきたけれど私はもう朦朧としていて目もかすみ、母の顔すらはっきりと見えなかった。


 また命を狙われたのだと気づき遠退く意識の中…、『またか』と思った。


 心底思ったのである『こんな世界は嫌だ!』と!


 そして暗転…。

 ルミアーナは意識を失ったのである。


 美羽なりに考えてみた。

 ルミアーナは、いつも姿の見えない誰かの影にびくびくしていたようだ。


 本当に限界まで苦しんだのだろうと。

 自分の意識の中にある感情はもはや同化しているのでその悲痛さはひしひしとわかりすぎるくらい分かる。


 何故だかはわからないが

 何らかの力が働き頑丈な自分がルミアーナの中に入ったのかな?みたいな?


 実際のところは何がどうなってるかなんて分からない。

 神様でもでてきて説明のひとつでもしてくれればよいのにとため息をつく、


 そして思った。

 …美羽の記憶をもつ自分ならば、何となく生き抜けるんじゃないかと…。


 自分の中のルミアーナを救ってあげたいな…と。


 美羽はお姫様に憧れてはいたものの、本質的には姫より騎士、騎士より武士だった。

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