第122話

 真っ暗な夜の中。

 月が雲に隠される暗闇の中。


「クソっ……あれほどまでとは」

 

 第二皇子は無様にも敗走し、逃げるために森を走っていた。

 第二皇子の周りにはボロボロの配下もいる。


「これ以上はまともに戦っても意味はない……何か、何か考えねば……」

 

 第二皇子は必死に頭を回し、考えを巡らせる。

 だが、何か案が浮かぶことはない。第二皇子に軍略の才はなかったのだ。

 それでも諦めずに思考を回していると……。


「敵襲!」

 

 一人の騎士が叫んだ。


「何!?何処だ!?どこの人間だ!?」

 

「こ、これは……この敵は……イグニス公爵家!?」


「なっ!?あそこが動いたのか!?あそこの家があの脳筋についたのか!?何故……!何故!クソッ!!!」

 

 第二皇子の言葉。




「違いますよ」




 それを否定する凛とした声が響く。

 雲が動き、月が見える。


「あ……あ……」

 

 月光に照らされる一人の少女と……そしてその後ろに控える多すぎる騎士の数。

 横も、前も、後ろも。見渡せばいる騎士の数。

 完全に包囲されていた。 


「なっ……なっ……なっ……貴様!女風情がァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 第二皇子が絶叫する。

 そんな第二皇子の絶叫を覆い隠すように騎士の動き出した声が。


「アァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 悲鳴が。

 第二皇子配下の悲鳴を上げ、逃げ纏う。

 完全に戦意を消失した第二皇子配下をイグニス公爵家の精強なる騎士たちが次々と打ち破っていく。


「あ……あ……あ……」

 

 第二皇子は体を震わせる。声が漏れ、自分の野望が崩れ去っていくのを感じ、絶望する。


「終わりです。お兄様」


 馬に乗った第二皇女が第二皇子の方へと近づいてくる。


 月光に照らされ輝く鎧を纏い、馬の上から見下ろす第二皇女。

 地面に落ちて泥で体を汚して、馬の下から見上げる第二皇子。


 二人の明暗ははっきり見てわかる。


「クソッ!このクソ女がァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 絶叫を上げて手を伸ばす第二皇子。

 第二皇女は伸ばされる腕を切り飛ばし、頭上に剣を下ろす。

 死ぬことのないように剣の腹で。


「止血をしておきなさい。死なれても困るわ」


「はっ」

 

 騎士は頷き。止血を行う。

 第二皇子の軍勢も第七皇子の軍勢と同様に完膚なきまでに殲滅された。

 皇子以外は誰も残らない。完全なる鏖殺、虐殺だ。


「私があの人のことを心配するのも変よね……それでは行きましょうか」

 

 第二皇女も騎士を率いて合流地点へと向かった。

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