第108話

 血の匂い。

 地表にまで染み込んでいる血の匂いがその場にいる人間の鼻をバグらせる。


「ハァハァハァ」

 

 簡素な鎧とボロボロの槍を携えた男は息を切らしながら木陰で休んでいた。


「くっ……はぁ」


「ハァハァハァ」


「ふぅー」

 

 男の周りは同じ仲間である男たち、数十人が息を切らし座り込んでいる。


「おい」

 

 その中でも最も体が大きく、きれいな鎧を着ている男が、彼に話しかけてくる。

 彼はこの部隊の隊長だ。


「敵はいるか?」


「は、はいっ……今、探します」

 

 男は立ち上がり、周りを見渡す。

 魔法。

 それは普通の人には持っていない特別な力。だがしかし、必ずしも魔法は強力なものであるとは限らない。

 男も魔法を持ってはいるが、その魔法の効果は視力を良くするというもの。

 便利で使い所の多い魔法ではあるが、これだけで戦局を変えるような力はない。


「あっちの方向に正規部隊が……」


 魔法を持つ男はとある方向を指差し、そう話す。


「ちっ、正規部隊か……」

 

 隊長は舌打ちを一つ。こんな雑兵たちじゃ正規部隊には決して敵わない。


「一応打っておくか」

 

 隊長は魔法が使える男が見たことのない取手がついたL字型の謎の筒を取り出す。

 

 パンッ

 

 軽い音とともに、正規部隊を見つけた方向に色のついた煙幕が飛んでいく。


「おい、移動するぞ。場所が割れた。すぐに敵が来るぞ」


「「「は、はい」」」


 隊長の言葉に従い、男たちがゆっくりと立ち上がり、いそいそ移動の準備を始める。


「良し、行くぞ」


「「「は、はい」」」

 

 ここから移動する。

 魔法が使える男も立ち上がり、隊のメンバーと行動を開始した。

 その直前。

 魔法によって人外レベルにまであげられた男の視力は人影を。

 正規部隊を襲い、壊滅させた化け物のような人影を、鎧を纏った女性の姿を確認した。

 

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