第74話

「お茶をお願い出来るかしら?」


「只今」

 

 僕は第二皇女の言葉を聞いてお茶の用意を始める。

 今、僕と第二皇女がいるのはグニギラ連合国の王城とも言える屋敷の応接室でくつろいでいた。

 この場には僕や第二皇女の他にも第二皇女の護衛である騎士たちにいる。


 僕に与えられた休暇は終わり、仕事の時間だ。

 僕は秘書……というよりも執事の如く第二皇女へのお茶出しのようなお世話をしていた。

 別にこの仕事をこなすのは僕じゃなくていいだろう。しかし、この場に僕がいる。それが何よりも大事なのだ。

 トイ民族である『リーエ』がここにいることが。


「おまたせしました」

 

 机にお茶を出す。


「ありがとう。……あなたも座っていいわよ?」


「ありがとうございます。それでは失礼します」


 第二皇女が座っているゆったりとした広いソファーに座り、自分用に入れたお茶を僕も飲む。


「美味しいわね。ここはどこの茶葉かしら?」


「これはトイ共和国により輸入された茶葉にございます」


「あぁ。トイ王国の後進国ね」


「はい」

 

 僕と第二皇女が呑気に会話をしながらお茶を楽しんでいるとドアを開け、この場に一人の男性が入ってくる。


「すみません。遅れました」

 

 入ってきたのは上質な服を身にまとった物腰の柔らかそうな一人の男性。

 彼の名はオラキエ公。

 かつてのグニギラ連合国、ギザラ公国を支配していた貴族家の現当主だ。

 

 その一族は数多の移民を受け入れたことによって国のあり方が変わった今でも強い権力を保有している。

 この国で現在一番権力を保有している男。それこそが今目の前にいるオラキエ公である。

 

 オラキエ公は僕の姿を見て一瞬目を見開き、驚愕の表情を見せる。

 そんな表情はすぐさま散らしたが。そんな表情をこんな場で晒したことは大きな隙きだろう。


「えぇ。構わないわよ。こちらもゆっくりとさせてもらったので。どうぞ。座って」

 

 第二皇女が自分の前の席に座るようにオラキエ公に対して促す。


「それでは失礼しますね」

 

 オラキエ公は第二皇女の言葉に従い、ゆっくりと椅子へと腰を下ろした。


「それで?此度は何の用かしら?」


 くつろいだ姿勢を崩さないまま第二皇女はオラキエ公に対して疑問の言葉を投げかけた。

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