第73話

 グニギラ連合国。

 それが出来たのは実に最近のことだ。

 グニギラ連合国は住む場所を失った人たちが集まったことにより作られた国。

 魔導生物によって故郷を荒らされ、住む土地を失った人たち。

 その人たちがトイ王国と神国メシア率いる同盟の戦争によってその領土を戦場とされ、壊滅的な被害を被った小国、ギザラ公国に移住して出来た国なのだ。

 

 魔導生物の被害によってギザラ共和国に集まってきた主要な民族の数は全部で11。

 そして、この国にいる民族の数は12。

 

 残りのあと一つの民族は何か。

 その民族はトイ王国に暮らしていたトイ民族だ。

 国土を戦争によって荒らされ、母国の地に住むことの出来なくなったトイ王国に暮らしていたトイ民族たちがこのギザラ公国に移住していたのだ。


 当時。

 ギザラ公国。この国で王の代わりに君臨していた貴族。その一族の当主にリーエの叔母に値する人物が嫁いでいたのだ。

 それ故にギザラ公国においてトイ民族の立場はかなり大きなものだった。

 それこそ、魔導生物によって故郷をめちゃくちゃにされた民族が集まって形無している国で生活出来るまでには。

 それでもトイ民族に対する差別は酷いものだった。

 なので、トイ民族たちはグニギラ連合国の辺境の地にてトイ民族だけの土地を作り、そこで暮らしている。

 そのため、グニギラ連合国の王都であるここにトイ民族の姿を見ることはない。一人の少女を除いて。


 かつてこの国を治めていた貴族に嫁いだリーエの叔母に値する女性と嫁いだ一族の当主との間に生まれた娘。

 

 彼女だけはこの王都に残っていた。

 そして、リーエの叔母に値する女性が病死してしまった今。

 彼女だけが唯一このグニギラ連合国の王都に残っているトイ民族なのだ。

 そんな彼女の苦労など推して知るべしだろう。


「……まぁ」

 

 そんな彼女を骨の髄まで利用してやろうとしているのが僕なわけだけど。


「ごちそうさまでした」

 

 彼女と接触するべきなのは今じゃない。そう判断した僕はこの高級店から彼女を残して足早と退散した。

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