第62話

 お父様の言葉。 

 イグニス公爵家の言葉。

 前当主の言葉は強い意味を持つ。

 いきなり出てきた出来損ないの現当主なんかよりもずっと。

 だからこそ、反乱が起きた。犯罪者として断罪された者を旗頭として担ぎ上げてでも。


 そして、騎士たちは僕へと牙を剥ける。


「『ファイアーボール』」


「『ウォーターボール』」


「『ウィンドカッター』」


「『サンダー』」

 

 次々と僕に向かって飛んでくる多種多様な魔法。

 騎士たち。公爵家の持っている騎士団に入団している騎士たちは皆優秀な強者たちだ。

 魔術だって当たり前のように使うことができる。

 まぁ無詠唱で慌てて使った魔術だからそれほどの威力を持っていないのだけど。


「騒々しい」

 

 炎が。

 

 荒れる。

  

 生物が本来持っている炎への絶対の畏怖と恐怖。

 それを思い出させる。

 

「呑み込め」


 魔法によって生み出された魔法は全ての魔術を呑み込んだ。

 

 ガチャガチャ


 騎士たちはへたり込んでしまう。


「勝てない……」

 

 騎士のうちの一人が呟いた。

 それがここにいる者たちの総意であった。


 たった一つの絶対の炎。

 それが精強なる騎士団の心を打ち砕いた。


「ふざけるなッ!」

 

 だが、同じ炎を持つ者は僕に向かって平然と反抗してくる。


「死ねッ!」


 お父様は何の躊躇もなく僕に向かって炎を向けてくる。殺意をたっぷりと込めて。

 自分の子供に対してする仕打ちじゃくないか?

 まぁ僕も躊躇なく親を犯罪者へと仕立て上げ、牢屋へとぶち込んだけど。


「無駄だよ」


 お父様の炎。

 それは僕の炎によって容易く呑み込まれる。


「哀れな我が騎士たちよ。悪へとその身を落とし、犯罪者と成り果てた我が父に騙されるとは」


 僕は言葉を綴る。


「だが今。我らが汝らの悪夢を振り払ってやろう」


 強い言葉で断言する。


「巫山戯るなァァァァァァァァァァ!!!」

 

 絶叫。


「お前がッッッ!!!」


 お父様は絶叫のまま、感情に身を焦がして炎を向けてくる。

 お父様の憤怒の業火は。


「散れ」

 

 さらなる僕の憤怒の業火にとって呑み込まれる。

 そしてそのままお父様を呑み込んだ。


「牢屋へとぶち込んでおけ」

 

 全身に酷いやけどを負って倒れたお父様を横を通り僕は屋敷の中へと入っていった。

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