第55話
「……黙れ……」
僕に見つめられる第五皇子が。
わなわなと体を震わす第五皇子が。
ぽつりと呟く。
「黙れぇ!」
そしてそれは絶叫となる。
「お前に何がわかるッ!無能がッ!無能風情がッ!」
第五皇子は絶叫を上げ、そして、そして、そして。
絶対にしてはならない行為を行ってしまう。
「『ファイアーカノン!』」
第五皇子は魔術を発動させる。
かなり高位の魔術、そしてそれを何の詠唱も使わずに発動させる技量。
第三皇女とまでは行かないが、かなりのものだろう。魔法だけで言うのであれば第二皇女よりも高いかも知れない。
「愚かな」
だが、この僕に。
炎の支配者たるこの僕に、イグニス公爵家に炎魔術を向ける。
それ以上の愚策は存在しない。
「ふー」
僕は息を吐く。
小さな息が。
第五皇子のファイアーカノンを優に呑み干す絶火の紅蓮と化す。
「なっ!?」
一瞬。
第五皇子のファイアーカノンを呑み干した僕の魔法はそのまま第五皇子へと迫り、あっさりと吹き飛ばした。
服は焦げ、髪は全て焦げ、全身にひどいやけどを負った状態で第五皇子は倒れる。
「運んでいけ。さっさと治療せねば死ぬぞ?あぁ。治療が終わった後は牢屋にぶち込んでおけ。此度の件の首謀者はあやつであろう。最も、あやつでなかったとしてもこの我に牙を剥いた。それだけで捕まるだろうがな」
この世界は絶対王政ではない。貴族もかなりの力を持っていて、四大公爵家当主は皇太子レベルの権力を持つ。
自らの上は皇帝陛下のみ。
皇太子にもなっていない第五皇子よりも僕の方が遥かに権限が高いのだ。
「さて、問題は第五皇子に付き従っていた者たちの処罰よな。おそらく何も関与していないわけじゃないだろう」
僕の言葉にこの裁判所にいる多くの貴族たちの体が震える。
主君の敗北を悟ったのだろう。
「だが、甘い言葉で騙されていた哀れな群衆を裁くのも気が引ける。自ら多額の賠償金を背負えば許してもらえるよう、我が宰相殿に掛け合ってみよう」
僕の言葉に、貴族たちは希望の眼差しを向けてくる。
「いえいえ」
僕の言葉に。
僕の言葉に否と唱えたのはエリュンデ公爵家当主である。
「賠償金ではなく、領地にするべきでしょう」
「いいや?領地とは代々受け継いできたのものだ。そう簡単に手放せぬ。領地の切り取りを行うなど得策ではなかろう。遺恨が残る」
「いやいや────」
「いやいや────」
僕の言葉をエリュンデ公爵家当主が否定し、エリュンデ公爵家当主の言葉を僕が否定する。
この場は公爵家同士の己の利益のぶつけ合い、駆け引きの場へと変貌していった……。
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