第52話

 僕は尊大に、誰よりも偉そうにその扉を、王都王立裁判所の扉を開く。


「……すみません。イグニス公爵家次期当主殿。この場に出席することを認められているのは貴族の当主のみなのです」


 この場の中央に座っている裁判長が恐る恐る僕に向かって言葉を告げる。その瞳には色濃い恐怖の感情が見えている。

 

「それくらい我も知っている。昨日。我が父が裏組織との繋がりで逮捕されてな」

 

 裏組織。

 その言葉を聞いて裁判長の隣で余裕綽々と思われる様子で座っていた第五皇子の表情に動揺が浮かぶ。


「我がイグニス公爵家当主となったのだ」


「なっ!?」

  

 この場が騒然となる。

 貴族たちがざわめき始め、何か信じられないようなものを見るかのような瞳をたくさんの貴族たちが僕に向けてくる。

 当然だろう。

 公爵家の当主交代。

 並びに公爵家当主が犯罪によって投獄される。

 あまりにも大きすぎる情報だ。

 第二皇女の裁判よりも圧倒的に重要なことだ。比べることすらおこがましい。

 四大公爵家が一つ揺れるだけで帝国が揺れ、二つ揺れれば国が傾くとすら言われているのだ。

 

「それ故に我にもこの場への参加権があるはずだ。そうだろう?裁判長」


「あ、あぁ」

 

 裁判長は僕の言葉を聞いて頷き、歩き始める。


「うむ。そういうことだ。これより我も参加させてもらう。よろしく頼むぞ」

 

 僕は公爵家用に用意されている席の一つに座る。

 テーブルの上に足を乗せるという姿勢の悪さを見せつけて。


「さて。我のために此度の事件の概要を聞かせてもらおうか?」

 

 僕は誰よりも偉そうに裁判長に対して命令を下した。

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