第51話

 しくじった。

 第二皇女、スシャーナは心の中でひたすらに悔いていた。涙を我慢するのに必死だった。

 どうしようもないミスを前に。


「お前は失脚し、そして俺の妻となるのだ」

 

 スシャーナの隣に立って醜い笑みを浮かべている一人の男、第五皇子、レジアイガ。

 レジアイガはスシャーナを笑う。


「楽しみだよ。お前の処罰が」

 

 耳元で醜い声で囁いたレジアイガは石畳の上に無様に座らせられているスシャーナを置いて、歩き去っていった。


「行くぞ」

 

 隣に立つ騎士たち。

 彼らの言葉を受けてスシャーナは立ち上がる。

 これからスシャーナが向かわせられるのは、王都王立裁判所。

 皇帝家や、位の高い中央貴族が何かミスをしたときに使われる裁判所。


「ここだ」

 

 数多の貴族が座っている裁判所。そこの中央に座らされる。

 これから始まるのはスシャーナへの裁判だ。


「罪状はテレジア魔術学園武闘祭での魔物を使ったテロである」

 

 裁判長が厳かに話し始める。

 そんな罪状など知らないし、そんな冤罪をふっかけてきた理由はスシャーナが魔物を世話を任せれていたからという証拠と言うにはあまりも弱すぎるもの。

 証拠など無いだろう。

 当然だ。私はやっていないのだから。だけど、そんなことは関係ない。

 

 これは出来レースなのだ。

 裁判に参加するかしないか。それは貴族自ら選ぶことだ。

 そして、その貴族たちによって有罪か無罪かが決められる。

 公平な裁判なんかじゃない。これも派閥争いの一環でしかない。

 スシャーナに友好的な貴族たちは何かあったのか、この場にはいない。その代わりに普段は顔を見せないような


 裁判はトントン拍子に進んでいく。

 スシャーナの


「ごめんなさい……」

 

 スシャーナの口から漏れる言葉。 

 それは自分に付き従い……そして共に捕らえられてしまった部下たちへの謝罪。


「下級貴族たちの賛成は多数。……公爵家の皆様はどう思われますかな?」

 

 裁判長の言葉は一番奥、最も高い位置に座っている裁判に参加している公爵家の当主たちに向けられる。

 公爵家の当主の言葉は重い。その発言一つでこの裁判の流れは一瞬で変わってしまうほどに。

 だからこそ彼らは迂闊に行動したりはしない。その発言には重すぎる責任が伴っているからだ。

 ……裁判は覆らない。

 スシャーナは何も出来ない。

 まだ皇子たちは動かないというスシャーナの慢心が……何も成し遂げられずにこいして名声が地に落とされるという結果を招く。

 スシャーナの瞳から涙が溢れる。

 その時。


 バンッ

 

 扉が大きな音と共に開かれる。


「ふむ。我も参加させてもらうが構わぬな?」

 

 開かれた扉より入ってきた一人の男。

 イグニス公爵家、次期当主。

 イグニス公爵家の長い歴史の中で最も愚鈍と呼ばれた男。

 そんな男がこの場に訪れたことで、事態は大きく動き出す。

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