第50話

 有無を言わせない。

 強権。

 お父様を犯罪者として逮捕。公爵家当主の席が空席ともなればそこの席に誰かが座る必要がある。

 そして、その席に最も相応しいのは僕だ。

 次期当主たる僕が座るべき席だ。

 お祖母様は元々僕の味方だ。あの人が僕の味方としてお祖父様やお母様に動いてくれている。それにより、突然の当主交代もスムーズに行われた。

 

「さて。馬車を出せ」

 

 僕は隣に立つ執事長、お父様の側近中の側近に告げる。


「は?」 


「馬車だよ。馬車。わからぬのか?我は今すぐに王都に向かう」

 

「……は!?いえ……今はご自身の足元をお固めになるのがよろしいかと思います」

 

「……我の言葉に逆らうというのか?」

 

 僕は執事長を睨みつける。


「……只今準備してまいります」

 

 執事長はゆっくりと頭を下げて、僕の言葉に従う。

 その瞳に浮かんでいる落胆の感情。それを僕は容易く理解することが出来る。


「それではしばし失礼致します」


 執事長が今僕がいる執務室から出ていく時、その瞬間。

 僕は声をかける。

 

「ふっ。期待している。そうお父様と我が愚弟、愚妹に告げておけ。我から当主の座を奪うようにな」


「……なっ」

 

 僕の言葉に執事長は面食らう。


「我は面倒なのは好かん。これが今必要だったからこそ動いたまでのこと。……今王都は荒れている故にな」


「……王都が?」


「うむ。我は動かざるを得ない。しかし、我が当主たる器にあらず。当主など我が望むものではない」


「なっ……」

 

 信じられないものを見るような視線をこちらへと向けてくる。


「護衛は最低限にしておくが良い。では行ってくるがいい」


「……はっ。承知致しました」

 

 執事長が今度こそ執務室から出ていく。

 

 人はそう簡単に評価を覆せるものでない。

 明らかに愚か、とは言い難い立ち回りに底知れ無さを見せた僕に対してもまだその能力への疑念の心を完全に打ち消すことなんて出来やしない。

 執事長は僕の言葉を額面通りに受け取り、行動を開始するだろう。

 お父様や僕の弟、妹を利用して僕を当主の座から引きずり落とすために。そしてそれが出来ると信じて疑わない。なぜなら僕の評価は限りなくゼロに近い、というかマイナスと言っても良いのだから。

 

 不安要素は出来るだけ徹底的に排除しておきたい。

 弟も妹も僕の可愛い血の分けた家族ではあるが、いかんせん頭が足りない。正直邪魔だ。大人しくしていてもらいたい。

 やるのだ。前に出るのだ。

 やるのならば徹底的に、完璧に一切の無駄なく。

 

 全ては僕の目的のために。

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