第49話

「スキア様」


「うむ」

 

 僕は隣に現れて、僕の名前を呼んだアインスの方を向く。

 アインスの隣には何処かミステリアスな雰囲気を漂わせる真っ白な髪と赤い瞳を持った少女が立っている。彼女の名前はゼクス。『クロノス』の12人の円卓メンバーのうちの一人だ。

 ゼクスは転移魔法という圧倒的すぎる魔法を持った少女だ。


「ゼクス。よろしく頼む」


「はい。スキア様」

 

 ゼクスは僕の言葉に頷き、魔法を発動させる。

 視界が真っ白に染まり、膨大な魔力が僕を包む。

 転移先はイグニス公爵領だ。

 

 ■■■■■

 


 コツコツ

 

 イグニス公爵家の広い屋敷の廊下。

 そこに僕の歩く音が響く。

 数多の騎士を引き連れて堂々と歩いている僕に対して、使用人たちは全員呆然と僕を眺める。

 僕が向かうのは執務室だ。お父様とお母様とお祖父様、そしてお祖母様がいる、ね。


 コンコン

 

 僕は一つの扉の前に立ち、扉をノックする。

 

 ガチャ

 

 そして何の返事も聞かぬまに扉を開き中に入る。


「っ!何のようだ?」

 

 部屋の奥の中央に座っていたお父様が僕を見て眉をひそめる。


「突然入ってきて何のようだ?無礼者が。ここはお前のような人間が来るような場所ではない」

 

 侮蔑の視線を隠そうともせずにお父様は僕に投げかけてくる。自分の子供に向けて良いような視線じゃない。

 

「いやいや。実に大変なことが起こっていてね。入ってきていいよ」

 

 僕の一言を聞いて騎士たちが雪崩込むように執務室に雪崩込んできてお父様に向かって槍を向ける。


「なっ、何を!?」


「今朝。面白い情報を手に入れてね。どうやらその情報のよるとあなたが今巷を騒がせている『クロノス』と密接な関係にあるようだ」


「な、何を言っている!貴様ァ!自分が何をしているのかわかっているのかッ!」

 

「もちろんですよ。お父様。連れて行け。こいつは今や只の反逆者だ」

 

 騎士たちがお父様の身柄を抑えるために近づいていく。


「貴様ァ!もう許さぬッ!私に触れるなッ!」

 

 お父様は自分に近づいてくる騎士たちを魔法で生み出した炎を持って遠ざけ、その炎を僕に向かってぶつけてくる。 

 殺す気満々の炎。


「無駄だよ」

 

 僕は魔法を発動させる。

 紅蓮の炎。僕の炎は容易くお父様の炎を呑み込んだ。

 

「なっ……」


 お父様は絶句する。

 自分の魔法が打ち破られて。


「ふんっ」

 

 僕はお父様のすぐ背後に高速で移動し、首根っこを捕まえて放り投げる。

 それを騎士たちが取り押さえる。


「ふー」

 

 僕は執務室の椅子。さっきまでお父様が座っていた椅子へと腰を下ろす。


「今このときより我がイグニス公爵家当主だ」

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