第36話

 ローオス帝国には全部で七家の公爵家が存在する。

 四大公爵家と呼ばれ、圧倒的な力の魔法を持つ

 炎をイグニス家

 水のアクウァ家

 風のウェントス家

 土のフムス家

 この四家はローオス帝国皇帝家、ローオス家とともにローオス王国を作った家だ。

 そして、公爵家にはこの四家の他に、皇帝家の分家である3つの公爵家が存在している。

 それがマラキア公爵家。アルマニア公爵家。エリュンデ公爵家。

 この三家は帝国内でも重要なポジションの大臣につき、皇帝家を支えているのだ。

 エリュンデ公爵家は代々外交を一任され、外務大臣の職についていた。現在のエリュンデ公爵家の当主も現外務大臣である。ものすごい有能で、各国の外交官を手玉に取っているんだそうだ。

 

 そんなエリュンデ公爵家の当主がなぜかリーエの家に来ていた。

 いや、来た理由なんてわかっているけど。来るだろうと予想はしていたけど。


「な、なぜ公爵家のご当主様がここに……?」


「あぁ。そんなに緊張しなくていい。別に私は君の身柄を確保しに来たわけではないからね。今日第二皇女殿下と面会してね」 

 

 今日、第二皇女と面会した貴族がこいつだ。

 

「そこで君の話を聞き、興味を持ったというわけさ。ということでそんなに緊張しなくて良い。楽にしてもらって構わない」


「は、はい」

 

 僕はこの男の言葉に頷く。


「すみません。お茶も出さないような家ですけど……」

 

「あぁ。気にしないでいいとも。こちら側が押しかけてきたのだからね」


「それで?何のようでしょうか?」

 

「用、ね。用はすでに済んだ」


「は?」

 

 だろうね。こいつは『リーエ』を見たかっただけだ。

 こいつもまたこちら側の人間というわけだ。


「で、では?」


「うん。じゃあ私はそろそろ帰ろうかな」


「え?」


「あぁ。うん。また気が向いたときに来るから、その時は優しく出迎えてくれ。それと、君と同じ学校に私の娘も通っていてね。ぜひとも仲良くしてやってくれ。後、私も自由に君の家に来るからね。君もまたいつでも私の家に来てくれて構わない。いつでも歓迎しているよ」


「は、はい」


 僕はエリュンデ当主の言葉に頷く。

 

「じゃあそれじゃあ」

 

 エリュンデ当主は立ち上がり、玄関へと向かう。


「また来るよ」


「は、はい。お待ちしています」

 

 僕は煮えきらない態度を作りながら社交辞令とともに頭を下げた。

 厄介な来客。

 エリュンデ公爵家当主はいきなり現れ、特に何もすることなく帰っていったのだった。

 ……あの人自分の名前も言わないで帰りやがった。

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