第32話

「待ってたわよ」

 

 部屋の奥の椅子に腰掛けていた第二皇女が僕に笑顔を見せる。


「ミリアを苦戦させていた者たちを相手にあなたはよく頑張りました。褒めてあげましょう」


「ありがとうございます」

 

 僕は第二皇女の言葉を聞いて頭を下げる。

 第二皇女のその言葉にも、僕のこの言葉にも何の感情も宿っていない。第二皇女は無能じゃない。

 第三皇女がギリア族を支援していたことくらいなんとなく察していただろう。


「しかし、わからないわ。なぜギリア族をイグニス公爵家の元へと送ったの?そこだけが気がかりだわ」


 第二皇女が純粋な疑問をぶつけてくる。そこに疑いの気持ちは入っていなかった。

 

「第三皇女殿下が誰も死なせたくないと、無茶振りをされたので、その期待に最大限応えたまでのことです」


「えぇ。それはわかっているわ。私の妹だもの。あの子が底なしのお人好しであることをよく理解しているわ。疑問点は一つ。なぜイグニス公爵家なのか。あの家の次期当主はクソ中のクソよ。無能の極み」


 ……本人目の前にいるけどね。


「そんな彼のもとになぜ送ったの?」


「す、すみません」

 

 僕は動揺しているかのような演技をして言葉を告げる。


「イグニス公爵家の次期当主がそんな人だと知らなくて……申し訳ございません!最も地形的に適しているのがイグニス公爵家だろうという判断で……」

 

 僕は申し訳無さそうな声を出して告げる。


「あぁ。そうね。あなたは平民だったわよね。他領の当主、次期当主のことなんか知らないわよね。これは間違いなく私の失態ね。あなたがちゃんと勉強できるように手を回しておかないとね」


「お手を煩わせてすみません」


 僕は第二皇女に頭を下げる。


「良いのよ。こちらの失敗なのだから。あなたが気にすることじゃないわ」


「ありがとうございます」


「あなたにはしばらく私の事務仕事の手伝いと、この国の内情の教育ね。あなたには私の側近になってもらいたいのよね。あ、学園の復学の手続きは済ませておいたわよ」


「ありがとうございます」

 

 いやー、やっぱ第二皇女は有能だね。皇帝にするのならこの人がいいかな。

 色々考えなきゃいけないことが多すぎるなぁ。

 多分この人は『リーエ』のことも知っているのだろう。

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