第三話 Sクラスの生徒達
現在時刻九時。
入学式の終わるまで、校舎を見回り時間を潰していた俺は、教室へと向かいつつ、先程言われた事を思い返す。
結論から言うと、俺は一年部。その筆頭たるSクラスを担当する事になった。
S・A・B・C・D・E。各学年六クラスある中でも優秀な人材が多く集まったクラス。
それ即ち、未来の帝国を率いる者達。
それが、Sクラスの生徒。
故に新人講師には少々荷が重い。
しかしエリックはといえば『君以上の適任は居無い』と宣うばかりだ。
「確かに負ける気は無いけどさ」
魔法の腕で負ける気は無い。けれども教えるとなれば話は別だ。
生徒の興味を惹く技術、耳にスッと入る喋り方、等々。
如何考えても先輩方の方が上だろうに、何を考えているのだろうと首を捻る。
「まぁ基礎が出来ている方が教えやすいし」と嘯き、人事への不満を押し込んでいると、何時の間にか教室に着いてしまった。
「どれ程高名な方が来るのだろうか。やはり例年通りクロノハイト教諭か?」
「いやいや去年のAクラス担任であったサテラン教諭かもしれないぞ!」
扉の前の前に立つと、中からガヤガヤと話し声が聞こえて来た。
(まだ一年生だしな)
入学したばかりで浮かれるのは良く分かる。子供にとって、未知の場所とは心惹かれるものだ。だが、そろそろ一限目が始まる。周囲の迷惑にならない様、黙らせるべきだろう。
そう判断した俺は、戸を勢いよくスライドさせる。
「「「——!」」」
ガララララっと。
怒り立つ様に鳴り響く扉。
それに呼応するかの様に静まる教室。
音源へと。
集まる視線に溜息を吐きつつ、俺は足を踏み出した。
「此のクラスの担任になった、アレク・オックスフォードだ。これから宜しく」
教壇に立ち、生徒達を見渡す。
浮かぶ視線は等しく怪訝。「誰だコイツ」といったモノ。
……目を輝かせている生徒が、二名ほどいるが気にしないでおこう。
ともあれ俺個人の自己紹介は終わった為、生徒達に其々名乗る様促す。
「それじゃあ……右端から順番に自己紹介してってくれ」
そう告げる俺だったが、案の定というべきか。
それに異を唱える生徒がいた。
「——ちょっと待った」
神経質そうな青髪の少年。
瞳の奥に、冷徹さと幼さを宿した〝貴族〟の少年は、静かに声を上げた。
「僕達はSクラス……本年度の最優秀組だっ!
余程腹に据えかねたのか。
教わる立場とは思えぬ程、傲慢に言ってのける少年。
確かレッペルト侯の子息だったなと。
場違いにも思うは、慣れてしまっているが為。
実力主義を掲げる帝国であっても、少数とはいえ、血統主義者はいる。
それ故必然的に皇族の従者をしていたなら、何度も遭遇しているのだ。こういう場面には。
「フィルデナント……お前は知らないのか?帝国は実力主義を掲げている。平民だのどうこうは関係ない。……最悪反逆罪に問われるぞ?」
敢えて名前で呼び、高圧的に接する。
帝国の実力主義が最も顕著なのは
家庭教師に習った為上位クラスは貴族子弟ばかりだが、実力が有れば平民とて成り上がる。
特に二、三年は入れ替わりが激しい。
そもそも此処はこの国唯一の〝帝立〟学院。
皇帝肝入りで造られた場所。
此処で大っぴらに血統主義を謳うことはそれすなわち、――皇帝の政策に異議を唱える事と同義。
それを理解したからか。
フィルデナントは湯気が出るのではないかという程に赤くなると、静かに腰を下ろした。
「それじゃあ、自己紹介を」
「……、——。——」
一拍間をおいて、緊迫した雰囲気など無かった様に続いていく紹介文。
特に滞る様子を見せないそれを聴き流しながら、俺はペラっと魔法書を捲った。
次いで思うはただただ疑問。
(——
俺とて知識も無しに講師をやろうと考えた訳ではない。
当然魔法は使えるし、その他教える内容についてもある程度は自信がある。
しかし——。
『魔法は、呪文を唱える事によって発動する、神秘の力である』
なぞと云う事は聞いた事が無い。
自らの知る
面倒なことを引き受けたなあ、と。知らずと漏れる溜息に、此処数年一番の憂鬱を込める。
ガタン、と。
誰かの座る音と共に、先程まで似た様な抑揚で、読み上げられていた言葉が途切れる。
それを以て、一先ず俺は顔を上げた。
(仕様がない、か)
本をパンっと閉じ、教卓に転がす。
そして彼等に向けて問い掛けた。
「——お前等、魔法は使えるな?」
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復帰一番目。はじめましての方は初めまして。そうじゃない方は本当にお待たせしました。琴葉刹那です。近況でも述べたように受験が終わり復帰しました。
とりあえずちょっとだけ手直ししたので出しておきます。また後日気に食わなくなったら直しますが。
大学生活始まったばかりなので不定期ですが今後ともよろしくお願いします。
それではまた次回お会いしましょう。ばいばーい。
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