第一話 二人の邂逅

「こっちの野菜は新鮮だよー!」「歯応えのある肉は要らんかー!」「偶には魚、食べてみないかい!」


 売り文句の飛び交う大通り。帝都南部に住まう人々が、一日一回は必ず通る場所。家を出た俺はそんな人の密集地を猛スピードで走っていた。


「——やばい遅刻しそう……!」


 飛び出す言葉。その焦りっぷりは道行く人を苦笑させる。何をそんなに焦っているのか。それは右手に固く握り締められた俺の宝物が物語る。

 十歳の誕生日に戴いた懐中時計。縁に俺の名前があしらわれたそれは、現在八時を指し示していた。


(初日でクビとか冗談じゃないぞ!?)


 二年前までとある仕事に就いていたのだが、ある一件以来退いた。

 その事に後悔はしていない。守れなかった俺にあそこにいる意味も資格もないのだから。

 しかしそれの後やる気を無くして無職。これが良くなかった。

 この二年で蓄えは無くなり最早手元にあるのは金貨一枚。あと数ヶ月保つかどうかの金額。故に何としてもクビにあるわけにはいかないのだ。

 しかしながら時間が足りない。

 学院の開始時刻まであと三十分。で、あるのだが、新人講師たる俺は十分には来る様言われているので残りタイムリミットはその三分の一。

 帝立魔法学院は帝都中央の帝城近く。対して家は南門付近。どんな道を行こうとも、間に合う筈がない。——普通ならば、、、、、


「……仕方ないか」


 転瞬俺は消えた。いや、傍から見れば消えた様に見えるだろうが、実際は路地裏に入っただけ。こんな街中で、悪目立ちなどしたくはない。


「〝身体強化フィジカルブースト〟」


 周囲に誰もいない事を確認し、白色の魔法陣を展開。呟き、発動するは無属性初級魔法、〝身体強化フィジカルブースト〟。

 しっかり発動したのを確かめると、——大きく跳躍。


「行くか」


 数倍に跳ね上がった身体能力を用い屋根の上を駆ける。


(これなら間に合うだろう)


 少し安心する今日この頃であった。


◆◇◆◇


 無事約束の一分前に到着した俺は、学院長室に案内された。


「それではこれで」


「有難うございました」


 礼を言い、目の前の扉を軽く叩く。

 暫くすると、中から聴き馴染んだ声が聞こえて来た。


「どうぞ」


「失礼します」


 一言断り扉を開ける。小さく空気が振動し、ぎぎいと音が鳴った。

 来客用の向かい合ったソファー。その後方、両端に位置する本棚。それらは一目見ただけで高級品と分かる艶があり、唯一の帝立学院。その学院長という地位の高さが伺える。

 その重責に座すは、この部屋の最も奥。窓から差し込む陽光に照らされている学院長席。それに座る、今現在目の前で、両肘をつき、顔前に手を組んでいる一人の青年である。


(……変わらないな。こいつも)


 二年前と変わらぬ艶のある銀髪。そしてその翡翠色の瞳には、一抹の懐かしさが垣間見えた。


「此の度本学院の講師となりました。アレク・オックスフォードです」


「………」


 ただひたすらの無言。しかも心なしか目がどんどん冷たくなっていき——。

 ——もしや何か間違えたのだろうか。いやそんな筈は……。礼儀作法は散々に叩き込まれたし。

 一体何が原因だというのだろうか。さっぱり分からない。

 重々しい沈黙が、俺と学院長の間に流れる。さざ波の如く漂ったそれを打ち破ったのは、今の今まで黙りこくっていた彼の方だった。


「……アレク」


 長き静寂。その果てに紡がれた一声に、思わず喉がごくりと鳴る。瞬間己の心が硬く身構えられたのは言うまでもない事。

 しかし、その刹那に投げ掛けられた言葉は俺の心構えを杞憂とした。


「どうしてそんな他人行儀なんだい?」


「……へ、?」


 思わず間抜けな声が出た。先程までの緊張感は何処へやら。強張り、各箇所へと溜まった力が、早々に霧散して行った。


「……学院長と一講師ならこの距離が適切だと思いますが」


「僕と君の仲じゃないか!それなのに今回も……。君が講師になったことを知ったのだって、ついさっきなんだよ?」


(そう言われても……)


 公私混同甚だしい元同僚の言に、俺は戸惑う。

 身分は『公子』と『平民』。けれども、かつては同じ『側近』。

 だが、今は『学院長』と『講師』。

 身分どころか、役職が違う。

 対等なんて、ある筈がないのだ。

 しかし、そんな俺の心境を知ってか知らずか。

 

「兎に角。敬語はやめてくれ。アレクにまでそんな態度を取られたらちょっと寂しい」


 ——可愛い弟が離れてく気がしてさ。


 等と抜かす公子殿に何と答えるべきか。 

 『まで』という発言に、少々引っ掛かりを覚えるも、どうすべきかと思考を回す。

 脳裏を駆け巡る過去を振り返り……思わず溜息。


(こうなったら曲げないんだよなぁ)


 口で勝てた事は無く、抵抗は無駄と判断。基本的に立場を考えてくれる人ではあるものの、変な所で意固地なのは、亡き主と変わらぬらしい。


「……分かったよ。これで良いか?エリック」


 勝負するだけ無駄である。その結論に従い、両手を上げる。

 苦笑が漏れたのは俺自身も『かつて』を想ったからか。

 返事を聴くと、エリックは満面の笑みを浮かべ、芝居掛かった口上を並べた。


「よろしい。——ようこそ!魔法学院へ!学院長のエリック・フォン・フェリスティーアだ。よろしく。アレク」


 「再会の証に」と、右手を差し出してくる彼に、俺はまた笑う。浮かべたのはエリックと同じ種のモノ。喜びの顔だ。


(懐かしいな)


 久しき友との再会を記念し、俺たちは固く手を握るのだった。

 

————————————————————

 初めましての方は初めまして。そうじゃない方はお久しぶりです。今回のカクヨムコンテスト間に合わなさそうと、冷や汗を流す琴葉刹那です。

 文章変になってませんよね?大丈夫ですよね?

 星&応援ありがとうございます!これからも頑張ります!

 まだ十話までしか書けてない。短編の方に集中するか。

 来週にはテスト。死ぬ。

 近況はここまでで、次は魔法紹介。(ほとんどメモ。ネタバレはしません。たぶん)


 古代魔法。詠唱ではなく、魔法陣を描くことで発動する魔法。魔法を直接制御するので、脳や心体への負担が大きい。大器晩成型。極めれば目の前に一瞬で魔法が出て来たりと凶悪。現在では喪われているが、アレクのみが使用可能。


 現代魔法。呪文を詠唱することによって魔法陣を描く魔法。かつての魔王襲来時に、とある賢者によって、『誰でも使える魔法』として創られた。言霊十割の魔法。現代では全部これ。


 無属性。無力化や身体強化の魔法。他にも、練金系統、時空系統などがある〝身体強化〟は身体能力を数倍に強化する魔法。幅広いが、大半は戦闘向きではない。魔法陣の色は白。


 炎属性。火力と範囲を重点に置き、また燃やせる。魔法陣の色は紅。


 水属性。受け流しなど、護りに特化しているが、攻撃性能も高い。大津波出してくる。魔法陣の色は天色。


 氷属性。攻防一体。範囲そこそこで、攻防共に優秀。水が柔なら氷は硬。砕けない。魔法陣の色は蒼。


 風属性。最も範囲が広い魔法。自由度が高く、飛行魔法有り。魔法陣の色は翠。


 雷属性。貫通、一点集中。一応面制圧もあるが、範囲は他の魔法に比べて狭い。飛翔速度がピカイチで全属性中ニ番目。探知魔法があり、地味に磁石が中級魔法だったりする。魔法陣の色は紫。


 光属性。全属性中ほぼ唯一の治癒可能魔法。魔法飛翔速度が最も速い。魔法陣の色は黄色。


 闇属性。主に欺瞞や隠蔽が得意。毒とかもある。拘束魔法もなかなか。魔力の波が小さく、全属性中最も発動が静か。闇夜とか誰も気付かない。魔法陣の色は黒。


 とりあえずここまでにします。可笑しいところがあったら教えて下さると幸いです。それではまた次回。ばいばーい。


 



 


 

 

 


 




 




 


 











 


 


 

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