その剣は誰が為に ——主亡き騎士は何を願う——
琴葉 刹那
第一章 学院の陰謀
プロローグ 皇太子の死んだ日
アウターハッグ伯爵領領都、アウターハッグ。
そこは今燃えていた。
軒並みには無数の剣線が走り、必ずと言っていいほどに皆半壊状態。
領民は迫り来る炎から必死に逃げ惑う者、燃え上がる家を見て地面へとへたり込む者、気が狂い炎へと飛び込む者、混乱に乗じて自らの欲を満たさんとする者に分かれ、混沌たしていた。
そんな死の街の中心。そこに位置する大広場には、無数の死体と———一対の主従の姿があった。
「殿、下……」
従者と思われる蒼色の服を着た黒髪の少年が、目に涙を溜めて主を呼ぶ。
倒れ臥す金髪の青年は、そんな彼を安心させる様に笑いかけ、優しい声音で言った。
「俺は、……もう駄目、みたいだな」
「殿下!」
少年は思わずといった様子で口を遮る。
「そんなことありません!殿下は、殿下は絶対に助かります!だから——」
どれだけ自分に言い聞かせても、どんなに大丈夫だと言い張っても、非情な現実だけが目の前にある。
少年の瞳に、逸らし続けていた胸部の刺し傷が確かに映った。
———あっ。
少年の中で何かが切れる。少年の中で何かが壊れる。
「弱気に、ならないで、くだ、さい。殿下は、でん、か、うぅ」
蓋をしていた感情が溢れ出し、少年の頬を熱い涙が伝う。
嗚咽を漏らし、目尻が赤く染まっていく。
そんな彼の頬に、青年はそっと手を添えた。
「殿、下」
「よく聞け。これからお前に最後の命を与える。それは———」
青年は少年へと最後の命を下す。
それを少年は滂沱の涙を流しながらも、目を背けず、ただただ聞く。
「———。酷なのは分かっている。俺の務めを、お前に押し付けてるだけだってことも。だが、頼む」
沈痛な面持ちで懇願する青年。
それにやはり少年は涙ながらに真剣を地面に突き刺し、膝を突く。
「———臣。謹んで承りました」
その誓いを聞いた青年は安堵の表情を浮かべ
「そう、か。ありが、とう……」
「……殿下……?」
返事はない。少年の主はもう、ここにはいない。
「ああああああああぁぁぁぁあああ!!!」
少年の慟哭が、燃え滓となった街に深く、深く深く木霊する。
「ああああああぁぁぁぁぁあああ!!!」
少年の視界が黒へ、黒へ黒へ塗りつぶされてゆく。そして——
「ぁぁぁぁあああ!!!」
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
吸う、吐く、吸う、吐く。過呼吸気味に一連の動作を繰り返す。嫌な汗が今尚大きく動く首を通り、ベッドへと滴り落ちていく。
「夢、……か……」
自らの部屋であることを確認した青年は、息を落ち着かせ呟いた。
あの頃の夢をいつも見るが、目覚める前には必ずあの悪夢に変わる。それが意味するところはやはり——。
「行かないと」
青年は暫く窓から差し込む陽を眺めていたが、やがてむくりと起き上がる。
クローゼットの前で歩みを止め、それを開き、徐にハンガーへと手をかける、が。
「———」
蒼色の服を取ろうとしていたことに気付き、青年は顔を顰め、素早くその隣の講師服を手に取り身支度を済ます。
そして扉を開けて、——再び歩み出すのだった。
———————————————
初めましての方は初めまして。そうじゃない方はお久しぶりです。琴葉刹那です。
今回のはカクヨムweb小説コンテスト用のものになります。果たして彼は何のために何を成すのか、是非お楽しみください。
さて私事を。これ書くの二回目なんですよね。なので近況ノートに書いたノルマは達せられていると言う事をよろしくお願いします。設定の時にぐだったせいでタイトルが増殖して消していたら本物も消えていました。涙流したの久しぶり。昨日の宣言を後悔はしてないけど、今日使える時間起きてからなら大会補助委員なり塾なりで三時間程度だったのですっごい「ふぁぁぁぁーー!!!???」ってなりました。消えた事で若干イラついてたし、涙流しながらなので視界ぼやけるしで誤字あるかもです。それではメリークルシミマス。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます