第8話 わたしたちの燃える想い
火の中に入ると、燃えさかる炎がどこまでも続いていた。
大きな岩や、燃え落ちない木が、ところどころにある。
外から見た分には、数メートルしかなかったはずなんだけど……。
「神さまパワーで、違う時空になってるのかな?」
少し歩けば終わると思ったんだけど、これは困ったことになった。
とにかく、出口を探さなきゃ。
あたりは燃えているけど、さっきよりは熱くない。
ニニギは、アマテラスの孫だから、火の試練なんだよね。
だけど、この火は熱くないし、むしろ……。
「優しい気がする」
ニニギに包まれているような、大事にされているような……。
さっきのニニギ、なんだか後悔しているような顔をしていた気がする。
どうしてだったんだろう?
「まったく……どうしてここまでしちゃうんですか」
突然、上から声がした。
バッと顔を上げると、豪勢な着物をまとった、髪の長い女の人が舞い降りてくるところだった。
彼女はわたしの前に立つと、閉じていた目を開ける。
「わたしと同じ顔……?」
髪型や年齢こそ違うものの、一目でわたしと同じ顔をしているとわかった。
まさか、この人が……。
「ええ。姿を現すのは初めてですね」
「あなたが、コノハナサクヤヒメ……だね?」
「いかにも。まったく、あなたときたら、こんなことまでしちゃって……」
あきれた様子で、ため息をつくサクヤヒメ。
そ、それはそうだけど……。
「あなたに言われたくないんだけど!?」
「まあたしかに」
そう言って、顔を見合わせる。
ほどなくして、同時にふき出してしまった。
「サクヤヒメ、戻ってきなよ」
「軽く言いますけどね、今さらどの面下げて、戻ったらいいのだか」
サクヤヒメは、はあっと深くため息をっついた。
「パッと代わっちゃえばいいじゃん。これは、あなたの体だよ?」
「でも、わたくしは、まだ自信がないのです……」
ああ、そうか。
うつむくサクヤヒメに、合点がいった。
「よっこらしょっと」
わたしは、いい感じの岩の上に、着物のすそをさばいて座る。
ながめてたサクヤヒメに、となりをポンポンたたいて、座るよううながした。
サクヤヒメは、座ったものかどうかと考えてる様子だったけど、結局わたしのとなりに座った。
「わたしもね、お姉ちゃんに対しては、好きって感情だけじゃなかったんだ」
優しくて、おだやかで、みんなに好かれるわかなちゃん。
あこがれだし、大好きって気持ちはうそじゃない。
だけど……。
「ええ、わかります。あなたの時代を、少し見せてもらいましたから」
「えっ、サクヤヒメもわたしに成り代わってたの!?」
それは……いろいろと大丈夫だったかな!?
あせるわたしに、サクヤヒメはくすくす笑う。
「安心してください。さくやが元の時代に戻るときは、ここに来る前の時間軸に戻れますから」
「そうなんだ……。でも、いろいろ知られたかと思うと、なんか恥ずかしいかも……」
サクヤヒメ、どんな風に過ごしてたんだろう?
わたしの人間関係が、バレバレってことだよね?
「ナギさまも、仁さまも、よいお方でした。……わかなさまも」
「自慢のお姉ちゃんだもん。ナギくんは、世界一かっこいいし。あっ、でも、仁くんは、まだ認めちゃダメだよ? お姉ちゃんのとなりに立つには、まだまだ子どもっぽすぎる」
「ふふっ。本当に、仲がよろしいんですね」
「よくない!」
それを言ったら、クニツとサクヤヒメだってそうじゃん。
ほほをふくらませるわたしに、ひとしきり笑ったあと、サクヤヒメはまじめな顔になった。
「さくやは、あきらめないんですね」
「うん。わたし、仁くんのことが好きだもん。そりゃあ、ここに来るまではサクヤヒメのせいにしてたけど……。えっと、ごめんね?」
「いいえ、気にしていません。むしろ、むりやり入れ替わっちゃって、こちらこそ、すみませんでした」
わたしも、気にしないでと笑う。
ここに来たことで、見えてくるものもあった。
それだけで、じゅぶんだ。
「じゃあ、そろそろ代わる?」
「えっ? いや、それはまだ……」
「えええ!? この期に及んで!?」
「だってだって、ニニギさまは、姉上のことが好きなんですし、わたくしが姉上にかなうところなんて、ありませんし……」
「サクヤヒメも、じゅうぶんかわいいと思うけど」
「いいえ姉上には及びません!」
うーん、わたしと同じ顔なんだし、お姉ちゃんとはタイプの違うかわいさだと思うんだけどな。
「ていうか、イワナガヒメは、ニニギのことは好きじゃないんだし」
「それはそうですけど、ニニギさまは違うでしょう?」
「それなあ」
ニニギのあの表情って、むしろ……。
考え込んでいたら、足下に火が迫ってきた。
あわてて立ち上がって、わたしたちは火をさける。
「うわっ、あぶない! ……って、なんか、火が大きくなってない?」
あたりをよく見てみたら、火の勢いが強まってるような……?
サクヤヒメは、ぽんと手をたたく。
「ここは、ニニギさまの一族の領域。あまり長居をしては、アマテラスさまに怒られるかもしれません」
「そういうのは早く言ってくれないかなあ!? えっ、どうやって出たらいいの!?」
「想いの強さを示すのが、入るときの条件でしたよね。それを示せば良いのです」
示すって……。
なんだ? 叫べばいいのかな?
サクヤヒメと目を合わせて、わたしはうなずく。
でも、サクヤヒメの瞳は、まだ迷いに揺れていた。
わたしは、その右手をぎゅっとにぎる。
「大丈夫! せーので叫んじゃおう!」
「えっ、えっでも……」
「こういうのは、勢いが大事なんだよ! 叫んだらすっきりするし!」
「な、なんと叫んだら……」
「ニニギへの想いの丈をだよ! せーの!」
有無を言わせず、巻き込んじゃえ!
わたしたちは、息を吸う。
「「ニニギノミコトが好きだー!!!!」」
同時に叫ぶと、あたりがカッと白い光に包まれた。
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