魅力的なキャラクターって? 口調編

 お題「キャラクター」の第三話です。


 名前編設定編を通して魅力的なキャラクターの作り方を解説しましたので、今回からは動かし方を解説致します。


 まず最初に、キャラクターを表現する際、一番多く使用するものって何だと思いますか?

 そう、「セリフ」です。


 純文学や特定の表現で描く作品ではまた異なると思いますが、一般的なライトノベルやweb小説では多くセリフが活用され、キャラクターの魅力を大いに彩っていると思います。


 会話劇と呼ばれるようなセリフの応酬から地の文に差し込まれる一言など、セリフの中でも様々な表現方法があると思いますが、その中でも共通して活用できる技法があります。はい、タイトルにある「口調」です。


 口調と言われると口癖や○○キャラの喋るテンプレート的な喋り方かと思われるかも知れません。もちろんそれも口調の一部ではあるのですが、口調とは第二話で触れた性格によるものが大きいです。


 何かが起きた時、この性格ならこんな事を言うだろう。というのは、第二話で触れた内容でなんとなく分かると思います。ですが似た性格の場合でも、全く同じ事を言ってしまえばキャラ被りをしてしまいます。

 同じ作品内で似た性格のキャラが登場した場合、二人を別のキャラとして独立されなければなりません。そこで重要となるのが、一つは第一話で触れた名前、そしてもう一つが今回のタイトル「口調」です。


 今回は一例として、あらすじに貼ってある長編作品のキャラを一部引用して、どのように差別化を図っているか紹介したいと思います。


 今回引用するキャラクターは全部で五人、第二章までで戦闘が可能な女性キャラ達となります。



 ・一人目サラ。エキセントリックで気分屋な、魔術師兼医者のキャラです。

 ・二人目アイヴィ。掴みどころがない性格ながら面倒見も良い、賞金稼ぎのキャラです。

 ・三人目エリーゼ。冷静かつ気が強く知識も豊富な、魔術師で道具屋の娘のキャラです。

 ・四人目アネッサ。豪快で仲間想いな姉御肌、盗賊団リーダーのキャラです。

 ・五人目ミルカ。ワガママで調子乗りだが三下な、盗賊団の下っ端キャラです。



 初見の方は誰が誰かなんて分からないと思いますし、今はそれで大丈夫です。

 次に彼女達が言いそうなセリフをそれぞれ考えて行きたいと思います。


 例えば主人公のシキに「私と勝負しろ!」と言われた場合、彼の言葉を買った時の以下のセリフをベースに考えて行こうと思います。(※作中にそんな展開はありません)


「シキが私と勝負? 分かった、相手になろう。後悔しても知らないからね」


 このままでは、上記の五人の内誰が言ったのかなんて分からないと思います。

 恐らく私の作品を読んだ方でも、どのキャラが言ったかまでは絞れないでしょう。


 そこでそれぞれのキャラクター性と性格、そして口調を交えて五つのセリフを考えてみます。



 1.「へぇ、シキと私が勝負? いいよ。相手になろうじゃないか。後で止めときゃ良かった。なんて思っても知らないぞ」


 2.「んふっ、シキくんとあたしが戦うの? いいけど本当に~? あたしの実力を知っても、後悔なんかしないでよねっ」


 3.「シキさんと私が勝負、ですか? 分かりました。やりましょう。怪我でもして後悔しても知りませんからね」


 4.「なに、シキがアタイと勝負したいって? いいだろう。相手になってやるさ。アタイの強さ、忘れられないようにしてやるよ」


 5.「えっ、ウチとシキさんで戦うッスか!? わ、分かったッス。やってやろうじゃないッスか!! 後で吠え面かいても知らないッスからね!!」



 以上、五つのセリフとなります。元のセリフをそのままに、特別立場や能力、根拠のある力量差など説明となるワードを使わなくとも差別化が出来たと思います。

 今一度引用した五人のキャラとセリフを見比べると、何となくどれが誰のセリフかも予測出来るのではないでしょうか。


 注釈でも触れたように、作中ではこのようなセリフや展開はありません。しかし「性格」の部分をしっかりと決めておく事で、このようにどんな場面を想定しても個性的で魅力的なセリフを語らせる事が出来るのです。


 それでは次に、キャラとセリフの関係性と何故そのような口調となったかの説明に入りたいと思います。


 の前に一点。ここで使い分けているのでは? と思った方もいるのではないでしょうか。

 私とかウチとかアタイとか、一人称が違うのでそこで判断が付くようにしていると思われた方もいるかも知れません。そうです。そこも重要な差別化ポイントなのです。


 キャラ被りを回避する場合、一番簡単なのは一人称を分ける事です。といっても使いやすい一人称にも限りはあるので、最初の印象を左右する初登場シーンで被らないようにする。というのが名前と同じく分かりやすい使い分けとなります。

 君、あなた、お前といった二人称との組み合わせも含めて被らないようにすると、分かりやすく差別化が図れると思います。特にこだわりが無ければ利用してみるのもおすすめです。


 それでは話を戻して、キャラとセリフの関係性をそれぞれ解説します。



 1のセリフ、こちらは一人目サラのセリフです。

 ひょうひょうとしたセリフからは、どちらかというと軽い性格であると読み取れると思います。後悔を「後で止めときゃ良かった」と感情的に言い換える様子から、少し上から目線な気質も見え隠れするのではないでしょうか。

 気分屋な口調とエキセントリックな言い回しを使う事で、彼女らしさを表現しております。


 2のセリフ、こちらは二人目アイヴィのセリフです。

 んふっと初めに笑う様子や「本当に~?」と余裕のある態度から彼女の強者感を出しており、また威圧的でないのが掴みどころのない性格を表していると言えます。

 セリフ一つ取っても、明らかに実力者であると伺えるのではないでしょうか。


 3のセリフ、こちらは三人目のエリーゼのセリフです。

 淡々と受け入れ事に入ろうとする様子は、冷静な彼女の性格を表しているのではないでしょうか。

 後悔しても、の前に「怪我でもして」と勝った上で相手がどんな目に合うかも予想しているのが、気の強さと熟練者の意見を表現していると思います。


 4のセリフ、こちらは四人目のアネッサのセリフです。

 なに? と最初に聞き返す事で明らかに自分が強いと思っている強気な性格を、「忘れられないようにしてやるよ」と常に自分が優位な立場で発言をするのも、盗賊団のリーダーである立場と豪快な性格から来るものであると推察されます。

 しかしそんな立場でも相手を馬鹿にしないのは、彼女の仲間想いで気の良い性格を表現出来ているのでないでしょうか。


 5のセリフ、こちらは五人目のミルカのセリフです。

 えっ? と驚いて聞き返すような気の弱さ。分かったをスッと言い返せない動揺っぷりから、彼女の小物っぽさが出ていると思います。

 しかし急に後悔を「吠え面かいても」と強い口調に言い換えるあたり、彼女の調子乗りな性格が良く表れているのではないでしょうか。この強気な物言いが、逆に弱そうに見える三下感を演出しております。



 以上が、口調を利用した魅力的なキャラクターの動かし方となります。

 今回は一例、一言のセリフを用いた解説となりましたが、その一言でさえ性格を考える事で個性を出し、魅力的な一言に変化させる事が出来ます。そしてそんなセリフを毎回書いたなら、キャラクターの魅力は喋るたびに色濃く残って行くでしょう。


 また前回でも触れたように、性格や立場が重要と言いつつも口調から先に決めたって良いのです。

 こんなセリフを言わせたい。ならばどんな性格が良いだろうと考えキャラクターの基盤が決まれば、後は自然と魅力的なセリフを使いこなせるようになるでしょう。


 ラノベやweb小説といったセリフの多い媒体で、この口調の持つ魅力を存分に発揮し思い描いてみて下さい。きっとキャラクターは色を持ち、あなたの作品を存分に彩ってくれるはずです。


 今回では魅力的なキャラクターの動かし方の一つ、口調について解説致しました。


 次回はいよいよ「キャラクター」編最終話。キャラクターの動きについて解説したいと思います。

 引き続きお付き合い頂ければ幸いです。

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