第22話 ただ独り
セレンは家に帰ると、これからどうしようかと考え始めた。
ジオナンド帝國へ帰ることも考えたが、追放処分が
聖地アハトに戻ることも考えてみたが、当時のようにまた刺客が送り込まれてきて神殿関係者に再び迷惑がかかるのではないかとセレンは考えた。
後は他の都市へ行くかだが、それはノースデンに残ることと変わらないような気がした。
「
セレンはそう言うと、クロムが獣を
それに最悪、クロムの霊魂を憑依させれば何とかなるかも知れないとセレンは僅かながら光明を見出した気がした。
「まだ、日も高い。少し狩場へ行ってみよう……」
セレンはそう思い立ち、大きなマントを羽織り、ナイフを腰に挿した。
念のため大剣も持って行くことにする。
魔物ではないとは言え、獣に相対するのも危険なことに変わりはない。
クロムの軽装鎧は大きくて装備できないし、羽織ったマントは地面に引きずっている。
セレンは見た目を気にしてもしょうがないと思い、家を出て東門へ向かう。
東門の辺りは採掘労働者が多いためか、閑散としている。
特に問題なく東の城門にたどり着くかに思われたその時、セレンの背後からドスの利いた声が掛けられた。
「おう。ガキ。いいもん持ってんじゃねーか。その剣置いてけや!」
セレンが後ろを振り返ると、そこにはガラの悪い3人の男がいた。
恐らくは小さな子供など少し脅せば言うことを聞くとでも考えたのだろう。
真ん中の男はさして大きくもない体躯を大きく見せようと思ったのか、ふんぞり返ってセレンを見下ろしている。
その左右の男たちも人相が悪く、
「へ、へへッ……ビビッて、こ、声も、だ、出せねぇのか?」
「ちち、違いねぇ!」
セレンの両親のようにどもった話し方なのが気になったが、彼はこの手の相手に話など通じないことを知っていた。
3人共に武装はしていない。
セレンは、この程度の気迫などクロムとの訓練や聖地アハトでの刺客による襲撃で慣れきっていた。動きにくいマントを脱ぎ捨てると鞘に挿したままの大剣を右手で握り、前に突き出した。
「3人いれば勝てると思ったのか?」
「!?」
3人共に子供が放つ雰囲気ではないと感じたのか、男たちの体が硬直する。
だが、もう遅い。
セレンは鋭い突きを中央のリーダーらしき男に放つと、それは丹田の辺りに直撃して男は5マイト程吹っ飛ばされる。
そして未だ固まったままの右の男の
膝から崩れ落ちる男を
抜いていないとは言え、この大剣の鞘の強度は高い。
恐らく骨が折れているだろう。
一瞬にして3人が戦闘不能に陥った。
セレンは3人が動かないのを確認すると、再びマントを羽織って東門に向けてさっさと歩き出した。
城門に着くと衛兵が、セレンに向かって声を掛けてきた。
「よお! 坊主、確かグロームさんとこの子だったかぁ? 今日はグロームさんは一緒じゃねぇのかい?」
「あ、こんにちは……。父は亡くなりました。なのでこれから獣を狩りに行こうかと思いまして……」
「ああ!? マジか? グロームさんが!? 何があったんだ?」
「恐らく病気でしょう」
「確かに最近、良い話は聞かなかったが……。坊主、1人で狩りなんかできるのか? 外は危ないぞ?」
セレンは、クロムの死因は薬物中毒とアルコール中毒だと考えていたが、特にバカ正直に話すことでもないと判断したのだ。
この衛兵の男は、言葉使いは丁寧ではないが、セレンへの思いやりが言葉の各所に感じられた。きっと良い人間なのだろうとセレンは思うが、狩りにも行けないのではどうにもならないので押し通ることにする。
「ありがとうございます。大丈夫ですから心配は無用です。では!」
「そうか。グロームさんの件は残念だったが、お前さんまで死ぬようなことになるんじゃねぇぞ? 危ないと思ったらすぐ逃げるんだ」
思ったより話せる男だったようでセレンは安心する。
彼にお礼を言うと、久々の城壁外である。
狩り自体も久しぶりなので得物を仕留められるか不安であるが考えても仕方のないことである。
セレンは両親の死によりこの世の無常を思い知っていた。
世の中なる様にしかならないのだ。
「
セレンは小さな声で祈りを捧げると森の中へと足を踏み入れたのであった。
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