第21話 探求者ギルドへ

 両親を失ったセレンはノースデンの中央大通りに足を運んでいた。

 流石に街の中心だけあって辺りは喧騒に包まれている。

 セレンの心中などお構いなしに人々は笑い、そして騒いでいた。


 あれからセレンは絶望の中に、僅かな希望を見出していたのだ。

 それは本来の目的であり、悲願でもあった。

 つまり、クロムが固執こしつしていた仇であるモンステッラを殺すことである。


「そうだ……。帝國へ戻りモンステッラを殺す。殺す。殺せば全て報われる……」


 セレンはそうぶつぶつ呟きながら通りを歩いていた。

 ふらふらとした覚束ない足取りであったため、通行人の男とぶつかって弾き飛ばされる。


「ボーッとしてんじゃねぇ! ガキが!」


 体格の違いでその男には何ら影響はなかったはずだが、男は怒鳴り散らした。

 更に何か言い掛けた男であったが、セレンの目を見て声にならない悲鳴を上げる。

 セレンの幽鬼のような表情、空虚な瞳に本能が反応したのだ。


 そそくさと去って行く男を傍目はためにセレンは立ち上がると再び歩き始めた。

 衣服に着いた泥を払い落とすこともなく。


 目当ての建物を見つけたセレンは、開いたままになっている入口から中へ入ると迷うことなくカウンターへ向かう。

 そこは探求者ハンターギルドであった。


「……すみません。探求者ハンターの登録をしたいのですが」


「は、ヒィッ!」


 受付嬢は思わず悲鳴を上げた。

 それも無理のないことであった。

 セレンの目はとても11歳のそれには見えなかったのだ。


 セレンはそんな彼女の態度などお構いなしに登録料をカウンターに置いた。


「あ、あの……それでは鑑定致しますので、あちらの登録窓口へ行ってください」


「……鑑定? 以前はそんなものはなかったはずでは?」


「最近できた規約なんです……。神聖ルナリアス帝國はご存じですか?」


 受付嬢の言葉はセレンに対してまだぎこちないところが見え隠れしていた。

 どこか、恐る恐ると言った感じで話しかけてくる。


「聞いたことがあります……」


「そこで開発された鑑定機と言うものが導入されまして……」


 受付嬢の話ではどうやら、その鑑定機による鑑定を受けなければ探求者ハンターの仮登録はできないらしい。

 セレンはスキルの力を機械で再現できるまでになっていることに軽く驚いた。

 鑑定を受ける必要があると言うならば、仕方ないだろうと思い、セレンは登録窓口へと足を向けた。


「ようこそ! 登録窓口へ! ……ってセレンくんじゃない。どしたの?」


 登録窓口にいたのはレアリーと言う女性であった。

 クロムと共に何度かギルドへ立ち寄った際に顔見知りになった受付嬢の一人である。彼女はいつも元気良く、ハツラツとした言動で探求者ハンターたちに人気がある。その髪の色も彼女の性格のように明るい銀髪をしている。


「いえ、両……僕も探求者ハンターになろうと思いまして」


 セレンは両親が死んだことを思わず隠してしまった。

 何故だか分からないが、言うことでもないと思ったのかも知れない。


「あら。キミもそんなお年頃だもんね~って、セレンくんはまだ10歳くらいじゃなかったっけ?」


「はい。11歳ですが、そうですがどうかしましたか?」


「ギルドの規約が見直されてね。12歳にならないと登録できないようになったんだ」


 それを聞いてセレンは頭を殴られたかのような衝撃に襲われた。

 探求者ハンターになれないとなると、お金を稼ぐ手段がなくなったと言うことだ。

 どうやって生きていけば良いのかまだまだ世間知らずな貴族の3男坊であるセレンには分からなかったのだ。

 幸いこのノースデンはミスリル鉱石の採掘都市だ。

 採掘労働者になれば何とか生きていけるかも知れない。

 しかし、クロムから彼らの過酷な実情を聞かされていたセレンとしては、毎日体を限界以上まで酷使して死んでいくような生活などしたくはなかった。


「全く……。探求者ハンターの危険な仕事を子供にさせるなって言うのなら、採掘現場で働かされている子供たちにも言えっての! ねぇセレンくん」


「……それでは僕は登録できないんでしょうか?」


「そうね。後1年待たなきゃいけないわね」


 レアリーはセレンの両親が死んだことなど知らないので、単にセレンが子供特有の好奇心や探求心から親に内緒で登録に来たと思ったのだ。


「そうですか……。分かりました」


 セレンは沈んだ様子でギルドから出ようときびすを返した。

 それを見たレアリーは何かを感じ取ったのか、セレンの背中に声を掛ける。


「セレンくんッ! いつでもおいで! 待ってるからね!」


 セレンは少しだけ振り返ると、寂しげな笑みを浮かべてギルドから出て行った。

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