第12話 セレンの力

 人間には生まれながらに力が備わっている。

 とは言え厳密には人間だけではない。

 現界げんかいむ様々な亜人の中にも持っている者は存在する。




 それはスキルと呼ばれ、所有する者に多大なる恩恵をもたらす。

 種類と効果の程は様々で例を挙げれば枚挙まいきょいとまがない。

 まだまだ未解明な部分は多いが、大きく基礎スキル、固有スキル、特殊スキル、一般スキルに分類されている。

 誰しもスキルを必ず1つは持って生まれてくると言う話だ。

 それが基礎スキルである。


 スキルは天界てんかいの神ディウスが現界げんかいに生まれた脆弱ぜいじゃくな生命体に与えたギフトであると言われている。

 そもそも人間たちを創造したと考えられている神ならば、元から強い生命体を生み出せば良い話なのに……と思う者が多いため賛否両論ある説ではある。

 実際に神に聞いた者がいる訳ではないので、その全容を理解している者はいないが、遥か昔より研究が行われており少しずつではあるものの解明されつつあった。


 ギフトによるスキルが先天的なものだとすれば、努力して修行などの末に後天的にスキルを覚える可能性があることも判明している。

 そのためスキルの獲得のために日々の鍛練に精を出す者は多い。

 例えば簡単なスキルで言えば、日々ひたすら攻撃をかわし続ければ一般スキル【回避】を得ることができるし、石を投げ続ければ【投石】のスキルを得ることができる。


 もちろんこれは極端な例である。

 修行で所謂いわゆる、英雄や偉人級の人物に教えを乞うことでもスキルを得ることは可能だ。ただ、その人間の性質によってどんな系統のスキルを獲得できるかは千差万別であり、合わなければ獲得すらできない場合もある。

 未だ解明されていないことだが、スキルを使用すれば、何らかの力が作用して周囲の者に影響をもたらすと言う仮説が発表されている。

 このように努力は当然のこと、師匠や魔物との戦いなどを経験することで、スキルは受け継がれていくと考えられていた。

 持っているスキルによって剣技や術の覚える種類も変わってくる。


 スキルはどんどん派生していくことも分かっている。

 気配を察知する系統のスキルであれば【察知】―【慧眼】―【心眼】―【天眼】のように、より高い効果のスキルを新たに獲得できるのだ。




 もう1つの力として天力アストラがある。

 天力アストラはスキル以上に解明されていないことが多く、その謎は多い。

 こちらも人間のみならず亜人種も天力アストラ天力能力アストラビィを持っている者がいることが確認されている。


 天力アストラの門――天門を開くと体内をめぐ天力アストラが体外へと流れ出す。

 それを制御できれば、身体や武器の強化、身体の治癒など本来、神聖術や精霊術によって起こるような奇跡を再現することが可能となる。

 天力アストラには6つの属性があり、それぞれ、光、闇、火、水、風、土に分類されると言う学説がある。これは現界げんかいに散在するとされる6つのクリスタルと同じ属性であると考えられており、関連性が議論されている。

 なお、現在発見されているクリスタルは3つだけである。

 聖地アハトにある赤のクリスタルは火の属性を持つと考えられていた。


 もう1つ特筆すべきことがある。

 天力アストラと言えば、天力能力アストラビィであろう。

 天力能力アストラビィはスキルを基にして発現する特殊能力である。

 使用するには様々な条件が付く場合が多いが、本来のスキルを大幅に強化、更に追加で効果が付与される唯一無二の能力なのだ。どのような能力になるかは、発現した者の個性や精神状態などが大いに関係してくるとされている。


 セレンが天力アストラを解放した際に、クロムが言っていたように天力能力アストラビィ天力アストラとは異なり全ての者に発現するとは限らない。

 天力能力アストラビィの獲得は突然の覚醒によるものがほとんどである。

 クロムがと言ったのもあながち間違いではない。

 覚醒の要因は修行然り、精神状況の変化然りである。

 天力アストラ解放とは異なり、方法は確立されていない。


 また、天力能力アストラビィは原則、複数同時に発動がすることができないと言われている。

 複数の能力を持っていても、1つの能力を使っている際には、他の能力を使うことはできないのだ。

 だが、例外もある。

 天力能力アストラビィ自体が、能力を同時使用を可能にするたぐいの性質を持つ場合や、貴具レアリーを使用した場合がそれに当たる。

 厳密な条件は判明していないが、天力能力者アストラル同時の戦いがこのような物になった場合、第3の天力能力アストラビィは打ち消されてしまうことがあると言う。


 ちなみに貴具レアリーと言うのは、セルニグア王国の南に位置する新興国、神聖ルナリアス帝國で開発されたり、古の地で出土したりする特殊な力を秘めたアイテムのことだ。


 ここは練兵場の一角で現在、休憩がてらクロムがスキルや天力アストラについて説明していた。

 セレンはラケシスと共にクロムの講義に真剣な表情で聞き入っていた。


 ラケシスは時間さえ許せば、セレンに会いに来るようになっていた。

 聖地アハトには彼女と同年代の神官プリースト修道女シスターがいなかったため、同い年のセレンとの交流は精神的な癒しでもあったのである。


「まぁこんな感じで大抵の者は天力アストラやスキルを持っている。基本的に誰がどんなスキルを持っているかは分からないし、自分がどんなスキルを持っているかは自分にしか分からない。ま、中にはで他人のスキルが判るスキルを持つ者もいるようだが……」


「父様、どうやったら分かるようになるのですか?」


「簡単だ。いつものように瞑想状態に持って行けば良い。そうすれば自然と自分のスキルが分かるようになる。慣れてしまえばすぐに頭に浮かんでくるだろう」


 これはスキルだけではなく、覚えている剣技や術と言ったものも同様であると言う。


 セレンもラケシスも瞑想は日課である。

 2人は特に労せずして自分のスキルを理解することができた。


父様とうさま、僕のスキルは【憑依ひょうい】と言うもののようです」


「私は【激怒げきど】だったわ」


「【憑依】? 聞いたことのないスキルだな。ラケシスの【激怒】はその名の通り、怒っている時に物理にしろ術にしろ攻撃力が跳ね上がると言うものだ」


「固有スキルみたいですね」


「【激怒】かぁ……」


「固有スキルだって!? 基礎スキルが固有スキルとは……とんでもないレアスキルだぞ……。恐らく強力なものに違いない。効果はどんなものだ?」


 セレンがしれっと言った言葉を聞いてクロムが取り乱している。

 滅多にないものを見れたセレンは楽し気に笑いながら答えた。


「対象の生物の力を自分に乗り移らせて、その力を使えるようにするスキルみたいです……」


「何ッ!? 実際に使ってみないと分からんが……他人のスキルや天力能力アストラビィが使えるのか……?」


 クロムは驚愕すると顎に手を添えて何やら考え始めた。

 セレンに尋ねたのではなく自問自答しているようだ。

 真剣な表情で何やらぶつぶつと呟きを漏らしている。


「もし【憑依】スキルを基に天力能力アストラビィを授かれば、とんでもない能力になるかも知れんぞ……。今度、襲撃があったら倒した刺客相手にスキルを使ってみるか……?」


「何だか恐ろしいです……。ところで父様とうさまのスキルは何だったのですか?」


「……ん? 何だ? 俺か? 俺は特殊スキル【剣王】だ。その後、戦いに戦いを重ねてスキルが派生した結果、固有スキル【剣聖】を得た。お陰で様々な剣技を覚えることができた」


 スキルは様々な効果を持つが、中には職業クラス称号オナーのような物もスキルとして存在している。


 この世界では【】はなのである。


 クロムで言えば、【剣士】―【剣豪】―【剣王】―【剣神】―【剣聖】と派生していく中の【剣王】スキルを持って生まれたと言うことだ。


「剣技ですか! 僕にも使えるようになるでしょうか?」


「俺と修行しているのだ。必ず使えるようになる」


 尊敬する父、多くの剣技を修めている父の言葉にセレンの胸は熱くなる。

 頭の中は早く剣技を習得したい思いで一杯だ。


「おじ様、私はどうやれば強くなれますか?」


「強くか……。ラケシスのことはメリッサ様が考えておられるだろうが、神聖術を習得していくことになるだろうな」


「私……皆を癒せるようになりたい! 皆には笑っていて欲しい!」


 ラケシスは不安そうな顔をしながらも、力強く言い切った。

 小さな手には力が入って小刻みに震えている。

 彼女には彼女なりの正義や夢があるのだろう。


「とにかく今は天力アストラを上手く制御できるようになれ。スキルをベースにして天力と融合させることによって天力能力アストラビィを得ることができる可能性がある」


天力能力アストラビィ?」


「ああ、セレンは以前に天力アストラを解放しただろう? 強力な能力だ。天力アストラと相まってスキルだけでは実現できないような能力を発現するだろう」


「私はどんな能力を授かるのかな?」


「楽しみだな……攻撃系だけでなく、防御系や支援系の能力もある。遅かれ早かれ、いずれは授かるだろう。時期を見てメリッサ様の指導があるだろう。それまで我慢するといい」


 それを聞いたラケシスは力強く頷いて両拳を胸の前でグッと握りしめる。

 彼女はこれから能力開花を心待ちにしながら日々を過ごしていくことだろう。


 神殿内に鐘の音が鳴り響く。

 彼女の仕事の時間が来たのだろう。

 それを聞いてラケシスは、セレンに向かってぶんぶんと手を振ると急いで走り去った。

 

 クロムはそれを優しい目で見送ると、勢いよく立ち上がった。


「さぁ、やるか! 剣術の稽古の続きだ」

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