第5話
「あ、そうだ。わたしからのプレゼントなんだけどね」
紗良の気持ちは気にせず、抱き着いていた状態から離れて、実果はいつもの調子で言う。
紗良はジャガイモでもくれるのだろうかと思って待ってみる。段ボール丸ごと一箱とか渡されたらどうやって食べようかと考えて周囲を見渡すけど、ジャガイモの段ボール箱もプレゼントを入れていそうな箱もない。
紗良が疑問を抱いていると、目の前でゆっくりと実果が右手の長袖を捲っていく。それにより、実果の白くて細い手首が露になっていくと、そこには可愛らしい赤いリボンがリボン結びで結ばれていた。
手首にも、髪の毛にもリボンを結んだ実果が、少し俯きながら紗良の方へと体を向けて、いつもよりも緊張した雰囲気を醸し出していた。
「何のつもり?」
苦笑しながら尋ねる紗良の言葉への回答に、珍しく実果が悩んでいる。
「わたしがプレゼント、的な……」
実果が珍しく顔を赤らめて、緊張した面持ちで言う。その言葉を聞いて、紗良は明確にムッとした。
「もう一度聞くわ、何のつもり?」
今度の何のつもり? という質問には先程のような穏やかな心情は含まれていない。おぞましいものをみるような目で紗良が実果のことを見つめる。
「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよ、ただわたしは紗良ちゃんのことが好きだからそう言っただけで――」
「ふざけないでよ!!!」
今度は紗良は悲鳴に近いような叫び声を上げた。
「わたしのこと、この間拒んだばかりでなんでそんなこと言うのよ!! やっぱり実果のクリスマス会の誘いに乗るんじゃなかったわ!」
実果の口から「え?……」と悲しそうな声が漏れたけど、それを聞きとる余裕は紗良には無かった。
紗良の目からはいつの間にか涙がこぼれていた。
やっぱり、のこのこと実果の誘いに乗ってクリスマスパーティーになんか参加するんじゃなかった。
ついつい「紗良ちゃんと一緒にクリスマスを過ごしたかったから」と言わたから、嬉しくて「行く」と即答してしまったけど、こんな風にバカにされるのならば来なければよかった。
つい先日紗良は実果にフラれたばかりだというのに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます