心臓怪火 10

「……へぇ」


 薄く、アイリスは笑みを浮かべる。


 それから私は左の太ももに着けていたナイフホルダーから素早くナイフを取り出して茎を叩っ斬った。


 すると、切れた茎の破片や、刀や腕に巻き付いていた茎はボンっと爆ぜて散り散りになる。


 恐らくもう少し斬るのが遅ければ火傷くらいは負わされていただろう。


「ナぜだっ!?

何故斬れル!?」

 

 男は動揺しながらまだ私の方へと茎を伸ばしてくる。


 しかし私はそれも斬って男のすぐ目の前まで迫った。


「う、来るナァ!


う、ウゥ!

ウワァっ!!」


 男は苦しそうに呻いたかと思うと、ボコボコと男の心臓付近から一輪の大きな紫色のシャクヤクが咲き出した。


 そして、それを守る様に全身から鋭い茎が生え始めたかと思うと、私の身体に絡みつく。


「アレが核か」


 屋上からリトはその花目掛けて銃弾を放つ。


 しかし、花に銃弾は当たったが、その花は恐ろしく硬いのか銃弾はガツンと弾かれてしまった。


「チッ、やっぱ銃弾は効かねぇか」


 それからリトはアイリスに見事に絡みついている茎に銃弾を向けて何発か撃った。


 銃弾の当たった所の茎は燃えはするものの、先程と違い灰にならずまたすぐに復活してしまう。


「何だ、さっきよりすぐに再生しやがるな」


 これ以上撃つのは銃弾の無駄になる。


 それに、これでアイリスが死んだとしても俺にとっては好都合だ。


「まあ、無理して助ける義理もねぇな。


それに、あのくらいなら自分でどうにかするだろ」


 リトはそう呟いてアイリスの戦っているビルの屋上に向かう事にした。


「無駄ダっ!

そいツハすグに再生スル!」


 一方銃弾を撃ち込まれた男は愉快そうにそう叫ぶ。


「確かに、そうみたいだね」


 私は再生する茎を眺めながら静かにそう呟いた。


「ふはハハはっ!

終わリダ!!」


 男は勝利を確信した様に私の心臓目掛けて硬く尖らせた茎を突き刺そうとしてきた。


 その瞬間私は一気に理解する。


 成る程、どうやら茎を硬化させるのと茎から炎を出す事は同時に出来ないという訳か。


 それで最初に硬化させた茎を相手に刺し込み、その茎を後から発火させれば心臓部分のみが焼けるという仕組みになっている。


 それなら、と私は纏わりつく茎もろとも全てを斬り伏せた。


 茎はぱらぱらと火の粉とともに灰になって消えていく。


「っなゼだ!?

まタ硬化してイタの二斬ラれた!?」


「まあ、どれだけ硬くしても結局は茎だからね。

それにこれだけ細かく刻めば、再生もすぐには出来ないでしょ?」


 酷く動揺している男に、私は淡々とそう答える。


 それから、胸に咲いた大きな紫のシャクヤクの花を見て、私は呟く様に男に話した。


「……心臓を突き抜けてそれだけ咲き誇っていたら、もう元には戻れない。

残念だけど、お前はもう助からない」


「い、嫌だ!

イやダイヤだ!」


 男は必死にまた茎をこちらに向けて伸ばしてくるが、そんなもの全てが遅い。


 私は茎に捕まるより早く刀で男の胸に咲いた紫のシャクヤクを斬った。


「あ、ア、あぁ、ア」


 花を斬った瞬間、男の走馬灯の様な記憶が私の脳内に流れ込んできた。

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