01.プロローグ_02
寝袋の中で転がって熟睡していたアタシだが、ふと胸騒ぎがして目が覚めた。
(なんかゾワゾワする)
隣を見るとメグがすぅすぅと静かに寝息をたてて眠っている。アタシはそーっと寝袋の外にあるスマホを手に取り、メグを起こさないよう寝袋の中でスマホのボタンを押して時間を確認する。
(まだ2時じゃん、もっかい寝よ)
そう思ってスマホを寝袋の外に置こうとした時、ゆらゆらと地面が揺れているのに気が付く。
(何?地震?)
まだゆらゆらと地面が揺れている。
(まあそんなにデカくないし直ぐに収まるでしょ……)
アタシの考えを嘲笑うかの様に、手に握っていたスマホからけたたましいアラート音がした。アタシのスマホが鳴るのとほぼ同時にメグのスマホもアラート音を鳴らす。
(えっ?ちょっと、そんなに大きい奴だった?)
気になってスマホの画面を覗くと緊急地震速報の文字が見えた。アタシはスマホでズイッターを開き、地震情報を検索する。そこには震源地こそ遠いが、マグニチュード8.0の文字が見え、更に津波警報の情報もあった。
(うっそでしょ)
地震は大きくはないが、まだ揺れている。アタシはとりあえずズイッターに書き込んだ。
(『ゆ れ た』っと……いや、こんな事してる場合じゃないでしょ)
アタシは焦って寝袋から飛び起き、まだ暗い部屋の中、未だ呑気に寝息を立てて寝ているメグを文字通り叩き起こす。
「メグッ!メグ起きて!」
ーバシッ、バシッー
「ウギュッ!ウギャッ!」
ちょっと強く叩きすぎたのか、メグは踏まれたネコの様な呻き声を上げる。アタシは構わずメグの身体を揺する。
「メグ地震!起きてっ!地震だって!ヤバいって!」
「うぇぇ?千歳ちゃん何ぃ?」
メグが眼鏡を外したままのまだ眠たそうな顔をアタシの方に向ける、まだ状況を飲み込めていないようだ。アタシは画面がよく見えるようメグの眼前に自分のスマホを押し付けながら、
「地震!津波もあるかもだって!」
と言った。メグも状況を理解し始めたのか、アタシのスマホを手に取り、いそいそと近くに置いておいた眼鏡を掛けてからスマホの画面を読み取る。
「千歳ちゃん、これ……」
「高台!避難!ここじゃ津波来ちゃうかも!」
アタシは何か言いたそうなメグの言葉を遮り、近くの高台を指差しながら、メグの腕を引っ張ってログハウスの外に出る。実際このログハウスがある平地はそんなに標高が高くない、大きめの津波なら到達してしまうような高さだ。
そのままグイグイとメグの手を引っ張り、近くの高台に向かう。途中、メグが何か言っていたが、今は避難が先だと言うことで無視した。
「離島で津波被害にあうなんて、冗談じゃない!」
アタシは小さい頃、北海道の南西沖で起きた地震を思い出していた。あれも離島に大きな津波が押し寄せた災害で、アタシはテレビの映像で見ただけだったが、子ども心に津波の恐怖心を植え付けるには十分だった。
そうこうしているうちにアタシ達は高台に到着する。
「千歳ちゃん!待って!」
「えっ、何?」
メグの強めの言葉にアタシは我に帰る。メグがスマホの画面をアタシに見せて来て言う。
「これ、誤報だって……」
「へっ?」
今度はアタシが状況を読み込めない。メグが差し出したスマホの画面を読むと、
「複数の地域で同時に地震があったため、マグニチュードが想定より大きく出てしまった……?」
自分で読んでいながらまだ状況が掴み切れていない。アタシにスマホを突き付けたままメグが言う。
「そう、津波も無いって……」
メグのその言葉にアタシは状況を理解し、一気に緊張が解けてその場にへたり込む。
「はぁぁぁ~、マジかぁー」
安堵のため息が漏れると同時に、だんだんとメグを巻き込んで大騒ぎした恥ずかしさが込み上げて来て、思わず両手で顔を覆いメグから顔を背ける。
「どう?落ち着いた?千歳ちゃん?」
「はい、お騒がせして申し訳ありませんでした恵さん……」
そのまま恥ずかしさが引くまで黙って顔を隠していたところ、突然、指の隙間から七色の光が漏れ込んで来た。
「ん?」
「何……これ……」
アタシは手を下ろし戸惑いの声を上げているメグを見た。メグは呆然としたまま空を見上げている。
「メグどうし……えっ」
疑問の言葉を言い終える前にアタシも空の異変に気が付き、座り込んだまま空を見上げる。今は午前2時、夜中だったハズだ。真っ暗で見えるのは星空くらいなハズだ。なのになんで、こんな、
「なんなの、なんなのよこの空は!」
空が虹色で染まっていた。オーロラなんて柔らかい光じゃない、もっとドぎつい、アメリカのお菓子みたいな色だ。それが流れ星の様に動きながら空一面を覆い尽くしている。
二人で呆然と空を見上げていると、その流れ星の一つがこっちの、この島の方に落ちてくる。それに危険を感じたアタシは、咄嗟に立ち上がり、
「危ないっ!」
と、叫びつつメグの腕を掴み、自分の方に抱き寄せてメグを庇う。急に引き寄せた反動か、メグはアタシのスマホを地面に落とす。だが今はそんな事に構っている場合じゃない。
「千歳せんぱ……」
目を大きく見開いてアタシの名前を叫ぶメグ、その言葉を聞き終える前に、アタシは意識を失った。
~~~~~
「……せ……ん!ちと……ちゃ……!千歳ちゃん!」
「……ぅうん、はっ!?」
メグの呼び声でアタシは意識を取り戻す。メグの柔らかな身体の感触を感じる。アタシはどうもメグの上で意識を失ってそのままメグを下敷きにしているらしい。アタシはささっと後ろに引いて座り込み、メグの身体を解放した。
「ごめんメグ!重かったよね!」
「私は大丈夫!それより千歳ちゃんこそ大丈夫?さっきの流れ星……」
アタシは両手で自分の身体をペタペタと触って異常が無いか確認する。特に外傷らしい外傷も無いし痛みも無い。
「アタシは平気、だけ、ど……」
メグと一緒に立ち上がって二人で辺りを見回す、やけに明るい、と言うかもう日が昇っている。
「何時間眠ってたのアタシ……?」
そう言ってアタシは、メグが地面に落としたスマホを拾い上げる。スマホの画面を見ると時刻は7時ちょうどになっていた。
「地震があったのが2時だから~、5時間近く寝てたのアタシ?メグの上で?」
アタシの重みでずっと押しつぶされて居たであろうメグの身体が心配になった。だがそのメグは震えた声で港の方角を指差しながら、
「ね、ねえ千歳ちゃん、私たち、あっちから来たんだよね?き、来たハズだよね……?」
と言い出す。メグが何を言いたいのかよくわからなかったので、アタシはとりあえずメグの指差す方角に目を向ける。
「そうだけど何言って……え?は?」
アタシは目を疑った。この島の向こう岸、アタシ達がボートに乗った港、どころか、そもそも陸地が無い。何かの間違いじゃないのかと、キョロキョロと周りを見回す。すると元来た陸地とは全く別の方角に陸地が見えるのに気が付く。
(メグが方角を間違った?いや間違ってない、昨日散々歩き回ってメグの指差した方に陸地があるのは二人で確認済み、そして今アタシが見ている方角には海だけだったハズ……)
頭の中が疑問でいっぱいになる。メグは無言のままなアタシを不安そうにじーっと見つめている。アタシはメグに伝わるよう無言のままゆっくりと腕を上げて謎の陸地にの方へ指を差す。
「あれっ?私、方向間違ってたかな?ほら、私、目が良くないから、見間違えたのかな?あはっ、あはは……は……」
眼鏡をカチャカチャさせながらメグがおどけて見せるが、恐らくメグは何も間違っていない。アタシも何度も方角を確認している。
(じゃあなんでこうなってる?アタシらは何を間違っている?)
と、ここでアタシはスマホを持っている事を思い出した。スマホから何か情報を得られないか画面を確認する、が、
(ダメだ、電波が届いてない。ズイッターどころかニュースもダメ。そうだGPS……)
「GPS!!」
「ひゃああっ!?」
アタシが突然叫んだため、吃驚したのかメグが悲鳴を上げる。
(そうだ、登山用のGPSアプリがあったはず。あれなら電波が届かなくても衛星通信でいける!)
以前インストールしておいたGPSアプリを思い出したアタシは、藁にもすがる思いで早速GPSアプリを起動する。
「GPS!GPS!GPS!……じー、ぴー、えす」
ダメだった。アプリのカーソルは、この無人島ではないデタラメなところを指している。時間こそ見れるがネットワークが必要な物は全滅、現代人ご用達のチート情報アイテムなスマホは、今やただの光る板だった。
「ごめんメグ、電波もGPSも全滅だわ」
「わかんないよ千歳ちゃん……」
「アタシも混乱してる、一旦ログハウスに戻って状況を整理しよ」
「うん」
と言うことで、アタシはスマホを雑にポケットに突っ込み、メグと一緒にログハウスに戻った。
ログハウス内に異常は見あたらなかったので、二人でテーブルを囲んで現在の状況整理をする。
「アタシ達は今、無人島にいて」
「うん」
「夜中に地震津波警報が鳴ったので高台に避難したけど誤報で」
「うん」
「その後なんか空が虹色で流れ星が降ってきて」
「何だったんだろうあれ……あっ、続けて」
「気が付いたら朝になってて」
「うん」
「元あった陸地が無くて」
「うん」
「別の方向に変な陸地があって」
「うん」
「スマホの電波とGPSが使えない」
「うん」
「この7つ」
アタシは右手で5本、左手で2本、の合わせて7本の指を立てる。
「元の陸地が無い以上、アタシ達は今、実質遭難中なワケ」
「そうなんです……ふぎゅっ」
アタシはジト目で、立てた左右7本の指でアホなダジャレを言ったメグの頬を挟む。
「うぎゅ、ごむぇん」
メグの頬を開放した後、指をクイクイと開けたり閉じたりしながらメグに問いかける。
「どこからおかしくなったと思う?」
「ここかな」
メグはアタシの右手の薬指を摘まむ。空が虹色、の部分だ。
「やっぱそうなるか、うーん、あれなんだったんだろ」
「何か降ってきたけど、私にも千歳ちゃんにもケガは無いし、ただ二人一緒に寝ちゃったのがよくわからないよね、うーん」
「うーん……」
「うぅーん……」
と、二人とも腕組みをしつつ首を捻りながら悩んで居たとき、
-バサッバサッ-
少し遠くで何かが羽ばたく音がした。音は少しの間上空を旋回、その後、次第にこっちに近付いて来る。メグにも聞こえたらしい、目を見開いてアタシを見ている。
「なんかこっちに来る、ちょっと隠れて」
「う、うん」
メグと羽ばたき音のする方角の窓側に張り付き、外から見えない様に隠れる。メグが不安そうにこっちを見ているが、アタシは声を出さない様にと自分の唇に人差し指を立てて、静かにしろ、のジェスチャーを送る。コクコクと頷くメグ。
-バサッバサッバサッ、バサバサッ-
-ブワッ-
開けておいた窓から、強めの風が吹き込んでくる。
(ログハウスの……玄関前に降りた?)
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