流着のオードゥスルス ~アラサー悪魔化ねーちゃんの異世界奮闘記~
逗田 道夢
第1章 「流着一日目」
01.プロローグ_01
アタシは、
普段は札幌で会社員をやっている、茶髪でベリーショートな髪型の32歳、独身。
別に好きで独身でいる訳じゃない、ただちょっと人より体がデカすぎるってだけで、相手に引かれる事が多くて、いや、自分でも身長186cmはちょっとじゃないってのはわかってるんだけど。
あと空手、それもおばあちゃん直伝の実践空手を幼少の頃から習っていたせいか、がっしりした……しすぎた体躯に成長し、場合によっては女として見られていない気がする。
昔、メスゴリラって言って絡んで来た酔っ払い男を張り倒してやった。
「千歳ちゃーん、島まで何分くらいなのー?」
後ろにいるこの子は、
元会社秘書で、3年前に結婚して今は専業主婦をやっているらしい、眼鏡と、長く真っ黒な髪がとても綺麗な31歳。あと、乳がデカい、Gはある。
アタシの高校時代の後輩で、アタシの入ってた空手部のマネージャーをやっていた。まあ、アタシが高校2年生だった春ごろ、空手部の勧誘って事でまだ新入生だったメグを取っ捕まえてかなり強引にマネージャーに引き入れたのだが。
高校卒業後、大学卒業、社会人になってからも交友は続いてて、今は後輩ってより友人、いや親友って言っていいのかな?そんな間柄である。
「ん~?30分くらいじゃないかなー?」
そう言ってアタシは後ろにいるメグへ軽く振り返りながらボートの操作を続ける。
アタシ達は今、無人島である
そもそもなんで女二人で芽霧若菜島に向かっているかと言うと、先日死去したアタシのおばあちゃん、
元々、アタシはおばあちゃんとの二人暮らしで、親はいない。いや、正確には母親はいたんだけど、母はアタシが4歳の時、アタシとおばあちゃんを置いてどこかに消えた。今も連絡は取れていないため、死んでるのか生きてるのかすらわからない。父親に至っては誰だかすらわからない、所轄シングルマザーと言うやつで、母親として厳しかった面もあるんだろうが、取り残されたアタシ的にはたまったもんじゃない。
だけどアタシにはおばあちゃんがいた、実質育ての親はおばあちゃんだ。おばあちゃんも早くにおじいちゃんを亡くして一人で母を育ててきたと言っていた。おばあちゃんは厳しかったけど、優しくて、大好きだった。おばあちゃんには色々教わった、勉強、裁縫、料理、そして空手だ。
空手は琉球空手の流れを汲んだおばあちゃん考案の日高流で、徒手空拳の他、棒術やトンファーなどの武器術、防具を付けての実践空手だ。寸止めなんて無いので、よく道場でおばあちゃんに物理的にボコボコにされて泣かされた記憶がある。昔はアタシ以外にも門下生はいたのだが、あまり流行らなかったのか最終的にはアタシとおばあちゃんだけ、そしておばあちゃんが亡くなったことで日高流はアタシ一人になった訳だ。
しかし、財産云々は兎も角、孫に無人島相続するか普通?ていうかなんで島の所有権なんて持ってるの?とか、相続に関する書類手続きとか、島と船の管理とか管理費とか、税金とか税金とか……で、色々もう面倒なので島を売りに出そうかと思ったんだけど、メグの提案で1回くらい島を見ておきましょ?それから決めたら?と言う事になり今に至ると言う訳だ。
-ヴゥゥゥゥゥゥ-
「メグー、あれ、見えるー?あれが芽霧若菜島だってさー」
「えー?どこー?あっ、見える見えるー、へぇー結構大きいー」
ボートのエンジン音が煩くて、ちょっと大きめの声で雑談を続ける私達。次第に遠ざかる北海道の大地を背に、照り付ける夏の日差しの中、アタシはボートを走らせる。
「それにしてもー、千歳ちゃん、ボートの免許なんて持ってたんだねー」
「ああこれー?前におばあちゃんに免許取りにいけーっ!って、無理やり取りに行かされてさー」
このプレジャーボートもおばあちゃんの遺品だ。最高速度31ノット、定員9名、魚群探知機付きというなかなかの優れものである。おばあちゃん付き添いで何度も操舵しているため、今では手足のように動かせる。だが、如何せんアタシ一人の手には余る。管理維持費もただじゃないのだ。
そうこうしているうちに島に到着した。
アタシは浮桟橋のある砂浜にボートを寄せ、船から降りた。そしてロープで浮桟橋にボートをしっかり括り付ける。その後、メグと一緒に積んできた荷物を船から降ろしていく。
「メグー、これで全部ー?」
「大丈夫ー、忘れ物は無さそうだよー」
メグが荷物確認を終えて船から降りてくる。そして改めて島を一望し、感嘆の声を上げるアタシ。
「はー、立派なもんだねえ」
「はい、それじゃあメグさんの解説コーナーだよー」
南北に細長いこの島は、横幅約300メートル、縦幅は1キロメートル以上もあり標高は100メートル程度の高さ。昔の戦争の時代には軍隊の基地が置かれていた事があったらしく、大砲の設置場所の跡とか、陸地に船や航空機の格納庫用の横穴、さらに滑走路などがあった、とメグが説明する。一応アタシも事前に地図は見ているのだが地理に疎い私にはサッパリわからなかった、けどメグの説明を聞いているとなんか分かったような気になるから不思議だ。
メグの一連の説明を聞きながら、アタシ達は島の中央にあるログハウスに向かう。これから数日寝泊まりするところだ。目的のログハウスは砂浜から坂を上がってすぐ、見えた。
-ギィィ-
木の扉を開けて、ログハウスに入ったアタシ達。玄関に入ってすぐリビングが見える。
「千歳ちゃん、荷物ここでいい?」
「うん、とりあえずそこ置いとこっかー」
持ってきた荷物をリビングのテーブルへ置くメグ。アタシも背負ってる荷物をテーブルに下ろした。
「よいしょっ、と」
「結構広いねー、あっ、2階もあるんだー?」
メグは荷物を置くなり興味津々と言った感じでログハウス内を歩き回る。そんなメグを横目にアタシはとりあえずスマホの電波を確認する。
「千歳ちゃん何してるの?」
「スマホの電波届くかなーって……ん?おっ、あっ、こっちならギリギリいける。おお、ズイッターも天気予報も見れる、ヨシヨシ」
方角によって電波の入りが悪くなるが、問題なく使えた。現代人としては、スマホの電波が入るか否かは最優先確認事項である。特にここは無人島であり天気予報が見れる見れないでは大違いだ。別にズイッターで暇つぶししようとかゲームで遊ぼうとか考えているわけじゃない、きっとない。
「それじゃあ、とりあえず、電気と水と暖房の確認する?」
「発電機と……あとソーラーパネルがあるんだっけ?ストーブはそこの灯油式のやつでいいよね?水は湧き水と、井戸?どっちも見ておく?」
(メグめ、きっちりと下調べしてきたな)
などと思いつつ、昔からメグの事前準備の良さには助けられている。おばあちゃんの相続手続きの書類の手伝いから、今回の無人島旅行の下準備までほとんどメグに頼りっぱなしだ。メグの元秘書のスキル半端ねえ、だから別にアタシに生活力が無いわけじゃない、きっと。
そんなメグに連れられて、アタシは発電機の前に燃料を持ってきた。メグは傍にあった発電機の説明書をじっくり読みこんでいる。
「メグ、燃料持ってきたけど、どう?使えそう?」
「えっと、ここに燃料をいれて」
とメグが発電機の給油口に指を差す。
「あいよ」
-トポポポ-
いつも通りの友人へ軽快な返事と共に、アタシは持っているタンクから発電機へ給油する。
「で、ここのつまみをこっちにして、これをこっちにして、スイッチをON……でこれをぐいっと引っ張って」
「イエスマム、よっ!っと」
-キュルルルル、ギッ、ギュゥゥーン-
アタシが発電機のスターターハンドルを勢いよく引っ張ると、けたたましいエンジン音と共に発電機が始動する。
「うん、OKだね、千歳ちゃんスイッチ切っちゃっていいよ」
「ほい、って切っちゃっていいの?」
「今日は晴れてるからソーラーパネルで電気は足りる……と思う、まあ足りなかったらその時また運転しましょ?」
「なるほど」
-ヒュゥゥゥン-
ということで本日は発電機の出番は無いらしい。アタシは発電機のスイッチを押して発電機を停止させる。
続いてアタシ達はログハウスの隣りの井戸を確認した。井戸には手押し式のポンプが備え付けてある。
「井戸っていうから桶でも投げ込むのかと思ってた」
「そういうのも風情あっていいんだけどねー、あ、そこのレバー上げ下げしてみて」
「あいよー」
-キコキコキコキコ-
-ブシュッ、ジャアアアー-
「おお、水出た」
こちらも問題なく使えるようだった。アタシ達は一旦ログハウスのリビングに戻る。
「あとは湧き水かな、んー、ここと、ここと、ここ」
「へぇー」
メグがそう言いつつテーブルの上に島の地図を広げて湧き水の位置に鉛筆で印を付けて行く。印を見るに湧き水は3か所あるらしい。相変わらずのメグの手際の良さに関心するアタシ、を見てエッヘンと得意げに鼻を鳴らし持ち前のやたらデカい胸を張るメグ。メグの胸はアタシのより軽く一回り以上はデカい。アタシだって結構大きいハズなんだけど……いや、胸筋だけじゃないから、脂肪もちゃんとあるから。アタシは軽い嫉妬心と大量のイタズラ心でもって、ここぞとばかりに無防備なメグの両胸をシャツの上から鷲掴みする。
「隙ありぃっ!」
-ムギュ-
「フギャー!何するんですか千歳先輩!!」
アタシに胸を揉まれ、両腕を広げなら間抜けな悲鳴を上げるメグ。アタシ達は普段はタメ口同士で話し合うのだが、メグは感情が昂った時、決まって敬語になる。こっちの方が素なんだろうか。そう思いつつ、その間もアタシはメグの胸を揉み続ける。
-むにゅむにゅむにゅむにゅ-
「むむむ……柔らかい、大きい……」
「あっ、こらっ、揉みすぎですってば!もう!」
アタシの魔の手から逃げて後ずさり、顔を真っ赤にしながら両腕で胸をガードするメグ。メグのその仕草に変なスイッチの入ったアタシは、舌なめずりしながら追撃を仕掛ける。
「ふひひ、奥さん、良い乳してますね……ちょっと分けていただきたいのですがっ!」
「分けませんーっ!」
「その程度のガードでアタシの攻撃が防げるかぁぁっ!」
「きゃああっ!」
アタシはメグの両腕を跳ね除け、再び無防備になったメグの爆乳を揉みしだく。アタシとメグの体格にはかなり差がある。メグの身長も女性としては割と長身な方なのだが、肝心のアタシの身長がデカ過ぎて、頭1個分くらいの差が出る。さらに空手で鍛えてあるこのアタシの身体、腕力でメグに勝ち目は無いのだ。
-むにゅむにゅむにゅむにゅ-
「あっ、あーっ……うう、もおっ、好きにしてくださいっ!」
「ヨシ!」
真っ赤に赤面した顔をアタシから背けつつ無抵抗になるメグ。言われた通り、アタシは好きに揉み続けた。
アタシは一頻りメグの胸を堪能した後、メグの印を付けた場所の湧き水を確認しがてら、島を探索する事にした。
なんとなく反時計回りに島を探索することにしたアタシ達は、南東と南西の2か所の湧き水を巡り、最後の3か所目にあたる北側の湧き水の場所に来た。
-コポコポコポコポ-
「これで最後?」
「えっと、うん、これが最後かな?」
アタシは冷たい湧き水の泉に手を突っ込みながらメグに確認を取る。3か所の全部の湧き水を確認したが、どれも綺麗で飲めるらしく、現にアタシは全部の湧き水を一口づつ飲んでみている。
「うん、美味しい」
アタシはゴクゴクと喉を鳴らしつつ湧き水を飲む。冷たくて美味しい。北海道と言えど、こう日差しをまともに受けていては流石に暑い。いっそこのまま水浴びしたいところだが、メグ以外誰も見てないとはいえ、いくらなんでも……いや、やってしまえ。
「それっ!」
-バシャ!-
「ンギャ!」
アタシは両手いっぱいに汲んだ湧き水をメグの顔に投げつけた。メグがちょっと間抜けな悲鳴を上げ、濡れて垂れ下がる長い前髪の間からこちらを睨みつけてくる。
「せ~ん~ぱ~い~ぃぃ?」
「ひえっ」
「お返しですっ!」
-バシャ!-
「ぶはっ!」
メグの両手で掬われた逆襲の水がアタシの顔にモロに掛かる。そしてメグは畳みかけるように何度も水を投げてきた。
「喰らえっ!喰らえっ!喰らえっ!」
-バシャ!バシャ!バシャ!-
「あっひっ!冷たっ!冷たっ!ごめんっ!ごめんってばっ!冷たいっ!」
メグに掛けられる水の冷たさを感じながら、アタシは顔だけ手でガードする。その間もメグは容赦無くアタシの上から下まで水を投げ続ける。
-バシャ!バシャ!-
「どうですっ!って……クククッ、ヒッ、千歳ちゃん、頭から服までビショビショ……フヒッ、フエヒッ、いひひひっ!」
「ははっ!あははははっ!」
全身水浸しになったアタシを指差しながら、少し化粧のにじんだ顔で大笑いするメグ。アタシはアタシで期待通りやり返してくれたメグに楽しくなって笑いが止まらない。
メグとの付き合いはもう15年くらいになるが、未だにこんな馬鹿な事に付き合ってくれるメグにはとても感謝しているし、正直言って好きだ、あくまで友人として、だけど。3年前にメグが突然結婚すると告げてきた時、アタシは狼狽えた。本来なら友人として結婚を祝福するハズのところを、今までのような友人関係を続けられなくなるのでは?アタシの母のように、もう2度と会えないのでは?と、アタシの勝手な思い込みで、素直におめでとうと言えず、言葉につっかえてしまったのだ。
だけどメグはそんなアタシの心もお見通しだったのか、アタシの手を両手で優しく包みながら、
「大丈夫、傍にいるよ、私は千歳ちゃんから離れて行ったりしない」
と、言ってくれた。アタシは自分の馬鹿さ加減とメグの優しさに泣いてしまった。
「うえっ、えぐっ、うぇぇぇ~、メグぅぅ~おめ、おめでとうぅぅ~結婚おめでとうぅぅ~」
「うん、ありがとう……ございます、千歳先輩……」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしつつもメグに祝福の言葉を告げるアタシを、メグは優しく抱きしめてくれた。
そんな昔のことを思い出しつつ、日も暮れだした辺りでアタシ達はびしょ濡れのまま二人で大笑いしながらログハウスに帰った。
「うっひゃー、下着までびっしょびしょだよ~」
「千歳ちゃんのせいでしょぉ~?もおー」
アタシがびしょ濡れの服を脱ぎ捨てる様子を見ながら、メグも上着を脱ぎつつ牛のように唸る。
「あー、そうでした~、まあシャワー浴びて夜ご飯食べて~今日はもう寝ちゃおっか」
「そうだね、今日は流石に疲れた~し?そうしましょ」
メグのお前のせいだゾと言わんばかりの視線を受け止めつつ、アタシは水でびしょ濡れの不快感に耐えかねてメグにシャワーの順番の提案をする。
「うぐっ……あー、えっと、シャワー、先入っちゃっていいでしょうか、恵様?」
「あらあら、お先にどーおぞ、千歳様?」
「うぇへー」
ちょっと嫌み交じりのイジワルなメグの言葉にアタシは苦笑いで答えた。まあ最初に水掛けたアタシが悪いのでしょうがない。アタシは無人島でありながらシャワーまで備えるこのログハウスに内心感嘆しつつ、シャワーを浴び終えた後、夕食を取ることにした。
夜のログハウスで暖色のLEDライトに照らされた本日の夕食は、島に来る前、途中のコンビニで買った弁当だ。アタシはせっかくキッチンも付いてて電気も使えるんだしカレーでも作ろうかって提案したんだけど、メグに初日は荷物の配置やら施設の確認とか探索とかでいろいろ忙しいし、着いた頃にはもう疲れちゃってるだろうから今日は簡単な弁当にしようと言われ、
「確かに……」
と、納得して従った。
一応2泊3日の滞在予定なので食料も燃料も3日分は持ってきている。燃料の方は、晴天とソーラーパネルのおかげで電気が賄えているので3日分丸ごとは不要だったかもしれない。まあ、余ったら倉庫に置いて帰ればいいかな。
-ガラガラガラッ-
食事の片付けをした後、スマホでズイッターの閲覧をしていると、2階から引き戸を開けた音が聞こえた。気になったので2階に向かうと、メグがベランダの手すりに寄りかかり夜景を眺めている。アタシもベランダに出てメグの隣に並んだ。
「メーグ、なーに見てんの?」
「ん、夜景、ほらあそこ、ボート乗った時の港だよね?きれー」
アタシをちらりと一瞥した後、また港の方に視線を向けるメグ。アタシもメグに習って手すりに寄りかかり夜景を眺める。
「へぇー、悪くないじゃん」
「でしょ?……そういや千歳ちゃん、彼氏、どうなったの?」
ピタッと動きを止めるアタシ、そしてメグの一言で忌々しいアイツの顔を思い出し、怒りが込み上げてきて思わず手すりを掴んでいる手に力が入る。
-ミシッミシミシッ-
「……んんんんん!ああーっ!あっのっ野郎ぉぉーっ!何がお前と一緒にいると疲れるだぁぁぁーっ!そっちから誘って来たんだろうがぁぁぁあーーっっ!お前なんかこっちから願い下げだぁぁぁーっ!!二度とその顔アタシに見せるなぁぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!」
「んぎゃあ!千歳先輩!どう、どう!手すり!折れます!おち、落ち着いて!ほら!丹田!丹田呼吸法!」
向かいの港に届くような大声で忌々しいアイツへの文句を言うアタシ。慌ててアタシを落ち着かようとするメグ。アタシもメグの指示に従って手すりから手を放し、両手の握り拳を腰に据えてを呼吸法の準備をする。アタシの掴んでいた場所の手すりは、無残にも凹んでいた。
「スゥゥゥ、ハァァァー……」
「落ち着いた?落ち着いたよね?ね?」
「スゥゥゥ、ハァァァー……うん」
「この話、辞めよっか?」
「……うん」
夜の風が涼しくて心地良い。しばし無言で夜景を眺めていると、メグがアタシの方に向きかえり、少し上目遣いにアタシの顔を下から覗き込みつつ言った。
「無人島、来て良かったでしょ?」
「うん、良い、良いね」
「うふふ」
また手すりに寄りかかり夜景を眺めるメグ。アタシはクルリと踵を返し、顔の高さまで上げた右手をひらひら振りながら言った。
「でも、売るかどうかは別だよ?」
「えぇー、やっぱり売っちゃうのー?」
メグの不満そうな言葉を後ろに、アタシは部屋に戻った。
流石にベッドは無いようで、アタシ達は持ってきた寝袋を床に敷いて消灯。スマホで時間を見るとまだ午後8時半とかなり早いが、電気も勿体ないし今日は寝ることにした。
「そんじゃー、メグ、おやすみー」
「あっ、千歳ちゃん、明日はどうする?」
メグに言われて気づく、そう言えば何も決めていなかった。
「あー、えー、無人島って、何したらいいんだろう?」
「んー、探索は今日だいたいしちゃったから、明日は釣りでもする?」
釣り具なんて持ってきていただろうか?などとアタシが不思議がっていると、メグが楽しそうに告げてくる。
「あのっ、倉庫に釣り具があったんです!他にもロープとか!バケツとか!長靴とかも!だから!明日!」
「おっけー、おっけー、メグさん落ち着いて?顔近い」
メグが話の勢いそのままに入ってる寝袋ごとずりずりと移動してくる。いよいよアタシの顔に近づいて眼鏡を外したままのメグの顔がアタシの顔に密着した。この状態で喋られるのはいくらメグ相手でも流石に恥ずい。
「あっ、ごめんなさい……」
窘められてしょんぼりと遠ざかっていくメグ。相変わらず寝袋ごとずりずりと移動するので、これが滑稽で面白くてしょうがない。アタシは笑いを堪えつつ逆に今度はこっちからメグの目の前まで近づいて、言った。
「じゃあ、明日は、釣りをしよう」
「……は、はひぃっ!」
「あっはは、なーに今の返事、声裏返ってる」
「はい……うん、おやすみ、千歳ちゃん」
恥ずかしかったのか寝袋の中で小さく丸まっていくメグを見て、やっぱり可愛いな、などと思いつつ。
「おやすみ、メグ」
と、親友に就寝のあいさつを告げた後、アタシも瞼を閉じた。
……明日もこの楽しい無人島旅行が続くと思っていた、この時までは。
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