第13話 元『銀の翼』深淵ダンジョンへ……
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冒険者ギルドでギルドマスターとやり合ってから数日後、元『銀の翼』の三人はトラテム王国へと来ていた。
あれから、ブレッドたちは深淵ダンジョンに潜るためにパーティーを解散した。
六人で組んでいたパーティーだったが、メリルとメリッサを除く他の三名はそれぞれの生活があるため話し合いの結果別れることとなったのだ。
結果としてルケニア王国の冒険者ギルドから最強パーティーが消滅した。ギルドマスターはそのことで各方面から責任追及をされていたが、ブレッドたちは関係ないとばかりに出国した。
「それで、ブレッド。パーティーを解散してこの国に来た理由をそろそろ教えてくれない?」
メリルは鋭い視線をブレッドへと向ける。ギルドでピートのことを聞かされてから随分長い間笑顔がなり潜めている。
「俺たちが深淵ダンジョンに入るもっとも簡単な方法はなんだと思う?」
今のメリルはあきらかに焦っている。この調子ではピートを救うのに支障をきたす。ブレッドは冷静さを取り戻させるために質問した。
「……犯罪者になること」
メリッサがポツリと呟いた。ブレッドはその答えに頷く。
「そう、それが簡単な方法だ。だが、ルケニアの扉は既に閉じてしまっているからな」
一年に一度の扉の解放、どの国も過去にスタンピードが起きたことを知っているせいで、扉が解放されるといち早く犯罪者を送り込み閉じてしまう。
「だったらだめじゃん! 打つ手なしじゃん!」
メリルは大声をだすとブレッドを睨みつけた。
「落ち着け、メリル。今から説明する」
ここは大通りだけあって人が行き交っている。ブレッドは雰囲気からしてただものではない冒険者の格好をしているし、メリルとメリッサは双子の姉妹でその優れた容姿のせいもあって人目を惹く。
周囲の人間はいやおうなしに三人に視線を送っていた。
「ブレッド。要点だけ話して」
無表情でわかり辛いが、焦る度合いでいうならメリッサも負けていない。もったいぶった言い方をするブレッドに苛立っていた。
「二人も知ってのとおり、深淵ダンジョンは決まった人数が入らないと扉が閉まることはない。そのことがあるからルケニア王国は毎年犯罪者を犠牲に扉を閉めていた」
それ自体は悪いことではないのだが、生還率ゼロの真実は世間に知れ渡っている。なので、よほどのことがない限り犯罪を起こす人間はおらず抑止力となっていた。
そのせいで、犯罪者の数を確保することができず、ピートが嵌められたのだから笑えないのだが……。
「だが、すべての国が深淵ダンジョンに犯罪者を送り込んでいるわけじゃない。ここトラテム王国は深淵ダンジョンの攻略を諦めていない。それどころか攻略に挑戦する人間を支援してくれているんだ」
どの国も諦めている深淵ダンジョンを攻略したとなれば十二国内でのバランスを崩すことができる。トラテム王国は国家事業として深淵ダンジョン攻略を勧めていた。
「つ、つまりっ! ここの入り口はまだ閉じていないってこと!?」
ブレッドの説明を理解したメリルは、大きく目を見開くとそう言った。
「応募がなければ犯罪者を放り込むらしいがな、まだわからないが可能性はある」
「どこ? どこに行けば深淵ダンジョンに入れるかわかるのさ! 支援なんていらないから早くいかなきゃ枠が埋まっちゃうよ!」
「落ち着け、申請は城だな。支援物資もそこで渡されて、ダンジョンに入るまで見届けられる。でなきゃ支援だけ受け取って逃げるやつもいたらしいるだろうし……っておい!」
説明を聞いたメリルとメリッサはブレッドをその場に置いて走る。その姿をみたブレッドは頭を掻くと……。
「これだからピートは……。最初から俺のパーティーに入っておけば無実の罪で投獄されなかったのによ。あの二人の泣かせるような真似しやがったらぶん殴ってやるぞ」
双子の姉妹にあれだけ慕われている少年の姿を思い浮かべたブレッドは、急ぎで二人の後を追いかけた。
「それでは、冒険者ブレッドとメリルにメリッサをトラテム王国が派遣する攻略者として認定し、支援を行います」
深淵ダンジョンの入り口にて国が派遣してきた役人が説明をしている。
ダンジョンの扉の上には数字が刻まれている。
『62/66』
現在、深淵ダンジョンに入った人数が62名。残り枠はあと4名ということになる。
「危なかった……、ギリギリじゃん」
メリルは間に合ったことにホッと溜息を吐く。
「それではこちらを受け取り下さい」
役人の言葉で後ろで待機していた人間が前に出ると三人にカバンを渡した。
「こちらは空間拡張されたカバンで、一ヶ月分の食糧の他に、消耗品各種と衣類などが入っています」
「それはまた……。支援してもらえるとは聞いていたが、そこまでとは思わなかった」
「ここだけの話ですが、実績に応じて渡す内容が変わります。あなた方の噂は隣国からトラテムまで流れてきておりますので。有力な攻略者が支援不足で倒れては困りますから。手厚い支援をさせていただいておりますよ」
「そりゃ助かる。是非期待に添えるように頑張らせてもらおう」
ブレッドがそう答えると、三人はカバンを受け取った。
「高名な冒険者である三方に一つ頼みがあるのですが……」
後はダンジョンに入るだけとなったタイミングで、役人は別な提案をしてきた。
「これだけしてもらったんだ、多少の頼み事なら構わないが?」
訝し気な顔をしたブレッドは役員の頼み事とやらを聞く。
「今年の扉が開いてからもう一週間、国のルールでは二週間まで様子をみることになっていますが、中途半端に一人分残していても仕方ないのでこのタイミングで閉じようと考えています」
「それはつまり、犯罪者を入れるってこと?」
察しの良いメリルに役人が頷く。そして後ろに合図を送ると、一人の人間を連れてきた。
メイド服に身を包んだ少女だ。
「この者はミラと言います。最近国家に関わる重大な犯罪を犯しましてね。なので、一緒に深淵ダンジョンに入れさせて頂きたいと考えております」
既に諦めているのか、役人が説明する間もミラは無言を貫いた。
「……どうしてメイド服?」
メリッサがミラの格好をみて首を傾げる。およそ罪人らしくなく……そして深淵ダンジョンに入るのに相応しくない格好をしていたからだ。
「私は姫様に仕えるメイドですから。たとえ主が失われようとも最後までこの服を脱ぐつもりはありません」
どうやら彼女の意思を尊重しているようだ。
「しかし、防具も身につけないとなると、深淵ダンジョンでは危険だろう?」
中には危険なモンスターとトラップがあるのだ。
「そこは犯罪者ですので、迷惑になるようであれば中に入ってすぐに別れていただいても結構です」
ようは入るまでの間監視して欲しいというのが頼み事らしい。
ミラの顔立ちからメリルとメリッサとそう変わらない歳に見える。
ブレッドは小さい頃から二人の面倒を見ていたので、双子を自分の娘のように大切に思っている。そんな二人とそれほど変わらない年頃の少女が犯罪者としてダンジョンに入れられる。そしてその死の一因を握らされることに抵抗があった。
「いいよ、そのくらい。頼み事はそれで終わり? ならさっさと入りたいんだけど」
「おっ、おいっ!」
勝手に話を進めようとするメリルを咎めると、彼女はブレッドだけに聞こえるように言った。
「多分この娘も訳ありだよ。一人で入ったら死んじゃうと思うけど、私たちなら助けられるから」
「つっても、保護するのが一人から二人に増えるんだが……?」
ピートを助けるだけでも大仕事なのだ。この上戦闘ができない足手まといを抱えるとなると難易度が上がってしまう。
「……ブレッド」
メリッサの視線が突き刺さる。普段は無表情だが、こういう時は捨てられた子犬のような寂しそうな表情を浮かべている。
「ったく。わかったよ! 最悪どうしようもなくなったら見捨てるからな!」
あの日、双子の姉妹を拾った時からつくづく自分は厄介ごとに縁があるなと痛感させられる。
ブレッドたちは覚悟を決めると、深淵ダンジョンへとはいることにした。
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