第4話 洞窟を抜けると森でした

「とりあえず、何も近付いてこなかったな」


 あれだけ激しい戦闘をしたので、モンスターが寄ってくるかと思ったが、特に何も現れなかった。


 犯罪者が近くで夜営していて様子を見に来ることも考えており、周囲の警戒は怠らなかったが影すら見えなかった。


 逆の立場で考えてみる。俺ならあからさまにヤバい存在がいる場所に近付くなんてしないだろう。もし夜営をしていたとしても、今の戦闘音が聞こえたなら慌ててその場を離れている。


 犯罪者たちも用心深い。深淵ダンジョン内だからこそ生き残るために危険を避けているはずと結論付けた。


「よし、そろそろ行くか」


 あれ程の威力の魔法を使ったにもかかわらず、破邪の杖の効果のお蔭で魔力はそれほど減っていない。

 むしろ熱気で汗を掻いたせいで体力を奪われ、空腹を意識させられてしまった。


 直ぐに動かなかったのは、食べられそうなモンスターか犯罪者が現れないか期待したからだ。


 俺は立ち上がり、砂を払うとダンジョンを奥へと進むのだった。






 ミスリルゴーレムと遭遇してから数時間、俺は洞窟内をひたすら北上していた。

 途中で分岐が現れるが進行できる方向は常に三つ。同じような十字路ばかりなので「もしかしてずっと同じ場所をぐるぐる回っているのでは?」という考えが頭がよぎるが、これまでの道で、目立たぬ場所に目印を記してきたのでそれはなかった。


 最初に深淵ダンジョンに入った時、扉を南に見立てて北上し続けた。

 それというのも、深淵ダンジョンは大陸の中央にある山脈の絶壁に入り口があるからだ。


 扉は十二国すべての絶壁にあって中で繋がっているというのが各国の共通認識だ。


 何かがあるとすればダンジョンの中央。このきっちり区画にわけられている造りからして、明らかに何者かの意思が存在する。


 進む方向については、犯罪者たちにも話していたので彼らが目指すのも中央のはず。モンスターやトラップを避けるため東西にずれているかもしれないが、北上していれば形跡は発見できるはずなのだ。


「とにかく、早く食料を奪い返さないとな……」


 奴らに食われてしまっては遅いので、俺は足を速めるのだった。




 途中、何度かモンスターとの戦闘を重ね進み続けた。遭遇したのはゴーレムやガーゴイルといった魔力で動く敵ばかりだったので、瞬殺しながら進んできた。


 即死級のトラップも幾つかあったのだが【サーチ】の魔法のお蔭で、トラップがある場所がはっきりとしていたので引っかかることはなかった。


 そんなわけで、順調に洞窟を進んでいた俺だったが……。


「ここは……抜けたのか?」


 いつの間にか日が昇ったのか、周囲が明るくなっていた。陽の光が差し込んだかのように気温が上がり、空気が変化している。


 目の前には一面に森が広がっている。さきまでの洞窟のような造りから一転して天井は高く目を凝らしてようやくうっすらと見えるくらいだ。


 遠くを見ると、上空には何やら小さな生物が大量に飛び回っているのが映る。

 魔法で視覚を強化してみてみると、小さな生き物と思っていたのはどうやらドラゴンの群れのようだ。


 ここ【深淵ダンジョン】の外側、山脈の上空にはいつも大量のドラゴンが飛び交っている。

 そのせいで調査をすること叶わず、これまで深淵ダンジョンの秘密を誰一人としてしることがなかった。その話を思い出した俺はある想像が浮かぶ。


「どこかに上と繋がる出口があるってことか?」


 ドラゴンたちが深淵ダンジョン内で生まれた可能性は否定できないが、ダンジョンの内側と外側。まるで何かから守るようにドラゴンが飛んでいることから、あの巨体が通ることのできる通路が存在している可能性はありそうだ。


 もしそうならば、ドラゴンを何とかできれば【フライ】の魔法で脱出することも可能。俺はそんな風に考えると、洞窟の方が気になった。


 少し前に進み後ろを振り返る。自分が出てきた場所が気になってみてみたのだが、そこには絶壁が広がっていた。


 天まで覆う壁をみて、ここが山脈の空洞の中なのだと確信を得る。


 俺が出てきた穴の左右には等間隔で同じような穴がずらりと開いていた。視界に見渡す限り穴が広がっている。確認したわけではないが、このダンジョンの外側の地形と、造り手の意図から考えると一周ずっと同じように穴が開いているのだろう。


 恐らくだが、どのルートを通っても方角さえ見失わなければここに出るようになっているに違いない。


 もっとも、トラップやモンスターの存在もあるので、生きてたどり着けるかどうかは運しだいということにもなる。


 徒歩で丸二日程度で到達したことから、ここは深淵ダンジョンでもまだ外周だろうと予測する。


「つまり、十二国のどの入り口から入ってもここに向かうようになっている。他に到達している犯罪者もいるかもしれないな……」


 あるいは俺のように人数合わせの冤罪で放り込まれた人間も……。


 木があり森があるのなら獣や木の実なんかも存在しているはず。俺は気を取り直すと食料を探しに前へと進み始めた。

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