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「終わった……。」
巻き上がった土煙で視認することはできないが、魔力感知に引っかかるものはない。どうやら今ので全て蹴散らせたらしい。
大量発生と聞いていたが、想像の範囲内だった。大量の魔力消費でふらつく身体を杖で支え、その場を去ることに決める。出力は抑えた、ダンジョンが崩壊する兆しも余波でモンスターが飛び出してくる様子もない。
「……?」
安堵と共に違和感がエリオットを襲う。思わず身構えるが、その理由はすぐには見つからない。慌てて周りを確認するが、何も問題はない。ダンジョン内にモンスターは見当たらない。
「あっ……!!」
どうして気が付かなかったのか。いくらここが低層までしかないダンジョンとは言え、モンスターはいる。アンデッドが発生していたのは、地下二階。とすれば、地下一階でモンスターを見かけることがあってもいいはず。それが一匹も見かけないなんてことはあり得ない。
モンスターの種類は多種多様だが、一貫した特徴がある。それは弱肉強食。弱いモンスターが自分よりも強いモンスターに立ち向かう、なんてことは殆どない。群れで活動するモンスターならなくもない話だが、両者の間に決定的な力の差がある時に争いが起こることはない。弱者は強者から身を隠し、やり過ごす。これは捕食、被捕食関係にあるモンスターに限った話ではない。自分の身を護るため、弱いモンスターは強いモンスターの前に姿を現さない。
「問題はそのモンスターがどこにいるか、ね。」
エリオットが今いるのは、二階層の入り口付近。正方形に近い大部屋の三辺から三本の通路が奥へと繋がっている。
問題はアンデッドがどこから来たのか。アンデッドが強力なモンスターだった、という考えもなくはない。だが、それなら何故アンデッド達はこの部屋から動かなかったのか。アンデッドは命あるモンスターとは異なり、視覚によってこちらを認識し、攻撃するわけではない。モンスターや人間の魔力を感知して攻撃を仕掛けてくるのだ。普通のアンデッドなら、モンスターに釣られて何匹か地下一階に上がってきていてもおかしくない。つまり、このアンデッドは自然発生したものではない。
「となると、誰かによる召喚ってことになるけど。」
誰が何のために、動きもしないアンデッドを低級ダンジョンに配置しておくのか。私みたいに大技を使わなくても、あれぐらいなら解決できるパーティーは多い。現に解決したエリオットも帰還しよう、という所だった。
姿を見せないダンジョン内のモンスター、アンデッドを発生させる意味、二つが頭の中で結びつき始める。これが誰かによる人為的なものだとすれば、説明がつく。
「……そういうこと。」
さっき屠ったアンデッドは恐らくカモフラージュだった、本当の目的を隠すための。冒険者ギルドで問題になっていたのは『アンデッドの大量発生』、『ダンジョン内のモンスターの出現の低下』ではない。増えたものは目についても、減ったものは目につきにくい。冒険者にとってモンスターが来ない方が都合がいいのだから猶更だ。私も違和感を覚えなければ、何事もなくクエストの完了をギルドに報告していただろう。もう少しで、首謀者の思うつぼだったと思うと寒気がする。
恐らく首謀者が隠匿しようとしたのは、アンデッドよりも強力なモンスターの存在。ずっと魔力感知に引っかからないのは、何らかの術式で隠匿されているから。そして、この階についてしか調べていないから。モンスターがいるのは、あるはずのない三階層目だ。
「すぅ。はぁぁ。ふっ。」
額を伝う冷や汗を拭い、口元を引き締める。正直な話、証拠も何もない。まだ通路を探っていないのだから、この奥にモンスターが潜んでいる可能性もある。だが、勘が試してみるべきだと告げている。早くしなければ手遅れになる、とも。助けを呼びに行くべきだ、という思いよりも好奇心の方が勝ってしまう。悪い癖だ。私は今、事の真相を確かめずにはいられない。
隠匿系魔法は気づかれないことに意味がある。気づかれたら、そこでおしまい。対象の認識に作用する隠匿系魔法は魔力による干渉に弱く、乱れやすい。対象がそれを幻覚だと気が付けばすぐに破られる。だから魔力を込めた杖で床を突けば、穴を開けられるはず。
「よしっ!!」
振りかぶった杖に思い切り魔力を込め、床へと叩きつける。案の定、杖が触れたダンジョンの床はぶれ、そこから大きな穴が広がった。想定外だったのは、その穴が部屋全体に広がったこと。
「ちょわぁぁぁぁぁぁ!?」
こうしてエリオットは、黒く暗い穴にダイブを決行する羽目になった。
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