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 エリオットが立ち去った場所を眺めるアラン。しばらく眺めた後、頭をかきむしると、シーツの乱れたベッドに倒れ込んだ。仰向けになってパッチワークのような染み汚れた天井と向き合う。

 正直な話、エリオットがなぜ俺に、そしてヴァンパイアを探すことに執心するのか分からない。ヴァンパイアにさえ固執し、ヴァンパイアハンターなんて意味の分からない称号を名乗りさえしなければ、恐らく引く手あまたのはずだ。量、質共に優れた魔力、そして基礎となる肉体も適度に訓練されている。そもそも、ある対象に特別に効くように魔法を改変する、なんてことは生易しいことではない。術式の解明だけじゃない、対象のサンプルや発動の際に必要となる膨大な魔力、加えて術式の暴走を抑えられるだけの魔力操作の技術、その全てが必要となる。それをあの年でやってのけるというのだから恐ろしい。本人はプリーストだと言っていたが、そこに留まる実力ではないはずだ。


「それがヴァンパイアハンター、ね。」


 ヴァンパイアハンターと名乗る者がこれまでいなかったわけではない。代表的なのは「血月戦争」のヴァンパイアハンターだろう。

 何十年も前、魔王軍と人類の間で戦争があった。両者に甚大な被害を出しながらも、結果は人類軍の勝利。その要因はヴァンパイアハンターと名乗る男、アリエスタにあるとされている。驚いたことに、彼はヴァンパイアを従えて魔王を討伐した。その偉業を称え、各地にアリエスタの像が造られた。彼らの奮闘を機に、ハンターを目指す人間が増えた、なんて噂もある。しかし、当の本人のアリエスタ自体は戦争の後、忽然と姿を消し、その行方は知られていない。それから何十年も経っている。それに、ヴァンパイア自体その戦争以来目撃されていない。憧れるには遅すぎる……ただ、このまま放置するのは違う気がする。


「はぁ。」


 深くついたため息は壁に開いた穴から外へと漏れ出していく。まるで重い身体を誘い出すように。あの少女の後を追え、そう告げているかのように。

 アランが重い腰を上げるのは時間の問題だった。

 

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