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エリオットは街中の薄暗い路地の中を歩いていた。ここに訪れるのも久しぶりだ。ここにはアランの家がある。この間のスライムの一件以来、パーティーを組むことになったのはいいものの、あの男からの連絡も無ければ冒険者ギルドにすら姿を現さない。幸い、事前のストー……尾行から家の大まかな位置を把握している。今日という日はあの男を万年床から引きずり出してやる。
決意を胸にエリオットは生ごみや形容しがたい虫の蠢く路地を行く。そして、狭い路地、一部だけ変色した壁に手を当てると、思い切り突き破った。壁の先にはこじんまりとした部屋が広がっていた。ぶち抜かれた壁から部屋に光が差し込む。その光は当然、部屋の中で悠々自適な生活を送る男にも届いた。
「なっ……!!」
「おはようございます。」
口を開きかけては閉じ、という動きを何度か繰り返していたアランだったが、ようやく言うべき言葉が見つかったのか、エリオットに詰め寄る。
「おはようございます、じゃねえよ。人の家のドアぶち壊しといて、よくそんな気持ちよく挨拶できたな。」
「力の加減に失敗したことは謝ります。でも、音信不通のあなたも悪いんじゃないですか?」
「まさか本当に家まで突き止められてるとはな。今までの尾行はうまい具合に撒いてきたと思ってたんだけどな。」
「……気づいてたんですか?」
「当たり前だろ?あんな下手な尾行。ただ、俺への敵意がなかったから見逃してただけだよ。で、何だよ。朝っぱらから人ん家ぶっ壊したんだ、余程大事な用なんだよな?」
「今日こそクエストに行きますよ。ようやく今日、家まで突き止められたんです。もう、逃がしません。」
この路地は想像よりも広く、そして複雑だった。ここ二週間、路地をしらみつぶしに歩いてようやく見つけたのがここだった。何としても今日はこの男を説得してクエストを受けたい。
エリオットからすれば勝利宣言。しかし、二人の間には何か契約が交わされている訳でもない、例えば主従のような。故に、アランがその言葉に聞く耳を持つこともない。
「あー、あれだ。この間パーティーを組む、なんて言ったのは嘘、冗談、ジョーク。働くのはたまーにでいいんだよ。お前みたいな目標も無けりゃ夢もない。働かなくても死なないなら、働かない。それが俺のスタンスだ。勘違いさせて悪いな、他を当たれ。」
「……王都でヴァンパイアの目撃情報があったそうです。ここから王都までは遠い、お金が必要になるでしょう。だからクエストをですね……。」
無理をしていることが丸わかりな笑顔を浮かべながらたどたどしく告げるエリオット。彼女に追い打ちをかけるようにアランは告げる。
「なぜ、そこまでヴァンパイアにこだわるんだ。肌で感じる、お前は並みの人間じゃない。そして、こんな小さな街でクエストを受けてていい人間でもない。どうして幻想に近い存在を追い求める必要がある。」
「……私はどうしてもヴァンパイアに会わなければいけないんです。」
「その理由は?」
「もう……いいです。話しても意味のない、ことですから。あなたなら、って思ったんですけどね。」
言いなれているかのような事務的な口調、しかし最後の言葉には少し熱がこもっていた。流れ落ちる水滴を置き去りにするように、エリオットは走り去った。
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