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 アランとエリオットが過ごす街、メリエール。赤い煉瓦でできた建物の数々、鮮やかな緑の草原に面する外周は高い壁によって守られている。穏やかな気候、モンスターの少なさや治安の良さから老若男女様々な人が暮らすどこにでもある平凡な街。

 そんな街で暮らす冒険者達が凄腕であるはずもなく。この街に来る依頼はそう難しくはない。アラン達が挑むのも正式なパーティなら簡単な依頼だった……そう、正式なパーティーならば。


 ただでさえ無職なのに冒険者ギルドをうろつくことで不審者の扱いを受けているアラン。エリオットとの遭遇によって彼が冒険者ギルド内での信頼を失墜した日から数日。アランとエリオットは街外れの草原へと出てきていた。受けた依頼名は「大量発生したスライムの討伐」。スライムはそう強いモンスターではない。冒険初心者が力試しに挑むモンスターだ。ただ、彼らの強みはという所にある。剣撃ならまだしも、魔法無しの腕力だけで倒すことは厳しい。そのため、冒険者ではない一般の人間にとっては凶悪なモンスターとも捉えられている。そのための討伐依頼と言う訳だ。街の外に蔓延るスライムに怯える人々の笑顔のために依頼に挑んだ二人であった……が。


「お、おい!!スライムって取り外しできないのか?これ、不味い……どんどん来てるんだけど!!」

「こっちに来ないでくださいよ。というか、魔法使えば倒せますから、早くしてください。」


 両手両足にカラフルなスライムをまとわりつかせ、エリオットへ駆け寄っていくアラン。その歩みは背に積み重なるスライムによってどんどん遅くなっていく。エリオットはアランの表情から危険性を感じていないのか、呆れ顔でその光景を見つめている。 

 スライムが純粋な物理攻撃に強い、ということはよく知られている。これはどのスライムにも共通している特徴だ。では、スライムはどんな攻撃をしてくるのか。これに関しては、スライムの種類によって異なる。アランとエリオットが対峙しているのは、スライム=スライム。略してスライム。いたって純粋なスライムだ。その攻撃方法もそう難しいものではない。相手に体当たりする、少しヒリつく粘液を出す、そして。このように、スライムは単純でいて、それで恐ろしいモンスターといえる。特に、有効な攻撃手段を持たない彼らにとっては。


「魔法……?あぁ、それは……っておい、スライム登ってきてないくぁ……ゴボボボボ!!ボボボ…………。」 

 

 エリオットの声に足を止めたアランは、その隙を突かれ、1匹のスライムに頭を呑み込まれる。慌てふためき、酸素を使い果たしたアランの顔は青くなり、白くなっていく。


「ちょっ、何やってるんですか馬鹿ぁ!!」


 急いで駆けつけたエリオットがアランの頭をすっぽりと覆ったスライムを掴む。しかし、なかなか引き抜くことはできない。試行錯誤の末、アランが救出されたのは10分後のことであった。その頃には二人ともスライムに囲まれてしまっていた。

 

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