第2話 アニーの頼み事

 「ゴミ処理か、岩漿窯マグマキルン!」

 グランは、掃除当番で任されたゴミの始末の為に校舎裏へ来ていた。

 魔法で校舎裏の地面に、マグマでゴミを焼却する竈を作りゴミを処理した上で

再び校舎裏の地面を元に戻す。

 「色々できるけど、地味って言われれるんだよな地術って」

 先祖代々、地術師として大地の神に仕えて恩寵を得て来たグラン。

 グランは幼い頃から人は土と共に生きて、死ねば土に帰ると教わり最高の地術師たれと修行に励んで来た。

 「まあ、俺が大地の神様とコネがあるって言っても皆信じないだろうな」

 掃除当番を終えれば、授業もなく自由時間のはずであった。

 窓ガラスが煌き、アニーがグランの下に転移して来なければであったが。

 「お疲れ様グラン♪ 今日はもう予定はないでしょ♪」

 アニーが優しい笑顔でグランに微笑む。

 「君が俺の予定なんだろ、アニー?」

 グランはアニーから逃げられなかった。


 「流石、グラン♪ 光速行動ライトスピードの魔法で仕事を片付けた甲斐があったわ♪」

 「アニーが使う光の魔法も大概だよね? 王家の人達も超人ぞろいなんだけど?」

 自分も凄いと言われるが、こっちは努力と神様の加護だから常人の範囲だとアニーを見て思うグランであった。

 「これでも王家じゃ十番目よ、それに家は全く地術と無縁だし」

 「俺は、地術以外は全く駄目だから羨ましいよ」

 「グランって、一族全体が大地の神様に独り占めされてるんじゃない?」

 「それはそれでまあ、仕方ないかな?」

 グランとアニーは、互いにない物を見ていた。


 「それはそれとして、晩御飯のお買い物に行きましょう♪」

 アニーがグランに手を差し出したので、グランはその手を取った。

 「それじゃあ、鏡面転移ミラーリープ♪」

 アニーが魔法を使うと、二人は光となって窓ガラスに吸い込まれた。

 次に二人が出て来たのは、王都のメイン通り。

 「一応王女様って、自覚はあるんだよね?」

 「ええ、王女だから一番信じられる人と一緒にいるの♪」

 「そう言われると弱いな、まったく」

 グランは魔法で、自分達に敵意のある存在符が地面の上に盾居ないかを探る。

 「王位何か私に絶対回ってこないのにちょっかいをかける悪い大臣も、私の見た目や肩書だけで国内や周辺国の王侯遺族も悪徳商人も犯罪組織もこれまでに全部二人でやっつけて来たじゃない♪」

 アニーがグランに抱き着く。

 

 「そうだけど、敵ってのはいつどんな輩が来るかわからないからね?」

 「うん、グランが地面から索敵してくれたように私も空から索敵してるから♪」

 アニーが空の太陽を指さす、太陽は彼女の目も同然だった。


 「グランが私を悲しませるような事はしないし、私がさせない♪ 私もグランを悲しませないから、グランも防いでね♪ 神様にも私達を裂かせないから♪」

 アニーは太陽のように眩しく微笑んだ、その笑顔がグランには愛しかった。

 「ああ、俺達は太陽と大地のペアだからな♪」

 グランがアニーに頷く。

 「じゃあお互いが悲しまないように、晩御飯のお買い物をしましょう♪」

 「わかったよ、いつもの食材店だろ?」

 グランとアニーが腕を組んで、通りを歩いて目的地を目指す。

 二人は行きつけの食材店でパンや肉などを買って店を出る。

 「グラン~♪ 今日は何を作ってくれるの?」

 アニーがグランに献立を尋ねる。


 「トマトと肉のスープパスタだよ、サラダは任せた♪」

 「うん♪ 簡単なのは私、複雑なのはグランってナイスな役割分担ね♪」

 「パンや麺とか主食になるのを作るのは得意なのに、他は苦手なのかな?」

 アニーの料理の腕がなかなか上達しないのがグランの悩みだった。

 「煮るのとか焼くのは得意よ、何となく熱を入れる感じはわかるから♪」

 「そこに至る過程もできて欲しい、俺に何かあったら怖いから」

 「じゃあ、練習するから付き合う時間を作ってよね?」

 「わかったよ、包丁で指を切るなよ?」

 二人は夕方の通りを歩き、とある二階建てのレンガ造りの建物に入った。

 「お義姉様ねえさま、ただいま帰りました♪」

 「姉さん、ただいま」

 入った建物には『アースマイト地水術事務所ちすいじゅつじむしょ』と書かれた看板が掲げられていた。

 「二人共、お帰りなさい♪」

 事務机と本棚が並べれた一階の事務所で二人を出迎えたのは、紫のローブを着た

長い茶髪に眼鏡をかけた可愛らしい女性であった。

 「姉さん、先に家に行ってるよ?」

 「うん、二人共ご飯よろしくね♪」

 「任せて下さい、お義姉様♪」

 グランは姉であるジュエルに告げると、アニーを連れて事務所の奥の隠し階段を開けて降りて行く。

 グランとアニーは、グランの姉のジュエルが営む魔法使い事務所の地下に下宿していた。

 小綺麗な地下の居住スペースに帰宅した二人は、台所近くの食卓に荷物を置く。

 「さて、手洗いうがいをしたら作ろうか?」

 「オッケ~♪ 茹でるのは任せて♪」

 「サラダとかも頼むよ」

 二人は身支度を済ませると、慣れた手つきで作業を開始した。

 しばらくすると、料理が完成し食卓の上には器に盛り付けられたサラダとトマトのスープパスタが載せられていた。


 料理が完成した頃合いを見計らってか、ジュエルも地下にやって来る。

 「姉さんはいつもタイミングが良いな」

 食卓に着いたグランが呟く。

 「それは勿論、タイミングを計って来てるから♪」

 「流石は学園の準主席卒業生♪」

 「うん、フレアには負けたけどね♪」

 ジュエルはアニーの姉である第八王女の名を上げてから席に着く。

 「じゃあ、皆で食べようか?」

 「神に感謝し、いただきま~す♪」

 アニーの合図に合わせて食事が始まる、全員がまず一杯目のスープパスタを食べ終えてから口を開く。


 「うん、美味しい♪ 流石は我が弟」

 ジュエルがグランを褒める。

 「どういたしまして」

 グランは気にしない、何せジュエルは自分の料理の師でもあるから。

 「うん、美味しいよグラン♪」

 アニーは素直に褒めるもグランは黙る。

 「照れてるな、弟よ♪ ところで、アニーは例の話はしたの?」

 ジュエルがアニーに話を振る。

 「これからグランに頼む所です♪」

 アニーが微笑む。

 「え、何を企んでるんだよアニー?」

 グランは嫌な予感がした。

 「あのね? 学園の課題でダンジョン踏破に付き合て欲しいの♪」

 アニーがグランに面倒な頼みごとをしてきた。

 「ダ、ダンジョン! 何の課題?」

 「冒険学だよ♪」

 さらっと告げるアニーにグランは呆れた。


 「これは、俺が断れないタイミングで言って来たよな?」

 「グランなら断らないって、確信してるから♪」

 アニーは確信犯だった、ジュエルはそんな二人をにやにやと眺めている。

 「ああ、だから古代神殿の事を私に聞いたのね♪」

 「……ああ、やっぱり姉さんも絡んでいたのか」

 グランの外堀は埋められていた。

 「グラン、決断の時よ♪」

 ジュエルがニヤリと笑いながら宣告する。

 「わかったよ、アニーの課題に付き合うよ!」

 グランは覚悟を決めた。

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