藍色に染まる

秋水

1



大学2年の春休みは酷く憂鬱だった

きっかけは些細なものだったが、それが今まで波一つたっていなかった水面に大きな波紋をもたらした

極小さな事柄が大きく拡がっていった

水に流せば良かったがどうしても出来ず、濁っていくばかりだった


部屋のなかで徐々に沈んでいく自分は醜く惨めさを増していた

世界と逆行し私の世界は夜が長くなっていった

ある昼下がりふと目を覚ました

その日はよく晴れていて空の青さが目に染みる様だった


何故か分からないがそのとき、その青を感じたとき部屋から出たいと思った

春休み一度も帰省していないことを思いだし、普段使わない大きな鞄を取り出した


深い翠のスカート、生成り色のセーター、レースを施された下着

彩り豊かになった世界を閉じ込め、私は部屋から静かに出た


時折視線を上げた際にみられる夕景は綺麗だったが今の自分には過度な美しさだった

時間の経過があの青を藤色に変えたことが少し嫌だった

しかし、その藤色もそのうち夜に侵されていった


汽車からぼんやりと車窓の外を眺める

外はまだあの藤色が支配していたが少しづつ澄んだ明るさを失っていた


黒が完全に世界を纏う直前、夕と夜との狭間の極々限られた時間世界はどうなるのだろうか


明確な境界線があるのか、それともグラデーションが繰り広げられるのか


窓硝子の向こうには藍色に染まった世界があった

すぐに黒に飲み込まれる藍色を横目に藍の国を去った






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藍色に染まる 秋水 @kakuyoshio77

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