第45話 紅葉と瑞羽ちゃんのデートを見張った:後編
本日二回目の投稿です
=====
当然、時間差で追いかけたものだから追いつけようはずもなかった。
瑞羽ちゃんなら、どこへ行くだろうか。
しかし館内か館外かもさっぱり分からず、てんで困り果てた私は一度館外へ躍り出て、青葵に電話したのだった。
「青葵…。瑞羽の場所、分かる?」
「安心しろ。止まりゃすぐだ。もうちょっと待っとけよ」
「ありがと」
相変わらず、頼りになる。
「なあ、凜花。お前さ、凜花なんだろ?…頼むから、もう瑞羽には話してやってくれねえか」
「…もうちょっとだけ待って」
「もうちょっとっていつまでだよ」
「私の発作が起こって、隠しきれなくなるまで」
「そりゃ無理だ。発作の後じゃ、瑞羽が壊れちまう」
「…私がなんとかするから」
「…なあ、音。お前本当にどういうつもりなんだよ。くじらの小部屋で私達を焚き付けて、復讐のつもりじゃないってことくらいわかるがよ」
彼女は、心底困り果てたかのように言った。
「復讐のつもりなんかじゃないよ。私自身のことに決着をつけるためにやってるんだ」
「…そりゃあ、お前にも、色々あったのは分かるがな。許してやってくれねえか」
「だから、復讐じゃないんだって。私自身のための、決着」
私がそういうと、青葵は溜息をついて言った。
「それじゃあ、音。お前察しわりいよ」
「え?」
「ストーカーしてる間、瑞羽ずっと苦しそうなんだよ。俺、あいつをそろそろ、解放してやりてぇんだ」
「…」
「まあ、あいつに付き合ってやってる俺も悪いがよ。だけど俺は瑞羽に言うぞ。お前の正体、家に入り込んででも暴いて、瑞羽にバラす。あいつを、解放するためにも」
「じゃあ、いいよ。そのつもりはなかったけど、私が直接言うから。…ありがとね。照樹」
「…おう。凜花。あいつは送った座標のところにいる。どうやら、駅に行って帰るつもりらしい。とっ捕まえて、決着、さっさとつけちまえよ」
五分ほどは走っただろうか。既に周辺は暗くなっていたが、瑞羽ちゃんの揺れる金髪は思いの外目立っていた。
「瑞羽ちゃん…待って!」
彼女は海沿いの道路を歩いていた。対岸のランプは何故か赤ばかりで、振り返った彼女の顔は、半分表情も読み解けないほど、赤く照らされていた。
「瑞羽ちゃん、みつけた」
「音ちゃん。つけてきてたんだ」
しかし、そういう彼女には驚きの色は一切見られなかった。それどころか、生気すら。
「…どうして?」
「へ?」
「どうして、つけてきたの?」
「それは…瑞羽ちゃんが心配だったから」
「なら必要ないよ。私は、凜花のところに向かうだけだったんだから。でも、よかった。入れ違いにならなくて」
彼女はそういって初めて、無邪気に笑った。
「凜花のところって、どこ?どこに、行くつもりだったの?」
「何言ってるの?そこだよ。音ちゃんが今いる
…ああ、とうとう終わったのか。こうもあっけなく、私の勝負の決着がついてしまったとは。
私の感慨も虚しく、瑞羽ちゃんは続けて言った。いや、怒鳴った
「ごめんだけど、時間がないから。今、私が凜花に会えても、一緒に入れる時間は一年間もないんだよ!」
横浜の建築物群のライトは夜が更けても収まることはなく、港は煌々と照らされていた。
「ねえ、音ちゃん。教えて。凜花は、音ちゃんなの?」
「違う、違うよ。凜花の本当の名前は
私がその言葉を告げると、瑞羽ちゃんは一つ一つの文字と発音をなぞるように「オソノイ…オソノイ」と繰り返していた。
そして、やがて彼女は顔を上げると、こう言った。
「会いたい…オソノイに会いたい!」
彼女はそのとき初めて私の顔を見て言った。死の懇願を。
「もちろん会わせてあげるよ。でも、最後に私の話を聞いて」
「紅葉さんも音ちゃんも、皆そればっかり。別にオソノイと私が出会ったら何もかも消えるってわけじゃないんだし」
いいや。知れば、全て消え去るのみ。だからこそこれは、私のけじめなのだ。
瑞羽ちゃんは氷のような眼差しを向けてきたが、「これはオソノイも関係していることだよ」と告げると、一応聞く耳を持ってくれたようだった。
「私さ、オソノイと小園井音、
「どうゆうこと?」
「くじらの小部屋、観たんでしょ?」
あそこには未来の情報も沢山書いてある。辻凜花が未来人であることは、誰にだって分かることだ。
それでも、瑞羽ちゃんは未来人など想像の範疇外だったようで、心底疑問そうにこういった。
「なんで、未来の話、それも引きこもって、孤独に死んでいく話なんて書いたの?」
彼女にとってあのオソノイのエッセイは、私が書いた物語のように写ったようだった。
「あそこに書いていたのは、本当の物語だよ。未来のオソノイの、物語。元々、あそこにも書いてある通り、オソノイは何もできずに死んでいったかわいそうな人だったんだ。だから、過去に戻った時、最初は未練を全部晴らしてやろうと思ってたの。やりたいことして…お別れ会も開いてもらって。そんな日々を送ろうと」
「そう…なんだ。でも、オソノイはかわいそうな人なんかじゃないよ。一人ぼっちだった私を、助けてくれたんだもん。だから、私は…」
「でも、それでも最後には、一人のまま死んでいった」
「それは…。違う、違うよ!私なら、そんな風に置いていったりしない」
彼女はそういうが、結局のところ、彼女は私を一人にした。くじらの小部屋の辻凜花の正体を知っていたにも関わらず。
「でも、ずっとこっちで過ごして、友達が増えて、Vtuberもやって、次第に昔のことはどうでもよくなってきたの」
「………」
「だからさ、私。今のイケイケの小園井音として欲望のままに生きていくべきなのか、オソノイの願いを叶えてあげるためにいきていくべきなのか、瑞羽ちゃんに決めてもらうことにしたの」
私は最後の一言を、冗談めかして言った。
「そうなんだ」
…彼女には全く、響かなかったようだが。
私は正体がバレたら、潔くオソノイに譲るでいたにも関わらず、少し欲が出て、瑞羽ちゃんに尋ねてしまった。傷つくことになると知りながら。
「だから瑞羽ちゃん。決めて。私は小園井音なのかオソノイなのか」
彼女は迷う様子もなく、けれども初めて、小園井音を両目に真っ直ぐ見据えて、言った。
「私はオソノイに救われたんだ。オソノイのおかげで、今まで生きてこられたんだ。彼女が大切な友人も失って、ずっとかわいそうなんだっていうなら、助けてあげたいよ。だから音ちゃん。ごめん。私は彼女の傍に死ぬまでいてあげたい」
その後彼女は小さく、「音ちゃんとの日々も、楽しかったけど」と付け加えた。
私、あの紅葉さんとの口論も、聞いちゃってたんだけど。
「うん。ありがとう。スッパリ言い切ってくれて」
「えーと、オソノイ?」
「………待って、突然そんな、キャラが変わるわけじゃないから」
私は生き方とかの話をしてるのであって、性格の話をしてるんじゃないから。
えっと、オソノイは瑞羽ちゃんと何したいんだっけ。そうだ。お別れ会。私は、瑞羽ちゃんと二人で、お別れ会をしてから死にたいんだった。あと、オソノイの趣味はVtuber鑑賞で、服は、各季節につき一着で…。
私がそこまで思い至ると、心臓がやたらと痛むことに気がついた。これが、失恋の痛みなのだろうか。
いや、これ違う。最近食らってなかったけど、これ発作じゃん!
「オソノイ!どうしたの!オソノイ!」
という瑞羽ちゃんの悲鳴を聴きながら、私は地面に倒れ伏したのだった。
=====
次話ミスって投稿してて、20人くらいの方に読んで頂いていましたが、忘れてください笑
明日エンディングです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます