番外編:小林リリーに『メトロトレミー』を説明する

まえがき


なんかこれまで閑話といいつつ本編関係ある話が多かったので…。

本編全く関係ない話です。


一応『メトロトレミー』がどんな話かだけ書いておこうと思って…。


本日一回目の投稿です。


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クラスの終礼が終わり、愛弓さんや紅葉さんが来るまでの間、私はいつものように待っていた。


そうしていると、三日に一度くらい、小林さんが声をかけてくる。

私は知らなかったが、彼女はどこかの国と日本のハーフらしい。


「瑞羽ちゃんの舞台凄かったね」

そういえば今日は文化祭終了直後の投稿日である。どうやら彼女は感想を言いに来てくれたようだった。


「…時の神である小林さんに褒められたら彼女も喜ぶと思うよ」

「それいい加減怖くなってきたんだけど」

「じゃあ辞めよっかな」

「一応言っておくけど、怖くなる前は若干きもがって、その前はちょっと嫌いになりかけてたんだからね?」

「言ってくれればいいのに」

「言ってたよ!」


小林さんはだけれど、怖がる様子は一切なく話を続けた。

「それにしてもさ、今日ずっとテンション高くなかった?」

私はてっきり彼女が親切に先週の文化祭の舞台の感想を言いに来たのだと思っていたが、どうやら私の態度を不審がっていたらしい。


しかし、私のテンションが高かったことは確かで、そこには明確な理由がある。

「いや、『メトロトレミー』のアニメ放映の日時が決まってさ」

まあ、もう既に私は観たことあるんだけどね。楽しみなのは、主にネットの反応だ。


「あーそれ、愛弓さんが舞台やってた奴だよね。アニメ化なんて凄いね!」

「そうそう。愛弓さんの奴って認識は珍しいと思うけど」

「ごめん、舞台とか詳しくなくて…」

純粋に愛弓さんの我が校での知名度に驚きである。


「実は『メトロトレミー』ってね、原作があるんだよ」

「そうなの?小説?」

彼女は一切聞いたことがなかったような反応を見せた。おそらく中学生の頃は一切オタクコンテンツに触れてこなかった人間なのだろう。


「『メトロトレミー』は基本小説とSNSと動画サイトの三つで広がった感じだね。バズったとかじゃなくて、本当に小説とSNSと動画サイト、それぞれ全部観ないとストーリーの全貌がわからないんだよ」

そういえば、後追いが更に生まれるかと思ったけど『メトロトレミー』以外はあんまりみないな。


「なんか、大変そうなコンテンツだね」

まあ、流行らなかった原因は完全にそれだろう。


「追うの大変ではあるね、でもね、私と紅葉と愛弓、それのおかげで出会ったからねぇ」

「いいなぁ。私も舞台とか行ってたらそんな今頃紅葉さんとも知り合ってたのかなぁ」

「舞台のワンチャンにかけるよりはSNSでメッセージした方が早いと思うよ」

これは本当。というか舞台で声をかけたら紅葉さんキレると思う。


「それもそっか。ところでねえ、どんなメッセージ送ればいいかな?」

知らんわ。


「まあでも、知り合って何話したいかによるんじゃない?」

「何話したいかかぁ…なんでも?とにかく、好みの話」

「紅葉さんの好みかぁ…愛弓さんの話?」

「じゃあいっかなぁ」

まあ私だって、紅葉さんと二人で話す時は大体Vtuber界隈の話か、Youtubeの分析情報の話だ。それが楽しいんだけど。


私も数字が大好きな人間で、紅葉さんも向上心が強い人間だから、仕事の話だと気が合うんだよね。


しかし今は紅葉さんのことなどどうでもよい、

「それで、『メトロトレミー』の説明の続きなんだけどさ」

「いや、もういいよ」

小林さんが迷惑そうな顔で告げるが、逃がすつもりはない。


「まず『メトロトレミー』は群像劇なのね」

「おーい、小園井さん?」

「群像劇っていうのは主人公がいっぱいいる物語のことね」

「へー」

私が語り続けると、小林さんは聞き手モードに入ってくれた。


「まず基本的に単に『メトロトレミー』って題された作品は亜萌天子が主人公なの。で、そこに辻凜花と阿古照樹が出てくるんだけど、その二人が主人公の『メトロトレミー』もあるの。続編っていう形じゃなくね」

「ふーん」

小林さんはVtuber辻凜花のことは知らなかったらしい。ちょっと寂しい。


それにしても興味なさそうだなぁと思っていたが、一番大事なところを話していなかった。

「そういえば、どんな話かまだ説明してなかったね」

「頼んでもないけどね」

「まず、主人公たちにはある共通点があるんだ。それは社会から迫害されていること。そしてそんな人達だけが、「地下鉄」に呼ばれるんだ」

「その地下鉄ってのは?」

お。乗ってきた。


「まずね、「地下鉄」に選ばれた人間は、寝ている間、地下鉄に一人佇む人物を眺める夢を見るの。そして地下鉄に入るタイミングがあると、そのとき地下鉄の住民になるの。その地下鉄が『メトロトレミー』っていう名前なんだけど」

「なんか、怖い話?」

「いや、実は『メトロトレミー』から出るのは簡単なの。地下鉄に乗ればいいだけ。でも、そこから出た人たちは、皆何かしらの能力を得てるんだ。でも結局社会から避けられてるから、同じ能力を持つ人達が集まる『メトロトレミー』に集まるっていう話。あ、でもこの社会に出て『メトロトレミー』に戻るまでの無双タイムも面白いんだけどね。そこから地下鉄とは何なのか、何故導かれたのかを突き止めるために皆で情報収集するんだよ」

私の舌も回ってくる。


「そっから戦うの?」

さっきから何故そんな話を単純化させようとするのだろう。『メトロトレミー』はバトルものでもホラーでもないのだ。あえて言うなら…ヒューマンドラマかな。


「戦ったりもするけどね。普通に仲良くなったりもするかな」

「何のために戦うの?」

「極めて簡単に話すと、悪の能力者がいるんだよね。トレミーの48星座の中のいずれかの星座の能力を持った人間の中には悪人もいるから、同じ能力者として戦うんだ」

「ふーん。で、なんでなの?」

「え?なんでって?」

「いや、最終目標の一つとして、自分達が誘われた地下鉄の謎みたいなのを明らかにすることもあったわけでしょ?」

「…まだ謎のままだよ」


私がそういうと、小林さんは驚いた顔をした。

「え?もう五年くらい続いてるよね?」

「うん。でも謎は一つも明らかになってないね」

「そ、そうなんだ」

「それはそれでいいんだよ。みんな考察するのが楽しいんだし」

もういい加減皆薄々気づいてるんだよ!在野さんに風呂敷を上手に畳む能力がないことくらい!


今回のトークは一切響いた感じがしなかったが、小林さんは意外なことを言った。

「ふーん。じゃあさ、今度貸してくんない?一回読んでみる。アニメも、観てみたいし」

「アニメは観ない方がいいと思うけど、興味持ってくれた?」

「んにゃ、意外と小園井さんって話しやすくて面白い奴だなって思っただけ」

「なんだそりゃ」


私は全く理解出来ていなかったのだが、どうやら彼女の中で何か納得があったらしく、「じゃあね」と一言言い残すと、小林さんは帰ってしまった。よく分からないことばっか言われてムカついたので、これからも彼女を時の神と呼び続けようと私は決意したのだった。

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